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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ピアノのアトリエ vol.13

2022年11月07日 | pocknのコンサート感想録2022
11月4日(金)ピアノのアトリエ vol.13
~ピアノのアトリエ工房13回公演~
杉並公会堂小ホール

【曲目】
♪ 湯浅譲二/スリースコア・セット
Pf:深澤倫子
♪ セルミラ/3つの前奏曲
Pf:梶村有美
♪ リゲティ/ピアノのための練習曲集~第4番「ファンファーレ」、第5番「虹」
Pf:近藤綾子
♪ 熊谷美紀/生物多様性
Pf:和泉真弓
♪ ♪ ♪
♪ 西村朗/三つの幻影~「水」、「祈祷」
Pf:阿部宏絵
♪ デュサパン/ピアノのためのエチュード第5番、第6番
Pf:堀切洋子
♪ 鈴木治行/ノーバディ・キャン・ディナイ
Pf:石田麻由子
♪ 西村朗/オパール光のソナタ
Pf:井口みな美

ピアニストの中村和枝さんが主宰する現代音楽ピアニスト集団「ピアノのアトリエ」が定期的に行っている演奏会を初めて聴いた。内外の8人の作曲家の作品が、8人のピアニストによって演奏された。

湯浅譲二の「スリースコア・セット」は、20代の若き湯浅がマスターした様々な技法を誠実に取り入れている様子が伝わる意欲作。深澤さんの堅実で安定した演奏からは、作品の持つ力が静かに伝わってきた。
セルミラの「3つの前奏曲」からは、ウェーベルンを思わせる静謐な世界が感じられた。梶村さんの磨かれたピアノの音が、結晶のように澄んだ輝きを放っていた。
近藤さんが演奏したリゲティの「ファンファーレ」は、規則的で無機的な左手と感情を湛えた右手が、まるで2人で演奏しているように異なる世界を描いた。「虹」は抒情性豊かな音楽で、音楽史に名を刻んだ作曲家の厳しさと優しさが伝わった。
熊谷美紀の「生物多様性」は、無数の微粒子が光りを浴びてキラキラと優雅に舞っているようなファンタジックな音楽。和泉さんのピアノは揺らぎや香りをとてもデリケートに表現し、夢のような美しいシーンを描いていくと共に、音楽から溢れる生命力をダイナミックに引き出し、作品が目指したという「多種多様な生命へのオマージュ」を壮大なタッチで描いた。

西村朗の「水」と「祈祷」は、どちらも濃厚でエモーショナルに迫って来る音楽。「水」では激しい衝動に心の底から突き動かされ、「祈祷」はそれを鎮めながらも熱い血が通う。阿部さんのピアノは高いテンションと明晰なピアニズムで雄弁にこれらの音楽を語り聴かせ、魔性すら感じさせる凄みを帯びて迫ってきた。
デュサパンのエチュード第5番は、深い沈黙が感じられる音楽。堀切さんは高い集中力で音楽の奥深くに沈黙を押し込め、密度と緊迫感を増幅させ、押し殺したような重みで迫ってきた。激しく動きまわる第6番でも同様に濃密で緊迫した気を曲に投入し続け、音楽は焦げ臭いほどの熱を帯びてくるようだった。
鈴木治行氏の「ノーバディ・キャン・ディナイ」は、作曲者の解説によれば、ビートルズの楽曲を潜ませているとのこと。聴き覚えのあるメロディーも現れ、親しみやすいハーモニーや旋律が断片的に散りばめられたコラージュ風の音楽。石田さんはこれに真正面から向き合い、誠実に音を綴って行く印象を受けた。
最後は再び西村作品。こちらも濃厚でエモーショナルであることに加え、より色彩感に満ちてゴージャスな音楽だ。井口さんはこの難曲に暗譜で挑み、集中力を持続させた精緻で鮮やかな演奏を繰り広げた。響きをどうまとめ、何をクローズアップするかと云った設計図をしっかり持ち、豊潤な響きに溢れ、切れ味も鋭い演奏で聴き手を魅了した。

多彩な作品をハイレベルの演奏で聴けたことで様々な発見や感動があり、ピアノ曲というのは古い時代から現代に至るまで、実に幅広い時代に渡って豊富な優れた作品があることを実感する機会ともなった。現代作品だけも知られていない名曲はいくらでもありそうだし、新たに生まれる作品も含め、「ピアノのアトリエ」が新しいピアノ音楽をどんどん開拓していくことを期待したい。
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