facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

チェコ少女合唱団≪イトロ≫

2016年12月02日 | pocknのコンサート感想録2016
11月28日(月)
イジー・スコパル指揮 チェコ少女合唱団イトロ/Pf:ミハル・フロバーク

~魅惑のクリスマス・ソング集、チェコと日本の名曲による一夜~
東京カテドラル聖マリア大聖堂

【曲目】
♪ ヴィヴァルディ/グローリア ニ長調~「天なる神に栄光あれ」
♪ カンパヌス/一つの言葉を大切に
♪ ドヴォルザーク/新世界交響曲~ラルゴ
♪ ドヴォルザーク/我が母の教え給いし歌
♪ スメタナ/モルダウ
♪ 中村雪武/虹よ永遠に ~真実井房子 原爆体験記より~ MS:望月友美

♪♪♪

♪ ヘンデル/もろびとこぞりて
♪ ブリテン/キャロルの祭典~「来たれ、降誕祭!」「子守歌」「この小さな赤ちゃんは」
♪ フランク/パニス・アンジェリクス
♪ イラセック/イトロとチェコのクリスマス
♪ バーソン/ホワイトクリスマス
♪ グルーバー/きよしこの夜
♪ スメタナ/歌劇「売られた花嫁」~開幕の合唱
♪ イェレミアーシ編/ボヘミア・モラヴィア民謡メドレー
♪ イリア・フルニーク/水の源泉
♪ ライフル/民謡「踊れ、輪になって」

【アンコール】
♪ レナード・コーエン/ハレルヤ
♪ 菅野よう子/花は咲く


<イトロ>との偶然の出会い
紅葉を見に新江戸川公園を訪れたら、夕刻からライトアップがあると知り、それまでの繋ぎでクリスマスのプレゼピオでも見ようとカテドラルに入ったら、美しい合唱が聴こえてきた。外国の少女合唱団のゲネプロ中のようで、教会なので自由に入って聴いていられた。その響きがあまりに美しく、ずっと聴き入ってしまった。本番も聴きたくなって係の人に尋ねると今夜がコンサートだという。しかも係の人が偶然にも大学の合唱部の後輩でまたビックリ。そんな偶然が重なり、普通ならまず絶対に行かない少女合唱のコンサートを聴くことになった。

チェコ少女合唱団〈イトロ〉は、1973年にボヘミアで創設され、これまでに国際コンクールで32回も優勝経験を持つ世界屈指の女声合唱団だそうだ。14歳から18歳までの選び抜かれた31人が今夜のステージに立った。

イトロの最高の持ち味は、この世のものとは思えないほどの清澄で美しい響き。デリケートさとクリアさ、柔らかさと硬質さを兼ね備えた響きは、丁度子供の声から大人の声へと変わる年齢層のメンバーが混ざることにもよるのだろう。音色が驚くほど多彩に変化し、時々ブルガリアンヴォイスのような響きも聴こえてくる。これが人間の声?と思うような不思議な響きさえ聴こえる。ヴォカリーズで演奏したドヴォルザークの「家路」は、口を閉じたハミングから「A」の発音まで、発音のグラデーションの変化から生まれる響きが、得も言われぬ神秘的な光彩を放った。

演奏会ではメンバーの何人もがソロを担当し、それぞれに個性的な声だ。多彩な声が合唱として1つになり、しかも倍音がビンビン聴こえてくるほどピタリとハーモニーが決まることで生まれる響きなのだろう。この大聖堂は、固い材質により長い残響と独特の響きを持ち、それを活かした演奏はこれまで何度も聴いているが、イトロほどこの大聖堂の特徴を活かした演奏は聴いたことがない。大聖堂全体が一つの大きな楽器になったような響きに包まれた。アンコールで演奏した「アレルヤ」は、客席を合唱団員が取り囲み、まさにオールサラウンドの体験。

イトロの演奏は、しかしただ響きが美しいだけに留まらない。自国の民謡やクリスマスソングでは、民族のニオイを温かく漂わせ、原爆体験の悲惨さを歌った中村雪武の「虹よ永遠に」では、深い悲しみや嘆き、苦しみが強く胸に迫ってきた。プログラムの解説に、イトロはこの30分にも及ぶ作品の日本語テキストを全て理解していると書いてあったが、メンバーの言葉への共感なくしてこのような演奏はできない。歌詞の付いたメロディーだけでなく、第2章での「叫び」の背景で歌われるハミングから醸し出される哀しくも温かく寄り添う優しさなど、随所に人の温かさが感じられた。

団員はゲネプロでも譜面は持たず、暗譜で指揮者の指示にも瞬時に反応していた。曲をいかに完全に自分のものとしているかが窺える。響きも含めてここまでまとめた指揮者のイジー・スコパルの実力も相当なものだし、ミハル・フロバークの繊細で雄弁なピアノ伴奏も光っていた。アンコールの2曲目の「花は咲く」の優しく包み込む歌声では、客席で目頭を押さえる人達の姿も見られた。

偶然が重なったおかげで、幸せにもこんなにも素晴らしい世界に出会うことができた。コンサートの前に見た新江戸川公園のライトアップのシーンと共に、忘れがたい思い出として心に深く刻まれた。


新江戸川公園のライトアップ


カテドラルのプレゼピオ


終演後、サイン会でのイトロのメンバー

CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ドン・ジョヴァンニ」 ~... | トップ | 伶楽舎雅楽公演:武満徹「秋... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2016」カテゴリの最新記事