pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~ 1992年 9月4日(金) クラウディオ・アッバード指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 フィルハーモニー(ベルリン) 1. モーツァルト/行進曲ニ長調 K.335(320a)第1番-セレナード第9番ニ長調 K.320「ポストホルン」㊝ ♡ 2.マーラー/亡き子をしのぶ歌 MS:マルヤナ・リポヴシェク ㊝ 3.ヤナーチェク/シンフォニエッタ ㊝ ベルリンに来て運良くアバド/ベルリン・フィルを聴くことができた。一番高いDM120の席で聴いて、もちろん大感激!とりわけモーツァルトはしびれにしびれる超名演を聴かせてくれた。 心躍る躍動感、心を震わせる軽快なテンポ、明晰なリズム、見事なクレッシェンド!チャーミングで心憎いほどに自由に歌い、踊る弦。コンチェルタンテで心行くまで満喫させてくれたオーボエ、フルート、クラリネット、ファゴット達のどうしてこんなにうまいんだろうという名演奏。それもそのはず、世界のトップ奏者がメンバーなわけだから!とりわけ忘れられないのはオーボエのppでの歌。あんな小さな音でどうしてこんな豊かな表情の歌が吹けるのか!夢見心地の木管の競演だ。ポストホルンのうまさも特筆!「ああ、名手の演奏!」という感じ。 フィナーレはまたアバドの爽快感!オーケストラは乗りに乗ってモーツァルトの魅力を演出する。小さく震える振動が見事なf に膨れる様を一体どう表現していいか?アバドはまるでモーツァルトの申し子のように、戯れるように音楽をつむぎ出して行く。そしてベルリン・フィルのすばらしさ!胸は高鳴り、トリハダゾクゾク!休憩時間もゾクゾクしっぱなしだった。 続くマーラーも名演だ。メゾ・ソプラノのリポヴシェクは非常に表情に富んだ歌を印象的な美しい声で歌う。よく通り、深みがあり、ぼやけることのないはっきりした声が、子供を喪った母親の嘆き、思慕、願いを見事に表現して行く。歌詞の内容が自然に浮き上がってくる。忘れがたい歌が終わった終曲の弦楽合奏の後奏の、またなんと深くやわらかく、心の底から歌い上げることか!この部分に限らず、歌の情景描写の見事な表現はさすが。 ヤナーチェクもよかった。金管のファンファーレから名演を決定づけた。輝かしさの中にも微妙な光、表情もそなえた金管アンサンブルは、ベルリン・フィルならではのものだろう。そして弦が加わり、木管、打楽器が加わり、世界一のベルリン・フィルサウンドを心行くまで味わった。アバドのテンポ感、リズム感は聴く者の心をしびれさせる魔力を持っているといってもいい。スマートでいて強烈な印象を与え、いつまでも残る。フィナーレの劇的で高らかな盛り上がりは、アバド/ベルリン・フィルだからこそ可能な高みに達していた。 サントリーホールよりさらに管がやわらかく響き、アンサンブルが品よくブレンドされ、しかも各楽器がはっきりと聞こえてくるフィルハーモニーの音響のすばらしさも十分満喫した。聴衆はもちろん大喝采とブラボー。日本公演のチケットが取れなかった分を取り返し、はるかに余りある忘れ難いコンサートとなった。 |
仕事で短期間ベルリンに滞在したのが、たまたまベルリン芸術週間の最中で、しかもアバド/ベルリン・フィルを聴ける幸運に恵まれた。チケットは当日券で120マルク。当時のドイツマルクのレートで約9600円。一番良い席でこの値段!
毎年大きなテーマを決めて行われていた「ベルリン芸術週間」のこの年のテーマは"Theater aus Prag" "Theater"を単純に「劇場」と訳すわけにはいかなさそうだが、簡単に言えば「プラハ特集」ということで、プラハにゆかりのある曲や演奏団体が集まった(ベルリン・フィルを聴いた2日後に、室内楽ホールでプラジャーク・カルテットとシュカンパ・カルテットという2つのプラハ出身の弦楽四重奏の合同演奏も聴いた)。
モーツァルトがプラハと切っても切れない縁の作曲家だったおかげで、素晴らしいと言う言葉では全く足りない超名演の「ポストホルン」に出会え、この日からアバドは僕にとって最高の指揮者として心に深く深く刻まれることになった。この夜の演奏会はCDにもなっていて(収録日は僕が聴いた前日のものだが)、これを聴くとあの日の感動が昨日のことのように蘇ってくる。こんな「ポストホルン」、もう聴けないだろうな…
(2014.1.30)
アバドが逝ってしまった・・・