ご近所さんが、庭で採れたかりんを3つ持ってきてくださった。
「よかったら、もらってね。
ハチミツに漬けると喉にもいいし、
Sさんはかりんの香りが好きだから、しばらく玄関に置いて
香りを楽しむのよって言ってたわ」
かりんを手にしたのは初めての私。
どんな香りなんだろう?
ハチミツに漬ける前に少し鑑賞用に部屋に置いてみる。
確かにフルーツらしい芳醇な、でも控えめな香りが漂う。
「あ、何かの匂いに似てるよな」と思ったのだが、
その「何か」が思い出せない。
つい2週間ほど前も、旅の途中、山の中で嗅いだ匂いが
「何か」の匂いに似ていたのに、
その「何か」が思い出せなかったことがあり、
脳の中の記憶の中枢に異常が出てきたのかな、と思ったほど。
私の匂いの記憶は、以前ははっきりしていたものだった。
息子が新生児の頃、オムツを替えていて
「あ、この匂い知ってる」と鼻が反応した。
その時ふいに、遠い昔に嗅いだことのある、
赤ちゃんだった弟のオムツの匂いだと気づいた。
自分が4歳の頃に嗅いだ匂いをまだ脳は覚えていて、
20数年後に思い出したのだった。
懐かしい、甘酸っぱい匂い。胸がキュンとなった。
匂いの記憶で一番古いものは、
私が2歳か3歳の頃にいつも来るのを楽しみにしていた
『ロバのパン屋さん』の独特の匂い。
これは移動販売のパン屋さんなのだが、
「パン売りのロバさん」という曲をかけながら、
街を巡ってくる車で、
パンとはまた違う香ばしい匂いがしていたものだった。
あとで思い返すと、あれはみたらしだんごの匂いだった。
記憶にはないが、みたらしだんごも売っていたらしい。
かりんの匂いから、ロバのパン屋さんの匂いまで思い出してしまい、
匂いの記憶をたどる旅ができた。
ところで、かりんの匂いと似ていた匂いを、
だいぶあとになって思い出した。
洋梨の匂いであった。
「パン売りのロバさん」の曲はこちら→ロバのパン屋
(11月21日 紫乃 記)
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