4月29日(月)伊藤 恵 ピアノ・リサイタル
~春をはこぶコンサート ふたたび~
「ベートーヴェンの作品を中心に」Vol.5
紀尾井ホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番ホ長調 Op.109
2.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110
3.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 Op.111
毎年4月29日に行われている伊藤恵さんの「春をはこぶコンサート」が、今年も紀尾井ホールで開催された。今回で5回目となる「ベートーヴェンの作品を中心に」と題されたシリーズは、聴けなかった昨年に続きオールベートーヴェン。最後の3つのソナタという、ひたすら高みへ向かう音楽でありながら、聴き手にとって(恐らく演奏者にとっても)超重量級のプログラムで挑むリサイタルを聴いた。
恵さんは一歩ずつその高みへ向かって行くように落ち着いた呼吸で歩を進めて行った。これまでもそうであったようにベートーヴェンの音楽を大きく捉えて、全てを慈しむように表現する。細部の表現では、心の底の思いを言葉で丁寧に伝えるように語りかけてきた。
ベートーヴェンが晩年に至った深淵な音楽に、気負うことなく、しかし深い愛情と敬意を持って向き合い、等身大のベートーヴェンの姿を描いて行った。アグレッシブな表現は敢えて抑制しているようにも感じられ、強烈なディナミークの対比をもっと出してもいいと思うこともあったが、これは聴覚に直接訴えて刺激を与えるよりも、聴き手の心の琴線に触れたいということなのだろう。そんな思いがとてもよく伝わってきたのが後半に演奏した32番のソナタ。長大な第2楽章では、内面に抑え込まれた情念がじわじわと解放され、最後は熱いものがこみ上げてきてジーンとした。この心を揺さぶられる境地へは、感情を押し殺したような厳しいアプローチの第1楽章から一本の線で繋がっている一貫性が感じられた。成るべくして成った立派な演奏だ。
終演後に恵さんがトークでこれら3つのソナタについて、「ベートーヴェンの神殿を目差して登って行った山の頂上には神殿はなく、楽譜が置いてあるだけ。『ここにどんな神殿を築くかは自らが考えなさい。』と諭されている境地」と話してくれた。恵さんにしか表現できないようなベートーヴェンの世界を垣間見ることが出来た気がした。
今井信子(Vla)&伊藤恵(Pf) 2023.2.12 東京文化会館小ホール
伊藤 恵 春をはこぶコンサート ふたたび 2022.4.29 紀尾井ホール
伊藤 恵 春をはこぶコンサート ふたたび 2018.4.29 紀尾井ホール
伊藤 恵 ピアノ・リサイタル 2017.3.24 ヤマハホール
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ベートーヴェンが晩年に至った深淵な音楽に、気負うことなく、しかし深い愛情と敬意を持って向き合い、等身大のベートーヴェンの姿を描いて行った。アグレッシブな表現は敢えて抑制しているようにも感じられ、強烈なディナミークの対比をもっと出してもいいと思うこともあったが、これは聴覚に直接訴えて刺激を与えるよりも、聴き手の心の琴線に触れたいということなのだろう。そんな思いがとてもよく伝わってきたのが後半に演奏した32番のソナタ。長大な第2楽章では、内面に抑え込まれた情念がじわじわと解放され、最後は熱いものがこみ上げてきてジーンとした。この心を揺さぶられる境地へは、感情を押し殺したような厳しいアプローチの第1楽章から一本の線で繋がっている一貫性が感じられた。成るべくして成った立派な演奏だ。
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