11月28日(火)Fl:エマニュエル・パユ
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.武満 徹/VOICE
2.マラン・マレ/スペインのフォリア
3.ピンチャー/Beyond (A System of Passing)
4.フェルー/3つの小品
5.ヴィトマン/小組曲(2016)
6.C.P.E.バッハ/無伴奏フルート・ソナタ イ短調 Wq.132
7.武満 徹/エア
【アンコール】
1.ヴァレーズ/密度21.5
2.ドビュッシー/シランクス(パンの笛)
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアルの広いステージの中央にたった一台の譜面台が置かれ、そこに登場したエマニュエル・パユは、休憩を挟むことも、曲間で袖に引き上げることもなく、ずっとステージに立ち続け、全てのプログラムをたった一人で演奏し通した。フルートリサイタルでプログラム全てが無伴奏というのは初めての経験だし、こういう形態のリサイタルが行われること自体が稀に違いない。パユはこれまでも、多彩でデリケートな音色と卓越したテクニックを駆使した演奏で魅了して来たが、今夜ほどレアにパユの魅力を堪能したことはなかった。
まず、考え抜かれたプログラム構成が素晴らしい。ここ、タケミツメモリアルで、武満の若い頃の前衛的精神が詰まった意欲作「ヴォイス」に始まり、最晩年の遺作となった「エア」で終わるという枠のなか、現代ものと古典ものの作品を交互に置き、時代が違う音楽同士の間を、境目が感じられないほど自由に行き交う自由さ。演奏からは、古い音楽であっても、今まさに生まれたような新鮮な感覚に満たされているのが感じられた。マラン・マレの作品に使われている、聴き慣れた「ラ・フォリア」のテーマが、変幻自在にドキッとするような変容を遂げる様子や、エマヌエル・バッハのソナタの第1楽章が、その前に置かれたヴィトマンの最新作のあたかも続きのように、拍節感を飛び越えてまるで即興のような自由さで舞いを舞っているように聴こえたり…
パユのフルートの音からは、一本の線が描かれるあいだに、七色の音色があらゆるパターンで色を混ぜ合わせて生まれる多彩な音色の変化が聴かれ、羽化したての蝶の羽のようにデリケートで瑞々しく、無限の可能性を内包しているのが感じられる。現代の作品でも古典ものを吹いても、等しく歌いまわしや呼吸は驚くほど自然で、フレーズの間に生まれる沈黙さえ音楽にしてしまう。
そして限界を感じないほどの卓越した技の妙。冒頭の武満の「ヴォイス」では、演奏者が発する声(言葉)とフルートが緊迫したやり取りを聴かせるが、今夜の演奏ほど苦労の跡を全く感じることなく、音楽の自然な流れの中でこのやり取りが交わされるのを聴いたことがない。ビンチャーの「ビヨンド」での、フルートでは、音が貧相になりがちな高音域の連続で、デリケートな表情を湛えているのも驚き。パユには不可能なことがないかのようだ。
プログラムの最後に置かれた武満の「エア」からは、無限に広がる宇宙のなかで、たった一人の存在一身に、静かなパワーが集まるような感覚に陥った。そして、最後の一音がスーッと暗黒の宇宙に吸い込まれるように消えて行ったあとの長い沈黙が、この稀有のリサイタルの全てを物語っている気がした。
エマニュエル・パユ(Fl)/ポーランド放送室内合奏団 2012.11.28 東京オペラシティコンサートホール
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~
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5.ヴィトマン/小組曲(2016)
6.C.P.E.バッハ/無伴奏フルート・ソナタ イ短調 Wq.132
7.武満 徹/エア
【アンコール】
1.ヴァレーズ/密度21.5
2.ドビュッシー/シランクス(パンの笛)
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアルの広いステージの中央にたった一台の譜面台が置かれ、そこに登場したエマニュエル・パユは、休憩を挟むことも、曲間で袖に引き上げることもなく、ずっとステージに立ち続け、全てのプログラムをたった一人で演奏し通した。フルートリサイタルでプログラム全てが無伴奏というのは初めての経験だし、こういう形態のリサイタルが行われること自体が稀に違いない。パユはこれまでも、多彩でデリケートな音色と卓越したテクニックを駆使した演奏で魅了して来たが、今夜ほどレアにパユの魅力を堪能したことはなかった。
まず、考え抜かれたプログラム構成が素晴らしい。ここ、タケミツメモリアルで、武満の若い頃の前衛的精神が詰まった意欲作「ヴォイス」に始まり、最晩年の遺作となった「エア」で終わるという枠のなか、現代ものと古典ものの作品を交互に置き、時代が違う音楽同士の間を、境目が感じられないほど自由に行き交う自由さ。演奏からは、古い音楽であっても、今まさに生まれたような新鮮な感覚に満たされているのが感じられた。マラン・マレの作品に使われている、聴き慣れた「ラ・フォリア」のテーマが、変幻自在にドキッとするような変容を遂げる様子や、エマヌエル・バッハのソナタの第1楽章が、その前に置かれたヴィトマンの最新作のあたかも続きのように、拍節感を飛び越えてまるで即興のような自由さで舞いを舞っているように聴こえたり…
パユのフルートの音からは、一本の線が描かれるあいだに、七色の音色があらゆるパターンで色を混ぜ合わせて生まれる多彩な音色の変化が聴かれ、羽化したての蝶の羽のようにデリケートで瑞々しく、無限の可能性を内包しているのが感じられる。現代の作品でも古典ものを吹いても、等しく歌いまわしや呼吸は驚くほど自然で、フレーズの間に生まれる沈黙さえ音楽にしてしまう。
そして限界を感じないほどの卓越した技の妙。冒頭の武満の「ヴォイス」では、演奏者が発する声(言葉)とフルートが緊迫したやり取りを聴かせるが、今夜の演奏ほど苦労の跡を全く感じることなく、音楽の自然な流れの中でこのやり取りが交わされるのを聴いたことがない。ビンチャーの「ビヨンド」での、フルートでは、音が貧相になりがちな高音域の連続で、デリケートな表情を湛えているのも驚き。パユには不可能なことがないかのようだ。
プログラムの最後に置かれた武満の「エア」からは、無限に広がる宇宙のなかで、たった一人の存在一身に、静かなパワーが集まるような感覚に陥った。そして、最後の一音がスーッと暗黒の宇宙に吸い込まれるように消えて行ったあとの長い沈黙が、この稀有のリサイタルの全てを物語っている気がした。
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