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北川暁子ベートーヴェン ソナタ全曲連続演奏会 第5夜

2012年04月20日 | pocknのコンサート感想録2012
4月20日(金)北川暁子(Pf) 
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲連続演奏会 第5夜~
津田ホール
【曲目】
1.ソナタ 第2番 イ長調 作品2-2
2. ソナタ 第20番 ト長調 作品49-2
3. ソナタ 第15番 ニ長調 作品28「田園」
4. ソナタ 第16番 ト長調 作品31-1
5. ソナタ 第30番 ホ長調 作品109

新聞や音楽雑誌の演奏評で、ベートーヴェンの演奏が堅実で高い評価を得ているのを読む度に、「一度聴いてみたい」と思っていたが、結局聴かないまま何十年もの歳月が過ぎてしまった。時間というものはこうして過ぎて行く。これまで何度も行われている北川暁子のベートーヴェンのソナタの連続演奏会、今回はシリーズ中に藝大退任記念の演奏会が含まれていて時の流れを実感。今回こそは!と思っていた退任記念の招待演奏会もタイミングを逸し、葉書を出したのは締め切り後。。ダメとは思っていたがやっぱりダメで、ようやく決心して今夜の演奏会を聴いた。

鮮やかな色彩のドレスを纏った北川さんが弾いたベートーヴェンは、パリッとした明るく硬質な音色がまず耳を捉えた。声色を使ったりせず、澄みきっていて明快。ペダルも要所でハーフペダルを入れる程度で、絶対に音を濁らせることはないし、混ざることも極力避けている。この潔い音色もそうだが、狙いを定めてそこに確実に音を撃ち込んで行くような律儀な演奏は常に直球勝負。テンポを気分で揺らすようなことはせず、縦の線をきっちり揃え、「歌」よりも「語り」が重んじられているのが感じられる演奏だが、堅苦しさはなく、むしろ飄々とした語り口は、どこかウィットに富んでいて独特の味わいがある。

なかでも印象深かったのは作品31の1のソナタの終楽章。澄んだ清流が急流にさしかかり、しぶきを上げながら楽しげに踊りまわっている情景が目に浮かぶようで心が躍った。最後に弾いた作品109のソナタでは、それまでこの曲に抱いていたロマンチックな空気や瞑想的な気分を一掃するかのような、明快で澄みきった世界を体現した。ロマン派の音楽の前触れ的な要素も感じていたこの曲から、そうした「邪念」やファジーな要素を削ぎ落とした演奏は、ロマン的なニュアンスを期待していると、その期待は完全に裏切られる。正直、もう少し内面からじわりと滲み出てくる吐息に包まれたい気持ちもあったが、演奏は決して無味乾燥で機械的、というのではなく、人間の浮世のしがらみから離脱した、コスモポリタン的な大きさ、美しさを感じさせた。最後の作品111なんかもこのアプローチで行けば、その効果はこの曲以上に大きいだろうな、と思った。

こうして生涯に渡ってベートーヴェンのソナタと取り組み、確固とした世界を築き上げてきた北川暁子というピアニストは、ただものではないオーラを放っていた。

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