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【ルツェルン・フェスティバル オーケストラコンサートⅠ】 アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団

2006年10月13日 | pocknのコンサート感想録2006
10月13日(金)クラウディオ・アバド指揮 ルツェルン祝祭管弦楽団
~ルツェルン・フェスティバル・イン・東京2006 オーケストラコンサートⅠ~
サントリーホール

【曲目】
1.モーツァルト/コンサートアリア「わが愛しの希望よ! ああ、そなたにはどんな苦しみかわかるまい」 K.416
2.モーツァルト/コンサートアリア「ああ、できるならあなたにご説明したいものです」 K.418
3.モーツァルト/コンサートアリア「わが感謝をお受け下さい、やさしき保護者よ」 K.383
S:ラヘル・ハルニッシュ
4.マーラー/交響曲第6番イ短調「悲劇的」

99年にベルリンでマーラーの9番を聴いて以来の、待ちに待ったアバドのオーケストラコンサートの日をついに迎えた。そしてとても言葉では言い表すことの出来ない、「感動」なんていう言葉が妙に安っぽくて使いたくないほどの、衝撃的なコンサートに立ち会うことになった。

マーラーの前にモーツァルトのコンサートアリアが追加になったのは幸せだった。何という自然体の演奏。ハルニッシュの柔らかく温かな美しい歌唱をまさに「あうんの呼吸」でサポートし、盛り立てるアバドの絶妙な「入り」と「間」の素晴らしさ。歌とオケの間には何の壁も垣根もなくなり、相手の出方を待つといった構えさえも全くなく、やわらかい風が両者の間を行き交った。

こんな風にエスコートされたハルニッシュは幸せ者だが、彼女は素晴らしい歌で(きっと本領以上の力を授かったのでは)それに応えた。オケはどこまでも軽やかで歌に満ち、エレガントな調べ。フレムゲンの甘い語りのオーボエがまた絶品だった。

休憩の後いよいよマーラーの6番となったが、これはどんな言葉をあげ連ねてもこの演奏の偉大な真価の片鱗さえも表現することはできない。

音楽とはここまで厳しさに貫かれ、崇高で、世界を揺るがすほどの力に満ち溢れたものであったか、ということを徹頭徹尾思い知らされ、叩き込まれ、そして打ちのめされた。何だか巨大な遠心力で振り回されているように、体も心もグワングワンと脈打ち続けた。

これが、ベルリンフィルとの仕事にひとまずのピリオドを打ち、新生のルツェルン・フェスティヴァル・オーケストラを立ち上げ、自らの人生の集大成として(これはどこまでも進行形)アバドが描いていた世界なのだ。こんなすごいことを実現した音楽家がかつていただろうか。アバドはしかし、できることを確信していたに違いない。どんな名手が集まったオケだったとしてもそれ自体は取るに足らないことで、アバドの信念に完全に呼応し共鳴することで、名手1人1人の実力を人数分足したものを遥かに越えた巨大な力が生み出されるのだろう。

アバドを愛してやまないYukoさんのブログによれば、アバドはこのシビアなものも多く含んだシンフォニーを終始幸せそうな表情で、しかも時に笑みを浮かべながら指揮していたという。そう言えばオーケストラのメンバーもすごく嬉しそうな表情をして演奏していた。しかめっ面で聴かせる「すごい演奏」の次元を遥かに越え、アバドが目指す理想郷を指揮者とオケが共有している証なのかも知れない。
 
終演後、いつまでもいつまでも続いた静寂は、それまで音が鳴っていた時と変わらない内容の濃い時間だった。ようやく沸き起こった拍手と歓声もまた同様に濃いものだった。お祭り騒ぎの一過性のものではなく、一人一人がこの体験を胸に深く刻み込み、こんな素晴らしい体験を与えてくれたアバドとルツェルンオケへの熱い感謝の気持ちが込められていた。

来週もう1回この組み合わせを聴けることが嬉しい反面、もう1回しか聴けないことが無性に寂しい。

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1 コメント

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Unknown (yokochan)
2006-10-15 12:09:04
こんにちは。先般はお疲れさまでした。私は翌日(軽い二日酔いもありましたが)は立ち直れませんで、何も手に付きませんでした。

私もブラームスとブルックナーを聴くのがもったいないような、早くその日が来てほしくないような、複雑な気分です。失礼ながらTBさせていただきました。
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