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マリア・ジョアン・ピリス ピアノリサイタル

2018年04月20日 | pocknのコンサート感想録2018
4月17日(火)マリア・ジョアン・ピリス(Pf)
サントリーホール

【曲目】
1. モーツァルト/ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調 K.332
2.モーツァルト/ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調 K.333
3. シューベルト/4つの即興曲 Op.142/D.935

【アンコール】
シューベルト/3つのピアノ曲 D.946~第2曲 変ホ長調

僕が最も敬愛するピアニスト、マリア・ジョアン・ピリスの来日公演のチラシを見て心が踊ったのもつかの間、そこには今年限りで引退し、これが最後の日本ツアーになるという驚きのお知らせが記されていた。とにかく、大好きなモーツァルトとシューベルトをやるリサイタルのチケットを手に入れ、サントリーホールへ赴いた。そして、ピリスの登場を待つときから、最後のスタンディングオベーションを経て終演に至る2時間全てが、大切な宝物として深く心に刻まれるリサイタルとなった。

前半はモーツァルトのソナタが2つ。どちらも自分がさんざんさらった曲なだけに愛着も強い。僕が「ここ、いいんだよなぁ」と思い入れたっぷりに弾いても全くうまくいかないフレーズを、ピリスはいともたやすく、フワッと吹いた風が小さく木の葉を揺らすようにごくごく自然に過ぎて行く。しかしこれが素晴らしいのだ。モーツァルトが「ここはそんな気合い入れて弾く必要ないんだ。聴いててごらん…♪♪♪…ほら、こんな風にね!」とちょっぴり微笑んで弾いて聴かせているよう。一切の力みから解放され、軽やかな足取りで音たちが野原を跳ね回り、人や小動物や花と言葉を交わし、過ぎ去ったあとには仄かな香りや、かわいい足跡も残し、それらも微笑んでいる、そんな光景が浮かんだ。「モーツァルトは 、こんなに少ない音と控えめなダイナミックスで、世界がこんなにも広くて美しくて生き生きと輝いていることを表現している」と、ピリスは驚くばかりの自然なタッチと息遣いで聴き手に届けてくれる。その姿からは、神様の存在すら感じるほどだった。

後半はシューベルトの作品142の即興曲集。ここでピリスは、モーツァルトの純粋無垢な清らかな世界に、痛みや哀しみや切なさといった人間臭さをひっそりと織り込んだ。長い時間をかけて音楽が静かに発酵して、そこから出る仄かな香りと、生きている証である熱を放っている。聞こえるか聞こえないかというほどの低音の微弱音が、影のように入り込んでくる様子からは、敏感な感覚を持った人だけが感じとることのできる僅かな香りや、温度や湿度の変化を伝える。そこからは、色々な人生を送ってきた人々それぞれの記憶や思いが静かに立ち上ぼり、熟成されたハーモニーとして実を結ぶ。

世界の美しさと魅力を存分に伝えたモーツァルト、心に潜む感情と人生の奥深さを伝えたシューベルト、どちらに於いても、ピリスのアプローチは空気のように自然で無理がなく、心地よい。それでいて、これ程の世界を描いてしまうピリスが至った境地は驚嘆に値する。この先、更にどこへ向かうのかと期待したいところだが、ピリスはもう引退してしまう。

先週レオンスカヤのリサイタルを聴いて「まだ70代前半のレオンスカヤからは、未来への頼もしい決意も感じられた。」と書いた。同年代の、しかも衰えの影さえ微塵も感じられず、これほどの境地に達したピリスがどうして引退してしまうのか、わからないし残念でならないが、これはピリスの譲れないポリシーということであきらめるしかない。
満員の聴衆による盛大なスタンディングオベーションに送られて、ピリスはステージを去った。

マリア・ジョアン・ピリス ピアノリサイタル ~2014.3.7 サントリーホール~
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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