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音楽ネットワーク「えん」シリーズ《今を生きる作曲家に焦点を当てて》第2回

2017年12月02日 | pocknのコンサート感想録2017
11月26日(日)
シリーズ《今を生きる作曲家に焦点を当てて》第2回 高島 豊

~音楽ネットワーク「えん」通算670回演奏会~
尾上邸音楽室




【演奏】MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

【曲目】
♪ 高島豊/金子みすゞの詩による歌曲~ 私と小鳥と鈴と、露、雪
♪ シューベルト/4つの即興曲D899~第1番ハ短調Op.90-1
♪ バッハ/無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調BWV1008~プレリュード
♪ 高島豊/金子みすゞの詩による歌曲~ さびしいとき、大漁、積もった雪、鯨法会

♪ ♪ ♪

♪ 高島豊/チェロとピアノのための子守歌
♪ 高島豊/メゾソプラノ、チェロ、ピアノのための組曲「森の詩」(音楽ネットワーク「えん」委嘱初演)
 1)森の声 2)森の息吹 3)逍遥 4)命
♪ ベートーヴェン/歌劇「魔笛」の"恋を知る男たちは"の主題による7つの変奏曲変ホ長調WoO.46
♪ 高島豊/「愛しい人!」~ニキ・ド・サンファルの詩~
 1)愛しい人、どうしてあなたは行ってしまったの? 2)どうしてあなたは私を愛してくれないの? 3)愛しい人、あなたは何をしているの?

【アンコール】
♪ 岡野貞一/高島豊編/紅葉

ご挨拶
この度は、音楽ネットワーク「えん」による主催で、拙作を特集したコンサートを開催して頂きました。演奏会の企画の段階から携わり、何人もの方々と関わりながら準備を進めて来て、そこに至るまでに多くの人達の熱意とエネルギーと時間が注がれ、その積み重ねの末に演奏会があることを改めて実感しました。そのおかげでコンサートは大成功となり、いつまでも思い出に残る大切で幸せな時間を持つことができました。
貴重な機会を与えてくださった「えん」代表の佐伯隆さん、演奏してくださった小泉詠子さん、山口徳花さん、奥村志緒美さん、会場を提供してくださった尾上さん、そして演奏会にいらしてくださった皆さまに心より感謝申し上げます。


コンサートは、拙作の間にクラシックの名曲を交え、演奏者と作曲者による曲目紹介や、作曲の苦労話しなどのMCを挟みつつ進めて行った。プログラム前半には、僕が長年に渡って書き続け、昨年はCDもリリースできた金子みすゞの詩による歌曲から7曲を置いた。 2011 年から度々みすゞの歌を歌ってくださり、CD制作にも全面的に協力して頂いたメゾソプラノの小泉詠子さんの歌は、熱い情感を湛えながら、美しく磨かれ、研ぎ澄まされた声と言葉が、心の奥まで届いて共振した。
「さびしいみすゞ」をテーマにした後半の4曲では、みすゞが抱えていたであろうさびしさや痛みに寄り添って書いた歌を、小泉さんとピアノの奥村さんは「静かに」「熱く」、そして深い寂しさを湛えて切々と訴えた。

みすゞの歌曲の間で、奥村さんと山口さんに、それぞれソロを演奏して頂いた。厳しさや痛みに、優しさや郷愁も具えたシューベルトの即興曲で、奥村さんのピアノはセンチメンタルに陥ることなく、しなやかで引き締まったフォルムのなかに凛とした美しさを湛えつつ、叙情豊かに寂寥感を歌い上げた。山口さんのチェロによるバッハの無伴奏は、エッジを効かせて音を掘り下げつつ、繊細で柔軟なコントロールでフレーズにくっきりとした表情とコントラストを与え、しなやかで大きな線を描き出し、続くみすゞの「さびしさ」へと繋げてくれた。

♪ ♪ ♪

休憩の後は、最初期に作曲したチェロとピアノのための子守歌で始まった。山口さんと奥村さんの優しく温かな対話が心地よく、穏やかな気分を運んでくれた。33年振りの再演。

続いて、「えん」代表の佐伯さんに新曲も入れてみては?と提案されて生まれた「森の詩」。出演者3人による4曲から成る組曲で、森をイメージしつつ作曲した。メゾソプラノのパートに歌詞はなく、チェロとピアノとの「トリオ」の1パートという扱い。小泉さんの声は森の精とか女神を思わせる色香と妖しさを漂わせ、はるか上方から降り注ぐように聴こえ、山口さんのチェロは大地の滋養をたっぷりと吸い込んで、しなやかに逞しく枝葉を広げる大樹のように朗々とした歌を歌う。そして奥村さんのピアノは光や風、たなびく靄や苔むす匂いなどが、繊細で多彩に、森の空間を満たして行った。

「森の精」とか「大樹」、「光」などを具体的にイメージしながら作曲したわけでは全くないにもかかわらず、 3人は演奏からそれぞれ森の様子を喚起させ、一つの情景としてアンサンブルを作り上げるのを聴いて、3人がこの曲にいかに向き合い、何を感じ取り、それをいかに表現してくれたかを感じられ、作曲者として大きな喜びを感じた。

次は山口さんと奥村さんのデュオによるベートーヴェン。これは、コンサート最後に置かれた「愛しい人!」に繋げるに相応しいチェロとピアノによる愛のデュエット。両者が様々な表情で語り、歌い、見つめ合う。そんな楽し気なやり取りが生き生きと伝わってくる演奏だった。ベートーヴェンはなぜこんな名曲に作品番号を与えなかったのだろうか。

プログラム最後は再び小泉さんと奥村さんによるデュオで、昨年の「新作歌曲の会」で発表した「愛しい人!」の再演。小泉さんは遥か遠くを見つめつつ、ニキの赤裸々な思い、揺れ動く感情を的確に捉え、聴衆の心にストレートに、自然に訴えかけた。間近で聴いていたため、小泉さんの細かい顔の表情も見ることができ、その表情がいかに歌とぴったり一致しているかを体感することができた。その集中力、研ぎ澄まされた感性に接するのは、まるで名優が演じる独り芝居に立ち会っているようなリアリティー。共演の奥村さんのピアノは、歌に光を当て、感情を突き動かすエネルギーを注ぎ、ニキの歌に相応しい舞台を作り上げた。2人の白熱の演奏に、自分の曲だということも忘れて没入してしまうほどだった。

鳴りやまない大きな拍手を頂いたあと、アンコールとして丁度都心で見ごろを迎え始めた紅葉にちなんで、今日の出演者用にアレンジした唱歌「紅葉」を披露。途中から聴衆の皆さんにも歌に加わってもらい、僕も奥村さんとの連弾でピアノに参加。お客さんも含め、今日の演奏会に関わった全員で作るハーモニーの中に身を置き、至福の時を共有した。

♪ ♪ ♪

終演後はお客さんに残って頂き、演奏者を囲んだ恒例の茶話会が和やかに行われました。一人一人が自己紹介やコンサートの感想を話したなか、拙作へのお褒めの言葉と並んで、演奏の素晴らしさに圧倒されたこと、小さな会場で演奏者の息遣いを間近に感じながら聴くことが出来て感動したことを伝える声がたくさんありました。こうした手作り感覚のコンサートを続けて来られている「えん」の佐伯さん、それに真剣勝負の演奏で応えるアーティストの方々あってこその感想でしょう。そんな素敵なコンサートを実現して頂けたことに改めて心から感謝申し上げます。

最後に、演奏会にいらしてくださった方がSNSに投稿された感想を転載させて頂きます。これまで面識のなかった方が自発的に寄せてくださった感想は、僕がとても大切にしていることを書いてくださっていることが嬉しく、以下にご紹介します。感想文の掲載を許諾してくださった檜山大輔さんに感謝申し上げます。

金子みすゞさんの詩をモチーフとしたコンサートは、とある理由があって何度も伺っていますが、詩に音楽を付けてきちんとした楽曲として聴かせて頂くものは今回が初めてのこと。楽しみに伺いました。

高島豊さん作曲の楽曲はみすゞさんの詩の世界を、普遍的で共通の、詩の恐らく、正確な理解を元にした上で、さらに高島さん独自の繊細で透明な感覚による音の補足によって、言葉だけに留まらない新しいみすゞさんの世界を提示して頂けたように思います。それは例えば、”雪”や”積もった雪”における詩が終わった後の和音の、それが心臓の鼓動や慟哭であるかの様な響きがみすゞさんの心情の表現の強力な補佐役になっていると感じられた様に。

後半の組曲”森の詩”や”ニキ・ド・サンファルの詩”でも感じたのですが、高島さんの感性は穏やかで、透明であるけれど、決して平凡なものではありません。時にアヴァンギャルドに聴こえる無調(?)の音楽に歌詞ではなく、声を、そして、日本語の訳詞を載せてゆく技術や感性。それは全く違和感を感じない。これは普段から高島さんが言葉に対して、特に日本語に対して、実直に向かい合っておられる証左ではないでしょうか。

今回はそれらの高島さんの作品を正しく理解して、その卓越した技術と音楽的センスによって、音楽として下さったメゾ・ソプラノの小泉さん、チェロの山口さん、ピアノの奥村さんお三方の功績ももちろん、大です。そして、この様な音楽の場を提供して下さる、尾上様や佐伯さんには 心より感謝申し上げます。
(檜山大輔さんからの投稿)


CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け


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