5月16日(木)東京クヮルテット
~最後の日本ツアー~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.ハイドン/弦楽四重奏曲 第81番 ト長調「ロブコヴィッツ」Op.77-1
2.コダーイ/弦楽四重奏曲 第2番 Op.10
3.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 Op.131
【アンコール】
1. モーツァルト/弦楽四重奏曲 第20番 ニ長調K.499「ホーフマイスター」~第2楽章
2. ハイドン/弦楽四重奏曲第74番ト短調Op.74-3「騎士」Hob.III-74 ~第4楽章
6月でとうとう44年の活動に終止符を打つ東京クヮルテットの最後の日本公演、その中でも日本ツアー最終公演となる王子ホールのコンサートは何としても行きたくて、チケット発売日に奥さんにも協力してもらって電話予約に挑み、15分後に電話が繋がったにもかかわらず既に完売。。どーして? 救われたのは東京オペラシティでやる今夜の公演のチケットはわりと楽に取れたこと。一番聴きたかったシューベルトはやらないが、今夜のベートーヴェンもこのカルテットの本領が発揮されるに違いない曲目。ハイドンとコダーイも楽しみ。
最初はハイドン。余計な力が全く入らない、清廉そのもののようなハイドン。4人のダンサーが息もぴったりにリフトやスローイングなんかを交えながら見事な踊りのアンサンブルを見ているよう。自由で伸びやかで、ある種の悟りの境地に到達しているような神々しさがある。その神々しさは、霞たなびく世界でお釈迦様がおいでおいでしてるような「あの世」の神々しさではなく、宝船に乗った七福神たちが楽しげに誘いかけてくるようなアクティブな神々しさ。
続くはコダーイ。ハイドンでは清流のようなさらさらした水が、俄然粘っこくなった。第1楽章は、その粘っこい語り口で懐かしそうに昔話を聞かせる心暖まる情景が浮かんできた。とても東欧チック。第2楽章は、第1楽章で和やかに語り合っていた4人が、今度は一人ずつ気持ちを込めて、時に熱く語る告白タイム。それを他の3人が相づちを打ちながら聞いているうちに、4人の絆が強まってくる。そして第3楽章は、すっかり打ち解けて意気投合した4人が、楽しい宴会を繰り広げる。東京クヮルテットの演奏を聴いていたら、こんなストーリーが目に浮かんできた。楽しげで心暖まる、そして活き活きしたアンサンブルが素晴らしい。
いよいよ最後の曲になってしまった。このベートーヴェンは、生涯忘れられないようなスゴい演奏になった。ベートーヴェン晩年のこのカルテットは、これまで何度もライブで聴いているが、「何やらスゴい曲だ」とは感じても、いつも底無しの闇のなかをさ迷っているようなつかみどころのなさ、難しさを感じていた。この曲の本当のスゴさを思い知らせてくれる演奏にいつか出逢えるのだろうか、それとも自分はこの音楽のスゴさをとうとう実感できずに終わってしまうのだろうか、とも思っていたが、今夜の東京クヮルテットの演奏を体験して、とうとうこの音楽の真髄を全身で受けとめることができた。
決して同じ場所に留まらず、戻るのこともなく、次から次へと曲想を変えつつ進むこの音楽は、どこか得体の知れないものを持っている。演奏する側は徹底的に調べて、この正体を突き止めて演奏に臨むことを要求されているような音楽。しかしそれができたからといって、聴き手の心を捉えるかと言えばまだ足りない、近づこうとすればするほど遠ざかってしまうようなところが、この作品にはあるような気がする。
この曲は、最高のテクニックで真摯に向き合い本気で取り組むだけではまだ足りず、特別なインスピレーションのようなものが演奏者に降り立って初めて克服できるのでは、とさえ思ってしまうが、東京クヮルテットは、これがオペラシティでのさよなら公演の最後の曲だなんて感傷に浸ることは全くなく、果敢に立ち向かった。それが必然的に奇跡をもたらしたのかも。4人は、4つの魂をぶつけ合い、或いは融合させ、一進一退の「駆け引き」を繰り広げているように感じた。この駆け引きは事前に準備されたものではなく、正にこの場で生まれ、次にどこに向かうかわからないなかで、「今の状況ではここしかない」という方向を見つけて進んで行く感じ。空中分解スレスレで、ほんの一瞬のスキも許されないスリルに満ちた真剣勝負の「賭け」を繰り返しながら歩を進めているようで、聴いている方も一瞬たりとも聴き逃せないという気持ちにさせられる。うまく説明できないが、こんな真剣勝負が大きな成果を上げつつ続くことで、聴いていてとんでもない高みへと連れて行かれた。音楽が終盤に近づいてくると、もう何だか感極まって胸が詰まってきてしまった。「すごい!」としか言えない演奏。これは紛れもなく、このカルテットだからこそ成し得た偉業だ。
アンコールでは、そのベートーヴェンでの頂点に上り詰めた気分を癒すかのような、調和の真骨頂とも言えるモーツァルトを聴かせてくれたあとに、ハイドンではまた果敢に立ち向かった。最後の最後までアクティブであり続けた東京クァルテットの演奏!超満員の会場はスタンディングオヴェーションでブラボーと大喝采の渦に包まれた。僕もいち早く立ち上がって、このカルテットの偉業を心から称え、感謝と感動の気持ちを伝えた。
ああ、いつも「また来年聴ける」と思っていた東京クヮルテットだが、これでもう聴けないのか… でも、こんな高みへ上りつめたところで解散する東京クァルテットにはやはり敬意を表したい。でもでも、王子ホールのラストコンサートは聴きたかったなぁ。。。
東京クヮルテット Vol.7 <第2夜> 2012.7.6 王子ホール
東京クヮルテット Vol.7 <第1夜> 2012.7.5 王子ホール
~最後の日本ツアー~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.ハイドン/弦楽四重奏曲 第81番 ト長調「ロブコヴィッツ」Op.77-1
2.コダーイ/弦楽四重奏曲 第2番 Op.10
3.ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 Op.131
【アンコール】
1. モーツァルト/弦楽四重奏曲 第20番 ニ長調K.499「ホーフマイスター」~第2楽章
2. ハイドン/弦楽四重奏曲第74番ト短調Op.74-3「騎士」Hob.III-74 ~第4楽章
6月でとうとう44年の活動に終止符を打つ東京クヮルテットの最後の日本公演、その中でも日本ツアー最終公演となる王子ホールのコンサートは何としても行きたくて、チケット発売日に奥さんにも協力してもらって電話予約に挑み、15分後に電話が繋がったにもかかわらず既に完売。。どーして? 救われたのは東京オペラシティでやる今夜の公演のチケットはわりと楽に取れたこと。一番聴きたかったシューベルトはやらないが、今夜のベートーヴェンもこのカルテットの本領が発揮されるに違いない曲目。ハイドンとコダーイも楽しみ。
最初はハイドン。余計な力が全く入らない、清廉そのもののようなハイドン。4人のダンサーが息もぴったりにリフトやスローイングなんかを交えながら見事な踊りのアンサンブルを見ているよう。自由で伸びやかで、ある種の悟りの境地に到達しているような神々しさがある。その神々しさは、霞たなびく世界でお釈迦様がおいでおいでしてるような「あの世」の神々しさではなく、宝船に乗った七福神たちが楽しげに誘いかけてくるようなアクティブな神々しさ。
続くはコダーイ。ハイドンでは清流のようなさらさらした水が、俄然粘っこくなった。第1楽章は、その粘っこい語り口で懐かしそうに昔話を聞かせる心暖まる情景が浮かんできた。とても東欧チック。第2楽章は、第1楽章で和やかに語り合っていた4人が、今度は一人ずつ気持ちを込めて、時に熱く語る告白タイム。それを他の3人が相づちを打ちながら聞いているうちに、4人の絆が強まってくる。そして第3楽章は、すっかり打ち解けて意気投合した4人が、楽しい宴会を繰り広げる。東京クヮルテットの演奏を聴いていたら、こんなストーリーが目に浮かんできた。楽しげで心暖まる、そして活き活きしたアンサンブルが素晴らしい。
いよいよ最後の曲になってしまった。このベートーヴェンは、生涯忘れられないようなスゴい演奏になった。ベートーヴェン晩年のこのカルテットは、これまで何度もライブで聴いているが、「何やらスゴい曲だ」とは感じても、いつも底無しの闇のなかをさ迷っているようなつかみどころのなさ、難しさを感じていた。この曲の本当のスゴさを思い知らせてくれる演奏にいつか出逢えるのだろうか、それとも自分はこの音楽のスゴさをとうとう実感できずに終わってしまうのだろうか、とも思っていたが、今夜の東京クヮルテットの演奏を体験して、とうとうこの音楽の真髄を全身で受けとめることができた。
決して同じ場所に留まらず、戻るのこともなく、次から次へと曲想を変えつつ進むこの音楽は、どこか得体の知れないものを持っている。演奏する側は徹底的に調べて、この正体を突き止めて演奏に臨むことを要求されているような音楽。しかしそれができたからといって、聴き手の心を捉えるかと言えばまだ足りない、近づこうとすればするほど遠ざかってしまうようなところが、この作品にはあるような気がする。
この曲は、最高のテクニックで真摯に向き合い本気で取り組むだけではまだ足りず、特別なインスピレーションのようなものが演奏者に降り立って初めて克服できるのでは、とさえ思ってしまうが、東京クヮルテットは、これがオペラシティでのさよなら公演の最後の曲だなんて感傷に浸ることは全くなく、果敢に立ち向かった。それが必然的に奇跡をもたらしたのかも。4人は、4つの魂をぶつけ合い、或いは融合させ、一進一退の「駆け引き」を繰り広げているように感じた。この駆け引きは事前に準備されたものではなく、正にこの場で生まれ、次にどこに向かうかわからないなかで、「今の状況ではここしかない」という方向を見つけて進んで行く感じ。空中分解スレスレで、ほんの一瞬のスキも許されないスリルに満ちた真剣勝負の「賭け」を繰り返しながら歩を進めているようで、聴いている方も一瞬たりとも聴き逃せないという気持ちにさせられる。うまく説明できないが、こんな真剣勝負が大きな成果を上げつつ続くことで、聴いていてとんでもない高みへと連れて行かれた。音楽が終盤に近づいてくると、もう何だか感極まって胸が詰まってきてしまった。「すごい!」としか言えない演奏。これは紛れもなく、このカルテットだからこそ成し得た偉業だ。
アンコールでは、そのベートーヴェンでの頂点に上り詰めた気分を癒すかのような、調和の真骨頂とも言えるモーツァルトを聴かせてくれたあとに、ハイドンではまた果敢に立ち向かった。最後の最後までアクティブであり続けた東京クァルテットの演奏!超満員の会場はスタンディングオヴェーションでブラボーと大喝采の渦に包まれた。僕もいち早く立ち上がって、このカルテットの偉業を心から称え、感謝と感動の気持ちを伝えた。
ああ、いつも「また来年聴ける」と思っていた東京クヮルテットだが、これでもう聴けないのか… でも、こんな高みへ上りつめたところで解散する東京クァルテットにはやはり敬意を表したい。でもでも、王子ホールのラストコンサートは聴きたかったなぁ。。。
東京クヮルテット Vol.7 <第2夜> 2012.7.6 王子ホール
東京クヮルテット Vol.7 <第1夜> 2012.7.5 王子ホール