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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

佐橋美起、石井真紀、亀田眞由美が歌う「愛」~奥村淑子メモリアル

2018年12月11日 | pocknのコンサート感想録2018
12月7日(金)
Gedächtniskonzert für unsere Lehrerin
Frau Yoshiko Okamura
恩師、奥村淑子先生を思うコンサート ~没後30年に寄せて~
ルーテル市ヶ谷センターホール

【曲目】
1. バッハ/あなたがおそばに居るならば
2. カーン/愛、それはあなた、チャールズ/私が歌うとき、ロジャース/わが心に歌えば
3.プフィッツナー/だから春の空はそんなに青いの?、憧れ、秋に、庭師
4.R.シュトラウス/オフェーリアの3つの歌
5.別宮貞雄/歌曲集「智恵子抄」
6.田中均/走
7.コルンゴルト/別れの歌
8.ドニゼッティ/歌劇「ランメルモールのルチア」~狂乱の場「あの方の優しい声が」

【アンコール】
e1. シューマン/献呈
e2. R.シュトラウス/なにも
e3. プッチーニ/歌劇「つばめ」~ドレッタの素敵な夢

【演奏】
S:佐橋美起(2,4,6,e2)、亀田眞由美(1,5,8,e3)/MS:石井真紀(3,7,e1)/Pf:坂元陽子、平島誠也

優れた指導者であり、かつ優れた歌い手でもあった奥村淑子は、30年前に55歳という若さでこの世を去った。節目の年となる今年、奥村の3人の門下生が没後30年を記念して演奏会を開いた。僕は奥村氏については何も知らなかったが、今夜の演奏会に立ち会ったことで、奥村がいかに優れた師であり、芸術家であり、人間的な魅力にも溢れ、いかに自らの生を真剣に生き抜いた人であったかを深く理解した。

3人の歌い手たちは、選曲でも、その演奏でも、アンコールに至るまで徹底した真剣勝負で臨んだ。久しぶりに亡き先生を懐かしんで、温かく和やかな会にしましょう、と云った感傷や内輪向けの気分は微塵もなく、演奏はどれも迫真に満ちたものだった。

佐橋さんは、色香のある温かく湧き上がる声で、詩の心を鋭く掘り下げた。田中均氏の「走」では、モノオペラを観ているように現実離れした情景がリアルに迫ってきた。雄弁・多彩な平島さんのピアノも素晴らしい。「オフェーリアの歌」は、シュトラウスの既知の歌曲とはかなり雰囲気の異なる前衛的とさえ云える音楽で、「走」同様に「狂気」に心が縛り付けられた。一方ミュージカルナンバーでは、愛を情熱的に、親密に、そして巧みに表現して聴く者の心をくすぐった。ステキな語りと共に、佐橋さんの多彩な表現力が開花した。

石井さんは、低音域や高音域でも抜群の存在感と雄弁さを持つ声と表現力を生かし、大きく深い息遣いで、愛する思いや切なさを、熱く包み込むように歌った。歌詞を見ながら聴いていると、ドイツ語の表現力の深さも伝わった。プフィッツナーやコルンゴルトといった、ドイツリートのレパートリーでは珍しい作品の魅力に触れることができたのも収穫。アンコールの「献呈」は、喜び溢れる愛の表現が素敵だった。

亀田さんは、愛する人に看取られる喜びを歌ったバッハの静かな歌から始め、テンションの上がる音楽へと続けた。「智恵子抄」では「語り手」としての雄弁さで、光太郎の智恵子への様々な思いを、冷静な眼を通しつつもハートを伴って、美しい日本語でくっきりとドラマチックに描いた。坂元さんの情感あふれるピアノが更に高揚感を与えた。そして圧巻の「狂乱の場」。この長丁場の難曲を、亀田さんは息切れひとつせず、熱く、狂おしく、濃厚に歌い上げた。張りと艶のある瑞々しい声の魅力、正確なピッチは最高音でも揺るがない。正真正銘の「本物」の歌に聴衆のテンションも高まり、ブラヴァーが飛んだ。

演奏後の挨拶のMCで、亀田さんの声はハスキー気味。さすがにお疲れかと思いきや、アンコールではプッチーニの情熱的なアリアを変わらぬ美声で苦もなく歌い、まだ何度でも「狂乱の場」を歌えてしまいそうな勢い。若い頃に正しい発声を教えた奥村先生の「遺産」なのかも知れない。

今夜の演奏会では、師が教え子たちに残した「遺産」を随所で感じた。それは卓越した歌唱の技にとどまらず、考え抜かれたプログラミングを用意して、詩と音楽に真摯に向き合い、単に師を偲ぶ会で終わらせるのではなく、奥村先生を全く知らない僕のような人間も含めて、全ての聴衆に最高の演奏を届けようとする真剣な姿勢が物語っている。歌は全て暗譜だった。「愛」で統一された今夜の曲目は、男女の愛を扱ったものが多かったが、これは教え子たちの奥村先生への「愛」がこめられていたに違いない。

奥村は常に「世界のどこへ行っても素晴らしいと言われる本物の歌」を肝に銘じさせたという。彼女たちはそれを座右の銘として実践し、更に自分達の教え子にも引き継いで行くことだろう。


♪ブログ管理人の作曲♪
合唱曲「野ばら」(YouTube)
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」(YouTube)
金子みすゞ作詞「鯨法会」(YouTube)
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~(YouTube)
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け

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