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2014年 東京藝術大学バッハカンタータクラブ 定期演奏会

2014年02月16日 | pocknのコンサート感想録2014
2月16日(日)東京藝術大学バッハカンタータクラブ
藝大内 奏楽堂

【曲目】
1.バッハ/オルガン前奏「キルンベルガー・コラール集」~ファンタジア「イエス、私の喜びよ」BWV713
Org:田宮亮
2. バッハ/モテット「イエス、私の喜びよ」BWV227
S:中須美喜、金成佳枝/A:野間愛/T:金沢青児/B:谷本喜基
3. バッハ/ブランデンブルグ協奏曲第5番ニ長調 BWV1050
Vn:丸山韶/Fl:岩崎花保/Cem:崎本麻見
4. バッハ/2台のチェンバロのための協奏曲ハ短調 BWV1060
Cem:石川友香里、山下実季奈
5.バッハ/カンタータ第180番「着飾りなさい、おお愛する魂よ」BWV180
S:金成佳枝、久保田絵美/A:野間愛/T:金沢青児/B:谷本喜基

【演奏】
櫻井元希 指揮 東京藝術大学バッハカンタータクラブ

毎年楽しみにしているバッハカンタータクラブの定期演奏会。今回は、モテットやコンチェルトが入る多彩な曲目。モテットが演奏される前に、このコラールを定旋律に置いたファンタジアがオルガンで演奏されたのは、去年の藝祭の「深き淵より…」と同様の試みで、規模の大きな作品を導く前奏としてのいい雰囲気作りとなった。

そのモテットの演奏は、冒頭の"Jesu, meine Freude"(イエスよ、わが喜びよ)の2小節に全てが凝縮されていたと言って良い。単なる確信とか、信仰告白というよりも、もっと様々な感情が含まれた深い呼びかけ。これは、このコラールを歌う人たちの心から、イエスの心へ投げかけられる親密なメッセージだ。多くの不安や悩みを抱えながらも、イエスに寄り添い、共に歩むことで救いがある、という祈りに似た思いが静かに伝わってきた。そしてこの「思い」が、全曲の「定旋律」として常に感じられる演奏だった。決して押しつけがましくなく、バッハの音楽への、そしてバッハがこの曲に込めた思いへの深い共感が伝わる演奏。細やかで深い表情は合唱団からだけでなく、オルガン付きの弦楽合奏からも感じられ、バランスの取れた美しい響きが温かくホールを満たした。

続くブランデンブルク協奏曲からも、バッハへの謙虚な思いが伝わってきた。「学生らしい瑞々しく若々しい演奏」の一段上のレベルを行く、幸福に満ちた極上のバッハ!艶やかで嬉々とした息遣いを聴かせながらも、デリケートな表情を大切にした丸山さんのヴァイオリン、温かく包み込む優しい歌を聴かせた岩崎さんのフルート、そして雅やかな情緒を湛えた崎本さんの流麗なチェンバロ、3人のソロにも聴き惚れたし、弦楽合奏とソロの楽し気なやり取りも秀逸。アグレッシブなバッハも嫌いじゃないが、こういうバッハはやっぱり好きだ。

もう1曲のコンチェルト、ステージ中央にV字型に置かれた2台のチェンバロで石川さんと山下さんが弾き交わすソロは、中央前方の席だとステレオ効果が楽しめた。チェンバロが2台だと配置上反響板を外さざるをえないが、その分ブランデンブルクに比べ細かい音の動きが聞き取り辛かったのがちょっと残念。

最後はカンタータ180番。とても好きな曲だが、今日の演奏でこの曲が益々好きになった。配られたプログラムノートによれば、この曲は、本来神の国へ招待されたことの意味を解さない者への戒めの意味が含まれたテクストを、バッハがむしろ「宴にあずかる喜び」という視点で作曲した、ということだが、まさしくそれを音で体現していた。

第1曲は、ウキウキした気持ちで、でもそこに畏敬の念を持って宴に向かう足取りが感じられた。リコーダーの牧歌的な音色がつつましやかな喜びを伝え、コラールの定旋律を歌うソプラノの幸せ溢れる表現は、歌だけでなく顔の表情からも伝わってくる。続いて金沢さんが歌うアリア「元気を出して」の、なんと艶やかで喜びに輝いていることか。滑らかなメリスマと、嬉々とした気分を見事な装飾音を施して表現した佐々木さんのオブリガート・フルートとのデュエットの愉悦!続くソプラノの金成さんによるレチタティーヴォの何と清澄で気高い歌唱。ドイツ語も美しく、心が洗われるよう。そしてヴィオラのオブリガートに導かれて歌われるコラールの何と情感に満ちた表情!ヴィオラのアルペジョの調べは、絶えることのない信仰心を象徴しているようで、絵に描いたような美しいアンサンブルにただ聴き惚れるしかない。

そしてアルトの野間さんのレチタティーヴォを聴いていよいよ涙腺がヤバくなった。何と深い慈しみを湛えた歌唱だろうか!身も心も委ねたくなる大きな愛を感じた。野間さんは前半のモテットでも小編成の楽曲でソロを受け持ち、第9曲ではコラール旋律を担当していたが、これも尊い啓示を伝える名唱だったし、大人の成熟した歌をたっぷりと聴かせてくれた。

次のソプラノのアリアを歌った久保田さんは合唱でも本当にいい表情を見せていたが、ここでもこぼれるような笑みを湛え、「命の太陽、心の光」とメリスマを交えて繰り返される言葉に瑞々しい輝きを与えていた。命の鼓動を描写するような弦とオーボエの伴奏が心を更に浮き立たせる。一転、谷本さんの厳かだが柔らかなバスのレチタティーヴォに続いて唱和された終結コラールで、心に一点の曇りもなく真っ直ぐにイエスに向かって呼びかける声が、深く深く心の底まで染み込んできて感謝の気持ちで満たされた。

今日は一緒に聴いた奥さんの誕生日。本当に素敵なプレゼントになるコンサートを届けてくれたバッハカンタータクラブのメンバーに、心からありがとうと伝えたい。

2013年 東京芸術大学バッハカンタータクラブ藝祭演奏会
2013年 東京芸術大学バッハカンタータクラブ定期演奏会

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