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ウィーン町中探訪 その1 古き良きウィーンの面影を残す小路、高射砲台、ゴミ処理場

2012年04月23日 | ウィーン&ベルリン 音楽の旅 2009
WIEN

ベルリンがドイツで一番の都会だとすれば、オーストリアではウィーンが唯一の都会といえる。が、ベルリンに比べると、ウィーンは街の規模も人口も、都会的な活気という意味でも、ベルリンにはかなわない。日本で言えば中都市クラスになってしまうウィーンだが、その歴史的、文化的意味においてはヨーロッパでも有数の都市だ。ハンガリー=オーストリア帝国の帝都として、ハプスブルク家が600年以上に渡り栄華を誇った街の名残りは、居並ぶ堂々として優美な建築物からも感じることができ、町の中心部はさながら建物の博物館といえる。

19世紀末には表現主義やユーゲントシュティール様式が花開き、多くの芸術家達を魅了したウィーンは、何と言っても昔も今も「音楽の都」。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、シュトラウス、ベルク、ウェーベルン、シェーンベルク… 19世紀以降の、ドイツ音楽と呼ばれるクラシック音楽の世界で、ウィーンと縁のない作曲家がいるだろうか。ウィーンの街を5分も歩けば、こうした作曲家にゆかりのあるスポットに行きあたる。ウィーンフィルやウィーン国立歌劇場の公演をはじめ、えり抜きの音楽的エンターテインメントにも事欠かない。

またウィーンは、東欧圏までカバーする名物料理を育み、カフェ文化を育んできた。この町は、おいしい料理とおいしいお菓子で溢れている。郊外に足を運べば、その年の作りたてのうまいワインを、豊富な種類のハムやチーズを肴に楽しめるホイリゲと呼ばれる居酒屋が軒を連ねている。そして、そのホイリゲは、緑豊かなウィーンの森の懐にある。こんなウィーンの魅力を旅行者として味わい尽くすには、一生かけても多分足りないだろう。

そんな魅力溢れるウィーンだが、この町にはどこか気取ったよそよそしさが漂っているのを感じることがある。ウィーンには友人や知り合いも多く、その人たちと会っているときはもちろん楽しいが、一人になるとますます寂しさがつのる。気さくで温かい空気を感じるベルリンとはどこか違うのは、帝都市民の末裔たちが持つプライドのせいだろうか…

今回はそんな負のイメージもヒシヒシと身にしみたが、やっぱりウィーンはおもしろい!12回目となるウィーン訪問で見たもの、訪ねた場所をレポートする。

空港から市内へ vom Flughafen in die Stadtmitte
国際線が離着陸するウィーン・シュヴェッヒャート空港から市内への交通手段は鉄道かバスだ。バスなら市内シュヴェーデンプラッツ(Schwedenplatz)に直行するリムジンが便利だが、今回は鉄道を使った。

鉄道で市内へ入るには、料金は高めだが速いCAT(City Airport Train)か、少し時間はかかるが、安く行けるSバーン(S-Bahn)のどちらか。CATなら16分で市内のウィーン・ミッテ駅(Wien Mitte)へ行けて、電車の乗り心地も快適そのもの。Sバーンだとミッテ駅まで24分かかるが、切符代はCATの4分の1程度で断然お徳。そのうえ、市内の交通機関に3日間乗り放題のウィーンカードや、24時間カードを使えば市内分の料金を浮かせることができる。今回は途中でベルリンへ行くので、空港と市内を2往復することになり、長旅で疲れている最初だけCATを使った。


CAT(手前)とS-Bahn(後方)が並ぶウィーン空港駅

古き良きウィーンの面影を残す小路 
Spittelberggasse & Gutenberggasse

もう20年近く前のことだが、ウィーンに詳しいドイツ語の先生に「古き良きウィーンの面影が残っている」とおしえてもらった場所がここ。それからは、ウィーンに来るとよくふらっと立ち寄るpocknお気に入りの場所。リンク通りのすぐ外のマリアヒルファー通りに近く、今回の宿(Pension Continental)からだと歩いて行けるところだったので、宿にチェックインしたあとさっそく足を向けた。

グーテンベルク通りとシュピッテルベルク通りという2本の隣り合った小路はどちらも石畳が敷きつめられ、古めかしく落ち着いた佇まいを見せている。


壁に装飾が施された家も多く、歴史のありそうな建物が多い。小路のあちこちに噴水があったり、小さな公園があったりする。ウィーンの町中の、この写真に写っているような形の噴水から出ている水は、ここに限らず飲料水だ。ウィーンの水がおいしいことは知る人ぞ知ることだが、噴水からペットボトルに水を補給している人をときどき見かける。

このあたりは飲食店が多いが日中は人通りも少ない。時おり子供たちの遊ぶ声が、石畳に響いていた。

夕食時になると、あたりの飲食店のオープンテラスが賑わってきて、あちこちから料理のいい匂いが漂ってくる。店先のメニューをチェックしながらお店を選ぶ。軽食・喫茶のお店から、本格的なウィーン料理が楽しめるお店までいろいろある。ライトアップされてムードも満点の夜景を眺めながら、食事やお酒を楽しむにもいい場所だ。

ウィーン滞在の3泊目、ウィーン在住の留学生や、日本でも親交のあった現地の友人達と、夜更けまで楽しく飲んで食べて語り合った。


戦争の巨大遺物 高射砲台 
Wiener Flaktürme

日本からウィーンに着いた日、ウィーン市内に住む新婚夫婦、akiさんとウィニさんのお宅に夕食に招待していただいた。高層アパートの上の階からの眺めは抜群で、眼下には鉄道の操車場があり、いろいろな電車が走っていたり停まっていたり… もし息子がいたら、バルコニーにはりつけ状態になるだろう。

その操車場の背後に、なにやらとても無機質なコンクリートの塊の物体が2つ、前後に聳えているのが見えた。お城とかではなさそうだし、巨大な橋脚のようにも見える。

ウィニさんに訊ねると、「あれはFlakturm(フラクトゥルム)といって、戦争中はあの上に迫撃砲を乗っけて敵機を撃ち落としていたんだよ。」と教えてくれた。



ウィーンを訪れるのは12回目になるが、こんな目立つものなのに今まで全然気がついていなかった。

ウィーンと言えば、ハプスブルク家時代の豪奢な建造物やユーゲントシュティール時代の世紀末建築など、歴史的な建造物がひしめいているが、第2次世界大戦時代を象徴する建造物も残っていることを知り、ちょっと驚いた。

要塞のように堅牢に造られたもので、撤去するのも容易ではないのかも知れない。

その数日後、リサとウィーンの森のハイキングに出かけるために、ホテルから地下鉄の駅に歩いている途中で、これと同じような建造物が眼前にドカンと現れた。外壁には看板や旗がつけられ、ガラス張りのテラスなんかも付いていたが、やっぱりこれは「フラクトゥルム」に見える。公園の中にあるこの建物には人がたくさん出入りしていて、現役で何かに使われているようだ。

するとリサが、「これは戦争中に作られたフラクトゥルムで、今では水族館になっているのよ。」と教えてくれた。コンクリート打ちっぱなしの無機質な要塞が、随分華やかにアレンジされている。

あとからこの水族館のサイト(ドイツ語) を見たら、水族館自体も楽しそうだし、屋上テラスに出ることもでき、地上35メートルからウィーンの町を一望できるとのこと。とても興味がわいてきた。次の機会には是非入ってみたい。

この「フラクトゥルム」、気になって帰国してから調べてみた。ドイツ語版ウィキペディア他のドイツ語版のサイトによれば、フラクトゥルムとは高射砲台のことで、1942年から1945年の間に、対空防衛と敵機撃墜のためにウィーン市内では全部で6基建造されたのだそうだ。これらは一時的な病院施設や市民のための避難所の機能なども兼ね備えていたという。

6基はシュテファン大聖堂の建つウィーンの心臓部(1区)を三角形状に取り囲むように2基ずつがペアとなって配置されている。屋上に配備された4台の高射砲が、敵機の襲来に備えたという。戦後は撤去する話もあったが、結局6基全てが保存されることになったそうだ。

写真はサイトwww.airpower.atより引用

音楽の都、芸術の都、ハプスブルク家のお膝元… 普段抱くウィーンのイメージにはおよそ似つかわしくない遺跡を抱えていることもこの町の歴史のひとコマ。これらの高射砲台、もし万が一また戦争が起きでもしたら、他に高い建造物が殆どないウィーンのこと、真っ先に軍事目的に利用されるに違いない。永世中立国のオーストリアは防衛も怠れないことを思えば、この遺物はわざと残しているのかも…

フンデルトヴァッサーのゴミ処理場
Müllverbrennungsanlage Spittelau

ウィーンの町中を参歩したり、トラムやUバーンに乗っていて、金ピカのねぎぼうずのような塔(実は煙突)を持ったおとぎの国のようなカラフルな巨大な建造物群を見たことがある人は多いだろう。僕もこれは前から気になっていた。ウィーン生まれのアーティスト、フンデルトヴァッサー(1928-2000)っぽいなと思ったら、やっぱりこれはフンデルトヴァッサーがデザインした、なんとゴミ処理工場だとわかった。

渦まきをモチーフにした奇抜なデザインやカラフルな色使いが特徴の絵や建物は、一度見れば決して忘れないほどの強いインパクトを与える。フンデルトヴァッサーの名前は知らなくても、渦巻きの絵を見れば「これ、見たことある」という人も多いに違いない。

ウィーンではフンデルトヴァッサーの作品をあちこちで見ることができる。美術館「クンストハウス(Kunst Haus)」は、フンデルトヴァッサーの作品展示のための常設ミュージアムだ。また、フンデルトヴァッサーは身近な集合住宅や工場などのデザインも多く手がけている。

その代表作が公営住宅のフンデルトヴァッサーハウスだ。住宅部分に勝手に立ち入ったら怒られるが、1階部分にはカフェやショップなども入っているのでそこを散策することはでき、テーマパーク気分を味わえる。街中ではフンデルトヴァッサーのカレンダーもよく見かける。
今回訪れたシュピッテラウ・ゴミ処理場は、地下鉄のU4とU6、トラムのD線が集まるSpittelau駅の目の前にデーンとそびえている。行った日は晴天で、太陽がギラギラと照りつけ、金色の煙突が太陽に反射して眩く輝いていた。間近で見るとその迫力と、異次元的な奇抜さに仰天する。

このゴミ処理工場自体は1971年にできたが、外装にフンデルトヴァッサーのデザインが採用されたのは、大きな火災を起こしたあとの1987年のこと。ゴミ焼却による熱を利用して、近隣の病院や遠隔地へ暖房や電力供給を行っていてるエコ施設でもある。暖房にして年間6万世帯以上をカバーしているという。ダイオキシン対策もしっかり施され、遠隔地域暖房網としてはウィーン第2の規模を誇っているという。


ドナウ運河に沿った堤防の上の道は、この工場を眺めながら歩くのに絶好のコース。施設はいくつかのパーツからできていて、見れば見るほど不思議で現実離れした建物だ。隣接するビルは血を流している。これに対抗できそうな代物は日本なら岡本太郎か草間彌生か… とにかくおもしろい。


堤防の上の道で腰掛けてスケッチしたが、もともとがフンデルトヴァッサーのオリジナリティ溢れる美術作品なだけに、スケッチというよりも模写している気分。

スケッチしながらこのユニークな建造物をずっと眺めていたら、外観者としてではなく、不思議の国の中に入って行くような気持ちになった。この工場の中に入れたら楽しいだろうな…

ホームページを見たら、見学ツアーガイドが行われているようだ。遊び心いっぱいのデザインが海を越えて日本のごみ処理場でも採用されていることも知った。大阪の舞洲ごみ処理場は、このウィーンのゴミ処理場のコンセプトに共感した大阪市が、フンデルトヴァッサーに依頼して造られたのだそうだ。

日本に来たドイツ人によく言われるのは「日本のビルはみんなグレーで殺風景だ」ということ。フンデルトヴァッサーは、まさしくこうした現代建築の無機質性に対抗して、カラフルでムーヴマンに溢れる建物を考案し続けたという。日本のオフィス街や官庁街がフンデルトヴァッサー風の装いで模様替えしたら、そこを歩くビジネスマンたちの黒やグレーばかりのビジネススーツにも変化が表れ、世の中ももっとおもしろくなるだろう。日本でのそんな「革命」の発信地は、まずはやっぱりフンデルトヴァッサーのゴミ処理場を建ててしまった、光りもの・原色系好みの大阪かな!

<参照サイト>
www.wien-vienna.at(ドイツ語)
Wien konkret(ドイツ語)

ユーゲントシュティールのロースハウス(ミヒャエル広場)
Looshaus am Michelerplatz

こちらは、フンデルトヴァッサーの建物とは対極にあるようなシンプルの真骨頂を誇るロースハウス。王宮(Hofburg)のすぐ近くのミヒャエル広場(Michaelerplatz)にある。


19世紀末から20世紀初頭にかけてオーストリアやドイツを席巻したユーゲントシュティール様式派のアドルフ・ロースの手によるもの。ウィーンの街にひしめいているゴテゴテの装飾が施された建造物へのアンチテーゼとして設計された。いつの世でも、どんな分野でも、時代の流れに新しい風を送り、歴史に名を記すような芸術というのは、既存のものへの反抗心から生まれてくるのだ。

ユーゲントシュティールの作品については、次の「ウィーン町中探訪 その2」でまとめて紹介する。


ウィーン町中探訪 その2 ~ユーゲントシュティールの作品を求めて~
ウィーン町中探訪 その3 ~モーツァルトの眠る聖マルクス墓地を訪ねる~

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