10月18日(木)ヤーノシュ・コヴァーチュ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
~第73回東京オペラシティ定期シリーズ~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.リゲティ/ルーマニア協奏曲
2. /永遠の光

東京混声合唱団
3. /アトモスフェール
4. /レクイエム
S:天羽明惠/MS:加納悦子/東京混声合唱団
東フィルがリゲティの曲だけの意欲的なプログラムを組んだ。東京オペラシティシリーズでは現代ものをよく取り上げるのだろうか。東混の合唱が加わるというのも魅力。
プログラムの最初に置かれたルーマニア協奏曲は、亡命する前の初期の作品。共産主義政権の管理下で書かれた曲ということだが、リゲティのイメージとは全く異なる、民族楽派的で、バルトークのオケコンの民族色を更に濃くしたような音楽。第1楽章冒頭の弦の歌が、熱くて濃厚で雄弁。ピットに入ることの多い東フィルの面目躍如。民族色豊かな音楽を、体温を感じる親密な演奏で語りかけてきた。歌や踊りの要素を散りばめ、「自然倍音列を思わせる」と解説に書かれたホルンの印象的な扱いなど、気のきいたアイディアも取り入れた、短いながらも楽しめる音楽を、コヴァーチュ指揮の東フィルは、歌心と躍動感溢れる演奏で文字通り楽しませてくれた。
2曲目の「永遠の光」は東混によるアカペラのステージ。こちらはリゲティ色全開。16声部で書かれているということだが、キーボード上に置き換えれば全ての音が同時に鳴っている感じで、クラスターのような塊で聴こえてもよさそうだがそうはならず、それぞれのパートが明瞭に聴こえてくるのは東混の精度の高さだろうか。超多声部の響きによる様々なテクスチュアがグラデーションを呈して変幻する。もう40年以上も前に書かれた曲だが、聴いていて未知との遭遇の気分を体験した。音のない宇宙で耳を澄ましていると聴こえてくる心の声を聴いているよう。無限の広がりをもつ空間で起こったとても個人的で親密な不思議な体験。こんな次元にまで聴く者を連れて行ってくれたのは、16声部による精巧な響きを実現した東混の力量に依るところも大きい。盛大な拍手とブラボーを浴びていた。
続く「アトモスフェール」は、今聴いた合唱による「永遠の光」のオーケストラバージョンのような音楽。リゲティの演奏にはオーケストラの精度が欠かせないが、東フィルは相当に高いレベルの精度を持ち合わせているうえに、1曲目で聴かせてくれたような人間味のある温かな響きも持っていて、音楽が、無機質ではない血のかよった有機体として人の心にシグナルを送ってきた。
こうした優れた合唱とオケが一体となり、2人のソリストも加わった大編成でのレクイエムに期待は高まったが、これは一度聴いただけではつかみきれなかった。「レクイエム」という音楽の性格もあるのだろうか、出てくる音を押し殺すような、沈黙に支配された世界。響きは、オケと合唱、ソリストまでもが渾然一体となった同質さが勝り、それぞれの個性は聴こえてこないし、ソリスティックな朗唱なんてもちろんない。ドラマチックな展開なんて最初から期待するべきじゃなかったが、あまりのストイックな世界には戸惑いを禁じえなかった。でも会場は大きな拍手にブラボーも飛んだ。
会場で配られたパンフレットは曲目解説も詳しいし、リゲティを多方面から考察した様々な寄稿や指揮者のコヴァーチュとコンマスの荒川英治さんのリゲティにまつわる往復書簡などから構成された充実した内容。会場で全てを事前に読むことはできなかったが、リゲティがどんな作曲家であるかを知る上でとても助けになった。
~第73回東京オペラシティ定期シリーズ~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.リゲティ/ルーマニア協奏曲

2. /永遠の光


東京混声合唱団
3. /アトモスフェール

4. /レクイエム
S:天羽明惠/MS:加納悦子/東京混声合唱団
東フィルがリゲティの曲だけの意欲的なプログラムを組んだ。東京オペラシティシリーズでは現代ものをよく取り上げるのだろうか。東混の合唱が加わるというのも魅力。
プログラムの最初に置かれたルーマニア協奏曲は、亡命する前の初期の作品。共産主義政権の管理下で書かれた曲ということだが、リゲティのイメージとは全く異なる、民族楽派的で、バルトークのオケコンの民族色を更に濃くしたような音楽。第1楽章冒頭の弦の歌が、熱くて濃厚で雄弁。ピットに入ることの多い東フィルの面目躍如。民族色豊かな音楽を、体温を感じる親密な演奏で語りかけてきた。歌や踊りの要素を散りばめ、「自然倍音列を思わせる」と解説に書かれたホルンの印象的な扱いなど、気のきいたアイディアも取り入れた、短いながらも楽しめる音楽を、コヴァーチュ指揮の東フィルは、歌心と躍動感溢れる演奏で文字通り楽しませてくれた。
2曲目の「永遠の光」は東混によるアカペラのステージ。こちらはリゲティ色全開。16声部で書かれているということだが、キーボード上に置き換えれば全ての音が同時に鳴っている感じで、クラスターのような塊で聴こえてもよさそうだがそうはならず、それぞれのパートが明瞭に聴こえてくるのは東混の精度の高さだろうか。超多声部の響きによる様々なテクスチュアがグラデーションを呈して変幻する。もう40年以上も前に書かれた曲だが、聴いていて未知との遭遇の気分を体験した。音のない宇宙で耳を澄ましていると聴こえてくる心の声を聴いているよう。無限の広がりをもつ空間で起こったとても個人的で親密な不思議な体験。こんな次元にまで聴く者を連れて行ってくれたのは、16声部による精巧な響きを実現した東混の力量に依るところも大きい。盛大な拍手とブラボーを浴びていた。
続く「アトモスフェール」は、今聴いた合唱による「永遠の光」のオーケストラバージョンのような音楽。リゲティの演奏にはオーケストラの精度が欠かせないが、東フィルは相当に高いレベルの精度を持ち合わせているうえに、1曲目で聴かせてくれたような人間味のある温かな響きも持っていて、音楽が、無機質ではない血のかよった有機体として人の心にシグナルを送ってきた。
こうした優れた合唱とオケが一体となり、2人のソリストも加わった大編成でのレクイエムに期待は高まったが、これは一度聴いただけではつかみきれなかった。「レクイエム」という音楽の性格もあるのだろうか、出てくる音を押し殺すような、沈黙に支配された世界。響きは、オケと合唱、ソリストまでもが渾然一体となった同質さが勝り、それぞれの個性は聴こえてこないし、ソリスティックな朗唱なんてもちろんない。ドラマチックな展開なんて最初から期待するべきじゃなかったが、あまりのストイックな世界には戸惑いを禁じえなかった。でも会場は大きな拍手にブラボーも飛んだ。
会場で配られたパンフレットは曲目解説も詳しいし、リゲティを多方面から考察した様々な寄稿や指揮者のコヴァーチュとコンマスの荒川英治さんのリゲティにまつわる往復書簡などから構成された充実した内容。会場で全てを事前に読むことはできなかったが、リゲティがどんな作曲家であるかを知る上でとても助けになった。
美しさと複雑さが入り交じるようなリゲティの曲、素敵でした。
東フィル、この前の「ピーターグライムズ」に続いて素晴らしい演奏でした。それにこのお客の多さと熱い反応、こういうのがオケを育てていくのかな、と感じました。