Don't forget MY will, dear.
今では 記憶している者が、 私の外には 一人もあるまい。
三十年あまり前、世間のひどく不景気であった年に
西美濃の山の中で 炭を焼く五十ばかりの男が 子供を二人まで、
女房は とくに死んで、あとには 十三になる 男の子が一人あった。
そこへ どうした事情であったか、同じ歳くらいの小娘を 貰ってきて
山の炭焼小屋で 一緒に育てていた。
その子たちの名前はもう 私も忘れてしまった。
何としても 炭は売れず、
何度 里へ降りても、いつも一合の米も 手に入らなかった 。
最後の日にも 空手で戻ってきて、
飢えきっている 小さい者の顔を 見るのがつらさに
すっと 小屋の奥へ入って 昼寝をしてしまった。
眼がさめて 見ると、
小屋の口一ぱいに 夕日がさしていた。
秋の末の事であったという。
二人の子供が その日当りのところに しゃがんで、
頻 りに 何かしているので 傍へ行って見たら 一生懸命に
仕事に使う 大きな斧を磨 いでいた。
おとう、
これで わしたちを殺してくれ と いったそうである。
そうして 入口の材木を枕にして、二人ながら 仰向けに寝たそうである。
それを見ると くらくらとして、
前後の考えもなく 二人の首を 打ち落してしまった 。
それで 自分は死ぬことができなくて、やがて 捕えられて 牢に入れられた。
小屋の口一ぱいに 夕日がさしていた。
秋の末の事であったという。
二人の子供が その日当りのところに しゃがんで、
仕事に使う 大きな斧を
おとう、
これで わしたちを殺してくれ と いったそうである。
そうして 入口の材木を枕にして、二人ながら 仰向けに寝たそうである。
それを見ると くらくらとして、
前後の考えもなく 二人の首を 打ち落してしまった 。
それで 自分は死ぬことができなくて、やがて 捕えられて 牢に入れられた。
HAUSER - Adagio for Strings (Barber)
おとう殺してくれと 斧を磨 いだ子の
我
くらくらとして 子らの首を打ち落とした男の
我々
我
くらくらとして 子らの首を打ち落とした男の
我々
ころり 転がり落ちた ふたつの首がみる
地
おとうのからだ
空
赤い
あかい
ああ すべて 赫い。
まこと とりなすゼンにんがらくど
このヨに
コのちに
顔真卿「祭姪文稿」 台湾国立故宮博物院 蔵
きり一葉 みなくれなゐのうつしよが ゆれる
اقْرَأْ بِاسْمِ رَبِّكَ الَّذِي خَلَقَ
خَلَقَ الإِنسَانَ مِنْ عَلَقٍ
血 き かのたかまがはらを 祓い流し給え
われは ここぞ。
とどろき たぎるなおび
永遠 のりうどうよ
さかしらな あわれみの情念に憑 みて
コのいのち 徒によみすれば 坤輿が髄 の一切 業火に堕つる
さかしらな あわれみの情念に
コのいのち 徒によみすれば 坤輿が
اقْرَأْ بِاسْمِ رَبِّكَ الَّذِي خَلَقَ
خَلَقَ الإِنسَانَ مِنْ عَلَقٍ
しんめい ありふれし神一厘を斥け
ちぢのいまわに 哭き絶えん すべての過去を 未来を ゲンザイを
ちぢのいまわに 哭き絶えん すべての過去を 未来を ゲンザイを
われは ここぞ。
Hell's Comin' With Me - Poor Mans Poison - folk rock music video
死に切つて嬉しさうなる顔二つ
あさ 駅に着くと コンコースに
まあるい赤銅色の おおきな滴りが 落ちていました。
てん。てん。てん。
なまなましい 血の跡
私の歩の前に かのひとの血が 先んじていて
しぜん 私はそのひとのあとを 追うように 並んで歩いた
あなた。
アナタは 一体 どこへいくの
ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、
コインロッカーの右端で 休もう。
・・・そうだ。
中央改札口へ 進む まっすぐ まっすぐだ
てん。てん。てん。
階段を上れば 待合室
そこには ベンチがある。 ・・・あゝ
ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、
イタイ。 まだ時間があるだろう。
いたい まだイタイ ココにいたい イタイ・・・
コインロッカーの右端で 休もう。
・・・そうだ。
中央改札口へ 進む まっすぐ まっすぐだ
てん。てん。てん。
階段を上れば 待合室
そこには ベンチがある。 ・・・あゝ
ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、
イタイ。 まだ時間があるだろう。
いたい まだイタイ ココにいたい イタイ・・・
Et dicebat:
“ Qui habet aures audiendi, audiat ” (Mark 4:2)
ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、
ねえ、何故 みずのないちでは かなしい カナンの地となってしまうのです?
“ Qui habet aures audiendi, audiat ” (Mark 4:2)
・・・・・・誰だか 知れない
あなたの血だまりのすぐ横に 私は腰掛ける
血を流して 何かを 待っていた アナタを 傍で かんじられる様に
てん。てん。てん。
黒づくめのかたゐは
あまたの首を 打ち落とさずにはいられない
あなたの血だまりのすぐ横に 私は腰掛ける
血を流して 何かを 待っていた アナタを 傍で かんじられる様に
てん。てん。てん。
黒づくめのかたゐは
あまたの首を 打ち落とさずにはいられない
ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、
ねえ、何故 みずのないちでは かなしい カナンの地となってしまうのです?
ちあきなおみ「紅い花」
一 大将之連枝或ハ幌武者再拝採等之首ヲ見ル
是ヲ検知ト称ス備経営等対面ノ如シ
はじめのほどは。いきたここちもなく。
たゞものおそろしや。
こはやと計。われ人おもふたが。後には。
なんともおじやる物じやない。
我々母人も。そのほか。家中の内儀。
むすめたちも。みな/\。天守に居て。鉄鉋玉を鋳ました。
また味かたへ。とつた首を。天守へあつめられて。
それ/\に。札をつけて。覚えおき。さい/\。くびにおはぐろを付て。おじやる。
たゞものおそろしや。
こはやと計。われ人おもふたが。後には。
なんともおじやる物じやない。
我々母人も。そのほか。家中の内儀。
むすめたちも。みな/\。天守に居て。鉄鉋玉を鋳ました。
また味かたへ。とつた首を。天守へあつめられて。
それ/\に。札をつけて。覚えおき。さい/\。くびにおはぐろを付て。おじやる。
一 葉武者白歯者雑兵等之頸ヲ見ルヲ配見ト号ス
それはなぜなりや。
むかしは。おはぐろ首は。よき人とて。賞翫した。
それ故。しら歯の首は。おはぐろ付て給はれと。たのまれて。おじやつたが。
くびも こはいものでは。あらない。
その首どもの血くさき中に。寝たことでおじやつた。
ある日。よせ手より。鉄鉋うちかけ。最早けふは。城もおち候はんと申す。
殊のほか。しろのうちさわいだことで。おじやつた。
そのところへ。おとな来て。敵かげなき。しさりました。
もはや。おさわぎなされな。しづまり給へ/\といふ所へ。
鉄鉋玉来りて。われらおとゝ。十四歳になりしものに。あたりて。
そのまゝ。ひり/\として。死でおじやつた。
扨々。むごい事を見て。おじやつたのう。
むかしは。おはぐろ首は。よき人とて。賞翫した。
それ故。しら歯の首は。おはぐろ付て給はれと。たのまれて。おじやつたが。
くびも こはいものでは。あらない。
その首どもの血くさき中に。寝たことでおじやつた。
ある日。よせ手より。鉄鉋うちかけ。最早けふは。城もおち候はんと申す。
殊のほか。しろのうちさわいだことで。おじやつた。
そのところへ。おとな来て。敵かげなき。しさりました。
もはや。おさわぎなされな。しづまり給へ/\といふ所へ。
鉄鉋玉来りて。われらおとゝ。十四歳になりしものに。あたりて。
そのまゝ。ひり/\として。死でおじやつた。
扨々。むごい事を見て。おじやつたのう。
Chihiro Yamanaka Trio - A Sand Ship
「死にたくない」「殺さないで」請う めしゅうどの
我
眼も耳も塞いだ のっぺらぼうの首刈りの
我々
我
眼も耳も塞いだ のっぺらぼうの首刈りの
我々
しろい首にくろい首 あかい首にきいろい首は みない
をのこのカラダ
をみなのカラダ
首のない かえらないカラだ
クライ
くらい
ああ すべて くらイ。
ぐまう みめのみが御シしゃ
ひとに 科あり
ちのコトの葉があるからこその
顔真卿「顔勤礼碑」 明拓本
ひの言の葉 ひそくがとこよをシロしめす
やくもたつ わがむすヒ
常盤 のしきしまみちよ
いたづらに あめつちが理法 を 用い
むゐしぜん 賢しらにいろふならば ひとの命根 は チヂにくだらん
اقْرَأْ وَرَبُّكَ الأَكْرَمُ
الَّذِي عَلَّمَ بِالْقَلَمِ
عَلَّمَ الإِنسَانَ مَا لَمْ يَعْلَمْ
冥 い ウロのししむら わがともがらよ
われは ココだ。
いたづらに あめつちが
むゐしぜん 賢しらにいろふならば ひとの
اقْرَأْ وَرَبُّكَ الأَكْرَمُ
الَّذِي عَلَّمَ بِالْقَلَمِ
عَلَّمَ الإِنسَانَ مَا لَمْ يَعْلَمْ
まがときに ふるえ耐えんヒのこえを 聴 し
いまわの君とともにある 愛も恐れもイらん
いまわの君とともにある 愛も恐れもイらん
われは ココだ。
Feed The Machine - Poor Mans Poison - Unofficial Music Video
・・・音がする。
もう 来たのか。 ああ だが・・・・・・
もう 来たのか。 ああ だが・・・・・・
ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、 ぽたり、
イタイ。いたい。イタイ。
もう いかなくちゃ
もうすぐだ もうすぐ・・・
もう いかなくちゃ
もうすぐだ もうすぐ・・・
てん。てん。てん。
いたい。イタイ。いたい。
・・・・・・チはとまらない
電車がくる ああ もうすぐ もうすぐだ・・・
電車がくる ああ もうすぐ もうすぐだ・・・
「 か え ろ う 」
いつも乗る
車両の停まる点字ブロックに み慣れない血の跡。
てん。てん。てん。てん。
あなたも あの電車を待っていた?
ぽたり、 ぽたり、 ひとり。
たくさんの人が
あなたの血だまりの上を 歩いた跡は こすれ汚れて
アナタは いない。
あなたが みえません。
あなたが みえません。
教経の入水あぶくが三つ出る
あゝ イッタイ 何 故 なのです?
どこかに向かう それぞれが
それぞれの いきたいところに 連れて行ってくれるものに乗り
何も知らない それぞれの私たちを乗せて
真つ白な名歌を赤い人がよみ
ソレは ナゼか いつも同じで
同じヨウにされて
それぞれの いきたいところに 連れて行ってくれるものに乗り
何も知らない それぞれの私たちを乗せて
真つ白な名歌を赤い人がよみ
ソレは ナゼか いつも同じで
同じヨウにされて
誰 も み な い
誰 も と め な い
誰 も と め な い
あゝ イッタイ 何 故 なのです?
Hiromi Uehara - Place to Be
時がたった──。
眠りの深さが、はじめて頭に浮んで来る。
長い眠りであった。
けれども亦、浅い夢ばかりを 見続けて居た気がする。
うつらうつら 思っていた考えが、現実に 繋 がって、
ありありと、目に沁 みついているようである。
ありありと、目に
ああ
ここに来る前から ・・・・・・ここに寝ても、
・・・・・・其から覚めた今まで、一続きに、一つ事を考えつめて居るのだ。
耳面刀自 。 おれが見たのは、唯一目── 唯一度だ。
だが、おまえのことを 聞きわたった年月は、久しかった。
おれによって来い。耳面刀自 。
記憶の裏から、
反省に似たものが浮び出て来た。
・・・・・・其から覚めた今まで、一続きに、一つ事を考えつめて居るのだ。
だが、おまえのことを 聞きわたった年月は、久しかった。
おれによって来い。
記憶の裏から、
反省に似たものが浮び出て来た。
おれは、このおれは、何処に 居るのだ。
・・・・・・それから、ここは 何処なのだ。
其よりも第一、 此おれは 誰なのだ。
Daiki Tsuneta Creative Process - Pasha de Cartier Collaboration Movie -
カーフィル
それは 無知である我々に課されし
いかなる名で 謗られ 讃えられようと
あなた は 「あなた」で あり
いかなる黄泉 に あろうと
アナタは 「あなたの真 子 」 に あらん哉
あなた は 「あなた」で あり
いかなる
アナタは 「あなたの
أَرَأَيْتَ إِن كَذَّبَ وَتَوَلَّى
أَلَمْ يَعْلَمْ بِأَنَّ اللَّهَ يَرَى
ヒにミせられ
ひを求めし ワレわれに あなたは しんの
あなたの
顔真卿「争座位帖」 明拓本
いのちの
へぐりのやまの くま
天不悔祸、誰為荼毒。念爾遘殘、百身何贖。嗚呼哀哉。
吾承天澤、移牧河闗。泉明比者再陷常山、擕爾首櫬、及兹同還。
撫念摧切 震悼心顔。
やまとは くにの
たたなづく あをかき 山ごもれる やまとし うるはし
方俟逺日、卜爾幽宅。魂而有知、無嗟久客。嗚呼哀哉。尚饗。
ここにいきるもの すべて
あなたの 御慈悲に こころひらき
アナタの ミ言葉を
Samuel Barber - Agnus Dei -
あかだまは緒 さえへひかれど
しろたまの君がよそひし貴 くありけり
しろたまの君がよそひし
かわらぬ 秋
わたしは ここで この私で
アナタを みている
わたしは ここで この私で
アナタを みている
ひのほんむ 私がのぞむ
ヒトがいる 君のいるち
Κόσμον τόνδε, τόν αὐτόν ἁπάντων,
οὔτε τις θεῶν οὔτε ἀνθρώπων ἐποίησεν,
ἀλλ' ἦν ἀεί καί ἔστιν καί ἔστε πῦρ ἀείζωον
οὔτε τις θεῶν οὔτε ἀνθρώπων ἐποίησεν,
ἀλλ' ἦν ἀεί καί ἔστιν καί ἔστε πῦρ ἀείζωον
ああ。
だからこそ
だからこそ
祈らずにはおれない
詠わずにはいられない
詠わずにはいられない
カラダのない
あなたと 約した
求めよう 架上のひとのあいを
本文は 2015年次 My ACIM homeworks:
レポート「ラッバイカ ~千の月よりカドルの夜を」(2017-09-28公開:現在クローズ)と
エセー 「曼珠沙華 揺れる 平らぎ 葬れども
しなとのかぜは 見遣る あけ」(2018-09-27公開:現在クローズ)を もとに 加筆編集。
文中の
● 赤字文は 柳田 國男「山の人生 」
● 青字文は 首検知之次第(漢文)、おあん物語(かな)
● 紫字文は 折口信夫「死者の書」です。