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新国立劇場オペラ公演「カルメン」

2021年07月09日 |  pocknのコンサート感想録2021
7月6日(火)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場


【演 目】
ビゼー/「カルメン」

【配 役】
カルメン:ステファニー・ドゥストラック/ドン・ホセ:村上敏明/エスカミーリョ:アレクサンドル・ドゥハメルミカエラ:砂川涼子/スニガ:妻屋秀和/モラレス:吉川健一/ダンカイロ:町 英和/レメンダード:糸賀修平/フラスキータ:森谷真理/メルセデス:金子美香

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【合 唱】新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、TOKYO FM少年合唱団
【指 揮】大野和士

【演 出】アレックス・オリエ
【美 術】アルフォンス・フローレス
【衣 裳】リュック・カステーイス
【照 明】マルコ・フィリベック

新国のオペラ芸術監督を務める大野和士の指揮で、海外からのスタッフとキャストも入り、久々の国際色豊かなメンバーによる「カルメン」に期待して出かけた。

しかし、フランス出身のアレックス・オリエの演出には疑問が多かった。カルメンを、夭折のソウルシンガー、エイミー・ワインハウスに見立て、ステージにはライブハウスを思わせる大がかりな鉄骨の構造をドーンと打ち建て、「ハバネラ」もマイクを抱えて絶唱、それを大型スクリーンに投影するアイディアは面白いけれど、いくらマイクを持って絶唱しても、聴こえてくるのはマイクなしの生声(PAは使っていないと信じて)では、反ってせっかくの生歌の印象が弱まってしまう。また、密輸の悪者どもの役をライブハウスの関係者に担わせるのにも違和感を覚えた。第1幕でホセとミカエラの心を通わせるシーンの背後で、ライブハウスでの「騒動」を物音も加えて演出したのは、ホセの心、ここにあらずと云いたかったのかも知れないが、ビゼーの美しい音楽を聴くのにはただ邪魔だった。

オリエはカルメンを、時代を超えた普遍的な強い女性として描きたかったというが、現代に読み替えると、反って当時の強い女性像を弱めてしまう気がした。

大野の指揮は木目細かく端正で滑らか。登場人物の心情や場面の空気を、表情豊かに的確に描いた。東フィルのアンサンブルのレベルの高さ、ハーモニーの美しさにも聴き入った。けれど、スマートで整然とした知が情に勝る演奏で、もっと奔放さやアグレッシブな強引さ、突き抜けたものが「カルメン」には欲しい。

とは言え、オペラの花はやっぱり歌い手だ。このオペラの中心にいるカルメンとホセ役の2人がピカイチの出来栄えだった。カルメン役のドゥストラックは独特の色気があり、濃淡織り交ぜた多彩な声を駆使した幅広い表現力に驚かされた。魅惑的な演技も堂に入り、色のあるカルメン像を浮かび上がらせた。

ホセ役には日本の村上敏明が抜擢され、これが大当たり。ピーンと張りのある声は艶やかで、高音の聴かせどころになるほど輝きを増す。カルメンに寄せる思いを狂おしいほど情熱的に歌い上げる力強さも申し分ない。最後まで声の艶もスタミナも保ち、最後の場面でも迫真の歌を聴かせた。声の質からすると、ロドルフォやローエングリンも良さそう。

エスカミーリョ役のドゥハメルは立派な体格のわりに声のインパクトが弱く、体格と役どころが合っていないように感じた。砂川涼子のミカエラは、基本に忠実な歌唱で健闘したという印象。一途なひたむきさが迫ってきた。

ソリストと並んで素晴らしかったのが合唱。集団としての密度と熱量が高く、豊かな響きで一丸となって情熱を伝え、会場のテンションを高めた。群衆としての見せ場を随所で作った合唱は、よく見ていると歌わない場面はくっついて、声を発する場面ではサッと広がってディスタンスを確保、これはなかなか大変だったと思うが、安全を保ちつつ群衆をうまく描いていた。見事な動きを実現した合唱団に心から拍手を送りたい。

ソーシャルディスタンスに気を遣ったというが、そんなことを忘れてしまうぐらい歌手たちはくっついたり、抱き合ったり、キスしたり(本当にしてた?)して、渾身の演技を見せてくれた。コロナ禍でオペラが再開された去年は、指一本触れ合わないものもあって、それも仕方ないと思っていたが、ここまでやるには苦労も多かったはず。

こうした様々な努力の成果が積み上げられて、緊迫した劇的なラストシーンに繋がったと言っていいのだろう。大いに心を揺さぶられ、胸が熱くなる「カルメン」だった。

カサロヴァの「カルメン」(マリボール国立歌劇場公演)~2014.6.18 オーチャードホール~
「夏の夜の夢」 ~2020.10.12 新国立劇場~
東京二期会「フィデリオ」 ~2020.9.4 新国立劇場~
西村朗「紫苑物語」 ~2019.2.20 新国立劇場~


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