11月25日(金)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527
~北とぴあ国際音楽祭2016~
北とぴあ・さくらホール
【配役】
ドン・ジョヴァンニ:与那城 敬/ドンナ・アンナ:臼木あい/ドン・オッターヴィオ:ヴィオ:ルーファス・ミュラー/ドンナ・エルヴィラ:ロベルタ・マメリ/レポレッロ:フルヴィオ・ベッティーニ/マゼット:パク・ドンイル/ツェルリーナ:ベツァベ・アース/騎士長:畠山 茂
【管弦楽&合唱】
寺神戸 亮 指揮レ・ボレアード
【演出】佐藤美晴
【美術・衣装】大島広子【照明】望月太介
北とぴあ国際音楽祭の目玉であるレ・ポレアードによるオペラ公演の今回の演目、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」は、あっぱれと声を上げたくなる公演だった。何よりもモーツァルトの奇跡的な音楽の魅力がストレートに伝わってきた。
もちろん上演に関わった全ての人達の力によるものだが、つくづく感じ入ったのは寺神戸亮率いるレ・ボレアードの実力だ。熱さと冷静さ、大胆さと細やかさ、厳しさと優しさといった表現の全てを備え、雄弁に語り、歌い、訴えてきた。オケが主役の場面はもちろん、アリアの伴奏でも、そしてレチタティーヴォ・セッコで、チェロ一人で奏されるたった一つの音でさえ、登場人物の感情や、複数の人物で織り成される人間模様を実にリアルに伝えてくる。人の心の奥底にある小さな感情の起伏も見逃さず、まさにモーツァルトが登場人物一人一人に与えたキャラクターが、生き生きと体現されていた。
そんな素晴らしいオーケストラにエスコートされた歌手陣は、それぞれが持ち役を生き生きと歌って演じた。とりわけ素晴らしかったのは、ドン・ジョヴァンニ役の与那城敬と、ドンナ・エルヴィラ役のロベルタ・マメリ。与那城は、堂々とした立ち居振舞いと張りがあり力がみなぎる艶やかな声で、ドン・ジョヴァンニの大胆不敵さも、女を口説く男の色気も見事に表現した。長身でイケメンの容姿も役に相応しい。指揮の寺神戸さんが弾く(!)マンドリン伴奏で歌ったセレナータだけは、媚びすぎでいやらしくなってしまった。与那城さんなら、さらりと魅力を匂わせるだけで十分。
そして素晴らしかったマメリのエルヴィラ。ドン・ジョヴァンニへの愛憎入り混じる思いを凛とした気高さを保ちつつ、心のヒダに入り込むようにデリケートで人間的に表現する。2幕のアリア、「あの人でなしは私を欺き」 なんて、これまでにこんな素晴らしい演奏を聴いたことがあっただろうか、と思うほどの絶品。メリスマにも気品と深い感情が込められ、聴くほどにどんどん惹きつけられた。
その他、美しい声と滑らかな歌唱で品のいい優しさを醸し出したドン・オッターヴィオ役のルーファス・ミュラー、異界からの客人としての凄みを聴かせた騎士長役の畠山茂の歌も良かった。臼木あいのドンナ・アンナも健闘していたが、臼木なら更に大きな器から強いオーラを出せるはず。
第2幕の石像のシーンからどんどん緊迫度を増し、息もつかせぬ高いテンションとリアリティーで幕切れへと進んで行った。オケ、歌手、セミ・ステージという制約のなかで照明や投影効果、人の動きをうまく使った佐藤美晴の演出、これらが総動員された賜物だ。但し、最後の最後で、地獄落ちしたはずのドン・ジョヴァンニが、ピリオドオーケストラのステージに置かれたモダンのグランドピアノを弾くフリをするシーンは、せっかくステージで最後の決め台詞が歌われるシーンに水を差してしまう。序曲でも同じシーンがあり、「全ての物語はドン・ジョヴァンニの意のままに操られた」とでも言いたかったのだろうか。
けれど幕となって拍手をしていたときはポジティブな印象だけが残っていて、帰り道でも「モーツァルトって素晴らしい!」と感動が蘇って何度も鳥肌が立った。これはモーツァルトのオペラで良い上演に接したときの現象。よくぞここまでやってくれた!
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【管弦楽&合唱】
寺神戸 亮 指揮レ・ボレアード
【演出】佐藤美晴
【美術・衣装】大島広子【照明】望月太介
北とぴあ国際音楽祭の目玉であるレ・ポレアードによるオペラ公演の今回の演目、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」は、あっぱれと声を上げたくなる公演だった。何よりもモーツァルトの奇跡的な音楽の魅力がストレートに伝わってきた。
もちろん上演に関わった全ての人達の力によるものだが、つくづく感じ入ったのは寺神戸亮率いるレ・ボレアードの実力だ。熱さと冷静さ、大胆さと細やかさ、厳しさと優しさといった表現の全てを備え、雄弁に語り、歌い、訴えてきた。オケが主役の場面はもちろん、アリアの伴奏でも、そしてレチタティーヴォ・セッコで、チェロ一人で奏されるたった一つの音でさえ、登場人物の感情や、複数の人物で織り成される人間模様を実にリアルに伝えてくる。人の心の奥底にある小さな感情の起伏も見逃さず、まさにモーツァルトが登場人物一人一人に与えたキャラクターが、生き生きと体現されていた。
そんな素晴らしいオーケストラにエスコートされた歌手陣は、それぞれが持ち役を生き生きと歌って演じた。とりわけ素晴らしかったのは、ドン・ジョヴァンニ役の与那城敬と、ドンナ・エルヴィラ役のロベルタ・マメリ。与那城は、堂々とした立ち居振舞いと張りがあり力がみなぎる艶やかな声で、ドン・ジョヴァンニの大胆不敵さも、女を口説く男の色気も見事に表現した。長身でイケメンの容姿も役に相応しい。指揮の寺神戸さんが弾く(!)マンドリン伴奏で歌ったセレナータだけは、媚びすぎでいやらしくなってしまった。与那城さんなら、さらりと魅力を匂わせるだけで十分。
そして素晴らしかったマメリのエルヴィラ。ドン・ジョヴァンニへの愛憎入り混じる思いを凛とした気高さを保ちつつ、心のヒダに入り込むようにデリケートで人間的に表現する。2幕のアリア、「あの人でなしは私を欺き」 なんて、これまでにこんな素晴らしい演奏を聴いたことがあっただろうか、と思うほどの絶品。メリスマにも気品と深い感情が込められ、聴くほどにどんどん惹きつけられた。
その他、美しい声と滑らかな歌唱で品のいい優しさを醸し出したドン・オッターヴィオ役のルーファス・ミュラー、異界からの客人としての凄みを聴かせた騎士長役の畠山茂の歌も良かった。臼木あいのドンナ・アンナも健闘していたが、臼木なら更に大きな器から強いオーラを出せるはず。
第2幕の石像のシーンからどんどん緊迫度を増し、息もつかせぬ高いテンションとリアリティーで幕切れへと進んで行った。オケ、歌手、セミ・ステージという制約のなかで照明や投影効果、人の動きをうまく使った佐藤美晴の演出、これらが総動員された賜物だ。但し、最後の最後で、地獄落ちしたはずのドン・ジョヴァンニが、ピリオドオーケストラのステージに置かれたモダンのグランドピアノを弾くフリをするシーンは、せっかくステージで最後の決め台詞が歌われるシーンに水を差してしまう。序曲でも同じシーンがあり、「全ての物語はドン・ジョヴァンニの意のままに操られた」とでも言いたかったのだろうか。
けれど幕となって拍手をしていたときはポジティブな印象だけが残っていて、帰り道でも「モーツァルトって素晴らしい!」と感動が蘇って何度も鳥肌が立った。これはモーツァルトのオペラで良い上演に接したときの現象。よくぞここまでやってくれた!
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