facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

アナと室内楽の名手たち ~チマチェンコ女史とともに~

2015年04月27日 | pocknのコンサート感想録2015
4月27日(月)アナ・チマチェンコと日本の名手たちによる室内楽
紀尾井ホール


【曲目】
1.モーツァルト/ピアノ四重奏曲第2番変ホ長調K.493
2.ベートーヴェン/七重奏曲 変ホ長調Op.20
【アンコール】
1. ベートーヴェン/七重奏曲~第5楽章
2. ベートーヴェン/七重奏曲~第3楽章
【演奏】Vn:アナ・チュマチェンコ/Pf:菊池洋子/Vla:鈴木学/Vc:中木健二/CB:池松宏/Cl:齋藤雄介/Fg:福士マリ子/Hrn:福川伸陽

アナ・チマチェンコは、数多くの優秀なヴァイオリニストを育てた名教師として名高いが、自身も名ヴァイオリニストであることは、2012年にN響の定期で聴いたシューマンのコンチェルトで既知のところ。そのチマチェンコが紀尾井ホールの企画で、第一線で活躍する日本の若手でプレイヤー達と室内楽をやると知れば、これは是非とも聴いてみたくなる。プログラムはモーツァルトとベートーヴェンの室内楽の代表作と言える作品を並べた、シンプルだけれど魅力的な選曲。

前半はモーツァルト。2つあるピアノ四重奏曲の、演奏頻度としては少ない方の第2番は、チマチェンコと年齢差もあり、顔馴染みというわけでもないメンバーとの間の空気を和ませるには絶好の音楽だということが、演奏を聴いていて感じられた。チマチェンコのヴァイオリンの音は温もりと優しさに溢れ、時にヴィオラのような味わい深さを聴かせる。この音色と、驚くほど滑らかな音の動きでアンサンブルを柔らかく包み込む。4人が共有する空間が温かく幸せなオーラで満たされているように感じた。けれどもそこにはいつも冷静なチマチェンコの職人の眼差しがあり、演奏が気分に流されたり、しまりがなくなったりすることはない。

4人のなかでもウェイトが大きいピアノを受け持った菊池洋子は、そんなチマチェンコが発するメッセージを目と耳と空気で感じ取り、優美で自然で闊達なピアノを聴かせた。ヴィオラの鈴木さん、チェロの中木さんも楽しげに自然な歌を奏でた4人のアンサンブルは、お母さんを中心としたファミリーの演奏のようにアットホームな親しみ深さも感じられた。

今夜の出演者が勢ぞろいした後半のベートーヴェンでは、名手アナの魅力が一層光り、アンサンブルとしても充実の極みと言える演奏が実現した。とにかくみんなが楽しそうに演奏している姿が素敵だった。たとえ話も交えて各楽章を振り返ってみよう…

第 1 楽章:7 人が休日のエクスカーションで、波しぶきを上げながら意気揚々とカヌーを漕いでいる。メロディーを受け持つプレイヤー一人一人の生き生きとした表情がクローズアップされる。
第 2 楽章:冒頭の斎藤さんのふくよかなクラリネットの旋律とアナの伴奏型が、ウトウトした子供と、その背中を優しく叩いて寝かしつけているお母さんのよう。楽章を通してそんなほのぼのとした優しさが伝わってきた。
第3楽章:屈託のないメヌエットは 7 人が代わる代わる楽しげに踊る様子が浮かんだ。トリオに入るところで、微妙にテンポが変化するが、この何とも絶妙で自然な感覚のタイミングを握るアナ!
第 4 楽章:第 2変奏でのアナの流麗で伸びやかなヴァイオリンがまた素晴らしい。ここでのヴァイオリンは、表面をさらりと撫でるように弾く人が多い気がするが、アナは心地よいマッサージを施すようにさりげなく、しかししっかりとツボを押さえている。
第5楽章:ヴァイオリンが活躍する場面は、ともすれば大汗をかいて頑張ってしまいがちだが、ここもアナの料理の手際のよさが秀でる。そう、まさにこの「料理」というのがアナのヴァイオリンを言い表すのに相応しい。包丁さばき、調味料の配分、鍋さばきどれもが自然な職人技。得意の一品を慣れた手つきで、回りに指示を与えながらテキパキと仕上げていく。愛情がたっぷりと注がれた料理からはおいしい匂いが立ちこめる。
第6楽章:楽しいエクスカーションの締めくくり。帰りのバスに揺られながらも、メンバーは疲れた様子も見せずにカヌー体験のことなどで車内はワイワイと話は尽きない。みんなの笑い声が山や谷にこだまする。そこにはいつもアナの優しい眼差しがある。 

…とこんな具合だろうか。こんなことを書いていたら、また演奏会のワクワクした感動が蘇ってきた。

ベートーヴェンの音楽そのものが、屈託のない楽しいディヴェルティメントの性格を持っているので、どんな演奏でも「楽しさ」を目指すことに変わりはないだろうが、アナと仲間たちによる今夜の演奏には、そこに心のこもった美味しい手作りの料理があり、上っ面だけではない心が通った会話があり、素敵な思い出としていつまでも心に残る。これが今夜の演奏ならではのもの。チマチェンコから発せられたメッセージを他のメンバーが自然に受け止めて、それを自分の言葉で繋げ、みんなでアンサンブルを楽しんだ素晴らしいゼプテットだった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コバケン/読響の「復活」 | トップ | ラ・フォル・ジュルネ・オ・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2015」カテゴリの最新記事