2月12日(日)仲道郁代(Pf)
~オール・ベートーヴェン・プログラム~
サントリーホール
【曲目】
1. ソナタ第17番ニ短調Op.31-2「テンペスト」
2.ソナタ第7番二長調Op.10-3
3.ソナタ第14番嬰ハ短調Op.27-2「月光」
4.ソナタ第23番へ短調Op.57「熱情」
【アンコール】
1. ベートーヴェン/ソナタ第8番ハ短調Op.13「悲愴」~第2楽章
2. ショパン/エチュード「エオリアンハープ」
3. エルガー/愛の挨拶
仲道さんはベートーヴェンのソナタをライフワークとして取り組んでいるが、オール・ベートーヴェンのリサイタルを聴くのは久しぶり。会場で配られたプログラムノートは、いつものように仲道さん自らが手がけたものだが、曲に対する深い読みからベートーヴェンの「思い」を汲み取り、それを綴った仲道さんの「思い」を読むと、深くてストイックなアプローチの演奏になるように思った。
実際に耳にした仲道さんの弾くベートーヴェンからは、攻撃性や刹那的な感情の沸騰といったものとは距離を置き、じっくりと音楽と対峙し、吟味を重ね、その結果得られたベートーヴェンの心の奥底に見える、変わることのない「思い」を、愛情を込めて丁寧に綴っている様子が窺えた。そこからは、想像していたストイックなものではなく、温かく包みこみ、深みへ導いてくれる心の声が聴こえた。
そうしたアプローチが美しく実を結んだのは、作品10-3のソナタ。ベートーヴェンの若さ溢れる感性が冴えた作品だが、意気揚々とした両端楽章より、そこに挟まれた第2、3楽章に込められた深い詩情が素晴らしかった。第2楽章は、心の奥底から溢れ出た熱い思いが、天にまで上って行くようで、その哀しみに満ちた姿は典雅な趣きを具えていた。そして、郁代さんが「いちばん好き」という、第2楽章が終わり、第3楽章へ移る場面の、暖かな空気の優美なゆらぎ、そして、命が芽吹く春の空気を胸いっぱいに吸い込んで戯れ遊ぶ「舞曲」は、天上の世界へ誘ってくれるようで、幸せな気持ちでいっぱいになった。
ところで、プログラムノートで仲道さんは「熱情ソナタ」について、「ベートーヴェンは、この曲を荒れ狂うように激しく弾いたでしょうか?」と疑問を投げかけているが、仲道さんのベートーヴェンに対するアプローチは、この曲に限らず、表向きの激しさを越えて、その内部に潜むものを訴えようとしているようだった。それを最も端的に感じたのは、「熱情」の第2楽章の最後のピアニッシモの和音から、突如アタッカで減七の和音がフォルティッシモで鳴り響き、第3楽章の開始を告げるところを強音で弾かなかったこと。ただ、激しさに代えて仲道さんが訴えようとしているものが何であるかが伝わってこなかったのは残念だった。
どの曲でも心を捉えるところはあったが、今日のリサイタルで心から共感を覚えることができたのは、結局作品10-3とアンコールだけだった。最近はプレイエルのような、よりデリケートな音を出すピアノにも傾倒している仲道さんの「デリケートなもの」への探求が、ベートーヴェンで今後どのように展開するのか、注目して行きたい。
~オール・ベートーヴェン・プログラム~
サントリーホール
【曲目】
1. ソナタ第17番ニ短調Op.31-2「テンペスト」
2.ソナタ第7番二長調Op.10-3
3.ソナタ第14番嬰ハ短調Op.27-2「月光」
4.ソナタ第23番へ短調Op.57「熱情」
【アンコール】
1. ベートーヴェン/ソナタ第8番ハ短調Op.13「悲愴」~第2楽章
2. ショパン/エチュード「エオリアンハープ」
3. エルガー/愛の挨拶
仲道さんはベートーヴェンのソナタをライフワークとして取り組んでいるが、オール・ベートーヴェンのリサイタルを聴くのは久しぶり。会場で配られたプログラムノートは、いつものように仲道さん自らが手がけたものだが、曲に対する深い読みからベートーヴェンの「思い」を汲み取り、それを綴った仲道さんの「思い」を読むと、深くてストイックなアプローチの演奏になるように思った。
実際に耳にした仲道さんの弾くベートーヴェンからは、攻撃性や刹那的な感情の沸騰といったものとは距離を置き、じっくりと音楽と対峙し、吟味を重ね、その結果得られたベートーヴェンの心の奥底に見える、変わることのない「思い」を、愛情を込めて丁寧に綴っている様子が窺えた。そこからは、想像していたストイックなものではなく、温かく包みこみ、深みへ導いてくれる心の声が聴こえた。
そうしたアプローチが美しく実を結んだのは、作品10-3のソナタ。ベートーヴェンの若さ溢れる感性が冴えた作品だが、意気揚々とした両端楽章より、そこに挟まれた第2、3楽章に込められた深い詩情が素晴らしかった。第2楽章は、心の奥底から溢れ出た熱い思いが、天にまで上って行くようで、その哀しみに満ちた姿は典雅な趣きを具えていた。そして、郁代さんが「いちばん好き」という、第2楽章が終わり、第3楽章へ移る場面の、暖かな空気の優美なゆらぎ、そして、命が芽吹く春の空気を胸いっぱいに吸い込んで戯れ遊ぶ「舞曲」は、天上の世界へ誘ってくれるようで、幸せな気持ちでいっぱいになった。
ところで、プログラムノートで仲道さんは「熱情ソナタ」について、「ベートーヴェンは、この曲を荒れ狂うように激しく弾いたでしょうか?」と疑問を投げかけているが、仲道さんのベートーヴェンに対するアプローチは、この曲に限らず、表向きの激しさを越えて、その内部に潜むものを訴えようとしているようだった。それを最も端的に感じたのは、「熱情」の第2楽章の最後のピアニッシモの和音から、突如アタッカで減七の和音がフォルティッシモで鳴り響き、第3楽章の開始を告げるところを強音で弾かなかったこと。ただ、激しさに代えて仲道さんが訴えようとしているものが何であるかが伝わってこなかったのは残念だった。
どの曲でも心を捉えるところはあったが、今日のリサイタルで心から共感を覚えることができたのは、結局作品10-3とアンコールだけだった。最近はプレイエルのような、よりデリケートな音を出すピアノにも傾倒している仲道さんの「デリケートなもの」への探求が、ベートーヴェンで今後どのように展開するのか、注目して行きたい。