最近イギリスのチャートで久しぶりに "Baby Shark" の文字を見て、
そういえばこの曲聴いたことなかったなと思って聴いてみたら、
「この曲だったんだ!」ってなった。ベイビーシャーク。🦈
...ところで、聴きながら全然笑っちゃうんだけど、
笑っていいやつだよね?別に、これ...。
アメリカのロック / オルタナティブ・ミュージック専門の音楽チャート「ロック / オルタナティブ・ソングス・チャート」にも、
オールジャンルのと同じように年間チャートというものがあります。
必ずしもすべての流行りを反映しているわけではないと思いますが、このシーンを追っていきたい自分としては見逃せないので、一応レビューします。
相変わらず、ジャンル的な話多め...。
<1~10位>
title | artist | |
1 | Something In The Orange | Zach Bryan |
2 | Bad Habit | Steve Lacy |
3 | Need A Favor | Jelly Roll |
4 | Until I Found You | Stephen Sanchez |
5 | Sunroof | Nicky Youre, dazy |
6 | I Remember Everything | Zach Bryan, Kacey Musgraves |
7 | Dial Drunk ( Remix ) | Noah Kahan, Post Malone |
8 | What Was I Made For? | Billie Eilish |
9 | Dawns | Zach Bryan, Maggie Rogers |
10 | Romantic Homicide | d4vd |
(コメント)
#1> カントリー・シンガーのザック・ブライアンの "Something In The Orange" が1位を獲得!去年の同チャートのイヤー・エンドでは7位でしたが、今年も去年に引き続き大ヒットしていたのでそれが効いての1位です。カントリー・ソングとしてはおそらく史上初でしょう。
今年はザック・ブライアン、ジェリー・ロール、ハーディの御三方がカントリー・ミュージックのロック進出を成功させ、流行らせました。カントリー・ミュージックとロックの関係性について、従来から「カントリー・ロック」というジャンルは存在していましたが、ロックを多めに取り入れたカントリー、といった感じで、あくまでカントリー・ミュージックの一種としてあったので、そのような曲がロック・チャートに入ってくることは一切ありませんでした。では今回のムーブメントは何かというと、従来とは違う種類のロックをカントリーに取り込んだことによるロック進出です(ジェリー・ロール以外)。ジェリーさんはロック色をより濃くしてロック界にもアプローチしたようなイメージですが、ザックさんはフォーク・ロック、ハーディさんはハードロックやメタルへのアプローチで新たな「カントリー・ロック」を創り出しました。去年の同チャートのイヤー・エンドTop20ではそのようなカントリー・ソングが2曲ランクインしていましたが、今年は5曲で、しかもうち4曲がTop10圏内。去年のこの記事では、7位だった同曲を自分は「ターニングポイントとなる曲」としていたので、なんか図に乗ってしまいそうです。図に乗ってさらに予言すると、今後はオルタナティブ・ロックやインディー・ロックと融合させて成功するカントリー・シンガーが出てきそうですね。この流れだと。🌅
#2> 相変わらず聴き心地の良いスティーヴ・レイシーの "Bad Habits" が2位でしたね。去年のヒット曲では?と思ってしまいますが、集計期間の都合上、今年初めてヒットした曲より(ピークは過ぎてても)去年からヒットし続けている曲の方が年間チャートでは有利になります。今年新たに流行ったものを知りたい!という場合はこのような現象は弊害になりますが、一方でデータに基づいた、よりリアルな指標になっているとも思いますね。そう分かりやすく流行は切り替わらない、みたいな。🕶
#3> 前述のジェリー・ロール氏の現段階での最大のヒット曲 "Need A Favor"。ロックを大胆に取り込んだカントリー音楽で、全米総合チャートでは13位まで上昇しました。...とはいえ、ちょっと前言撤回して実を言うと自分はこの融合がよく分かっていません。カントリーにもロックにも聞こえる、確かにそれはそうなのですが、テイストとしてはルーク・コムズやブレイク・シェルトン等の従来の「カントリー・ロック」と大差ないように感じます。ジェリーさんのロック進出の成功例1発目 "Son Of A Sinner"(今年のイヤー・エンド15位↓)を初めて聴いたときに思ったのは、王道で普通のカントリー・ロックなのに、なぜここ(ロック・チャート)に...?という疑問。境界線、よく分かりません。
+ちなみにさっきリンクを貼った記事で、私はジェリー・ロールについて「2発目が出るかどうか怪しい」と書いていました。"Save Me with レイニー・ウィルソン" もグラミー賞にノミネートされたし、彼は今やヒット・メイカーですね。
#4> スティーブン・サンチェス!そうきたか!デビュー・シングル "Until I Found You" ですが、今年に入ってからはもうほとんど聴いてなかったかもしれません...。ただ、"Bad Habit" とは違い同曲はピークが緩やかで、どちらかというと今年に入ってからが山でした。去年のイヤー・エンドでは14位だったのが今年は4位なので、やっぱりそうですね。関連で、ポップ・ミュージシャンのロック進出について言うと、今年も確かに事例が多いです。しかし、その多くはすでに1回以上それを成功させている経験者(オリヴィア・ロドリゴとか)で、初めての人はデヴィッド・クシュナー(後述)くらいでした。早くもブームが落ち着きつつあるのかもしれません。🌳
#5> ポップ・シンガー、ニッキー・ユーアの "Sunroof" が5位。ちなみに去年も5位でした。知らなかったのですが、24Kゴールデンやトーマス・レットなど、違うジャンルのアーティストとのコラボ・リミックス・バージョンも出ていたんですね。改めて、めちゃくちゃ眩しい曲だなあと思った限りで、明るすぎて誰かを傷つけてそうです。陽気なタイプのインディー・ロック(フォスター・ザ・ピープルやウォーク・ザ・ムーンが好例)とポップ・ミュージックが合体していますが、結果は相乗効果と結論付けていいのでしょうか。
#6> ザック・ブライアンの最新のヒット曲にして、総合チャートでは1位を獲得した曲です。同じようなことを以前も書いたかもしれませんが、ザックさんの曲の中ではけっこうポップな曲でもあって、聴きやすいです。歌詞の方はまだどんな感じなのか分かりませんが、ケイシー・マスグレイヴスもザックさんが1バース目で作り出した雰囲気にうまく乗っかっていて、コラボの成功例だなと思いました。
#7> やっとロック・アーティストが入った!!まあ、今年は期待値低めで最悪Top20に1組入っていればいいやでのぞんでいたので、やっと、とはいいつつも想像以上の結果です。ノア・カハンさんはこのブログでいろいろ言い過ぎているのでもう言うことがないのですが、とりあえず先日の『サタデー・ナイト・ライブ』でのパフォーマンス、良かったです。✨
#8> 思っていたよりちょっと下でしたが、映画『バービー』のサントラ "What Was I Made For?" が8位にきました。サントラというくくりでいうと、去年も『アーケイン:リーグ・オブ・レジェンド』の "Enemy" が3位でしたね。"What Was I Made For?" は、興味なくて映画は見てないくせに、聴くたびにどこかしみますね~...。個人的にはビリーさんが消え入るように歌うサビの終わり "Someday I might..." の部分が特に好きです。
#9> ザック・ブライアンの、"Something In The Orange" の次にブレイクした曲。当初は "Burn, Burn, Burn" や "Oklahoma Smoke Show" といった曲が2発目の候補に挙がっていましたが、どちらもチャートでのポイントが伸び悩んでメインストリームでのヒットになかなか繋がらずにいたところ、まったく新しい新曲 "Dawns feat. マギー・ロジャーズ" がリリースされ、それがそのままヒットしました。なお、マギー・ロジャーズさんは2019年にブレイクしたポップ・シンガーで、翌年のグラミー賞にも最優秀新人賞でノミネートされてましたね。🌄
#10> アーティストごとに所属ジャンルをはっきりさせたいと思ってしまう自分の、新たな強敵です。去年のこの記事では d4vd(デイヴィッド)はラッパーとしていて、"Romantic Homicide" はラッパーの作った曲みたいに言ってしまってましたが、そう簡単な話でもなさそう。ラッパーというより、歌手です。ヒットした "Romantic Homicide" と "Here With Me" に関しては、少なくとも「早口」とか「韻を踏む」はなかったですね。それにしても、"I hate you" で終わる曲は初めてかもしれません...。
<11~20位>
title | artist | |
11 | Bad Idea, Right? | Olivia Rodrigo |
12 | Here With Me | d4vd |
13 | Ceilings | Lizzy Mcalpine |
14 | Just Pretend | Bad Omens |
15 | Son Of A Sinner | Jelly Roll |
16 | Hell N Back | Bakar |
17 | Heart To Heart | Mac Demarco |
18 | Lost | Linkin Park |
19 | Daylight | David Kushner |
20 | Say Yes To Heaven | Lana Del Ley |
(コメント)
> 11~20位もいろんなジャンルの人のロック・ヒットになっていて、偏りがないです。オリヴィア・ロドリゴやラナ・デル・レイに関しては、この曲ではありませんでしたがグラミーにもロックでノミネートされてたりしてましたね。他ジャンルがもとのアーティストがロック・チャートを支配する構図は、数年前から特に変わっていませんが、グラミーもそれを認め始めているというのは特筆すべきことかもしれません。
> 12位の d4vd(デイヴィッド)と16位の Bakar(バカール?)は、どちらも見た目はブラック・ミュージックのアーティスト。しかし、ヒット音楽はインディー~オルタナティブ・ミュージック寄りで、多少ブラック・ミュージックの要素が入ることはあっても基本的にはそんな感じ。そこで気になるのが、もし彼らが誰か大物の曲にゲスト参加することになったとしたら、何をするか、ということです。コラボするなかでどんな役割を果たすかが意外と重要で、例えば畑が近いと思われる24Kゴールデンは、歌唱しないケースもありました。いざ自分が何かを創り出してみようとなると、既存の枠に制約されずに自由にやることほど楽しいことはないと思うことがあるのですが、とはいえ仕事としてそれをやるとなると、必ずどこかでコミュニティが固まるはずです。そこが、一種の客観的アイデンティティの大きな材料になるかなと、最近思いました。
> 同チャートはロックの要素を含むフォーク・ミュージック「フォーク・ロック」(ザ・ルミニアーズやマムフォード & サンズなど)もランクインの対象にしていますが、フォーク・シンガー、リジー・マカルパインさんの "Ceilings" はどちらかというとフォーク・ロックではなく、ポップ寄りのフォーク・ミュージックです。つまり、何でランクインしてるの?となったわけですが、再び聴いてみたらインディー・ポップやドリーム・ポップの感じも分からないでもなくて、というか歌詞はほぼ完璧なドリーム・ポップで、オルタナティブ・ミュージックの方で融合されてるから、ランクインできていることが分かりました。繰り返しますが、同チャートはロックとオルタナティブ・ミュージックの要素がある楽曲をランクインの対象にしていて、ロックの方で融合されてなくても、オルタナティブ・ミュージックの要素があればランクインできます( スティーブン・サンチェスや d4vd も然り)。一応、記事の一番下に何との融合でランクインできてるかのまとめをしておきました。❔
いや~...それにしても Ceilings は新鮮で悪くないな...。コナン・グレイの Heather ともまた一味違う...。
> ノア・カハンの次にきたロッカーは、意外にもバッド・オーメンズ!この "Just Pretend" は確かに同チャートでロングヒットしたものの、後ろのリンキン・パーク "Lost"、マック・デマルコ "Heart To Heart" とは違いTop10入りはしてないし総合チャート入りもしていなかったから比較劣位かなと思っていたのですが、それでもけっこう強かったみたいですね。感情的すぎるシャウトが最高です。バッド・オーメンズがもっと売れる世の中になってほしいものですね。🎤
> ...で、マック・デマルコとリンキン・パーク。まず前者に関して、知らなかったのですが、数年前からけっこう業界内で話題になっていた人みたいで、後から見返して2019年にアルバム『ヒア・カムズ・ザ・カウボーイ』がオールジャンルの全米アルバム・チャートで10位を記録していたのを発見しました。すでにブレイクしていた人でしたね。ただ、今回のロック / オルタナティヴ・ソングス・チャートの年間チャートTop20では、そういう人の方が少数派で、よく見たらほとんどが去年か今年初めてブレイクしたような人たちです。少なくとも10年代から認知度があったアーティストはわずか4、5組となっていて、新勢力が強いチャートなのだということが分かりました。🐎
> リンキン・パークの曲がヒットしたのは2017年の "Heavy feat. キアーラ" 以来ではないでしょうか。フロントマンのチェスターさんに不幸があって、もうリンキン・パークがチャートに現れることはないだろうと思ってましたが、未発表曲の発掘という意外なきっかけで再びバンドの名前をチャートで見ることになりました。MVがアニメーション動画でしたが、ちょっとかっこよすぎますね。表現に容赦がないという意味で怖い要素もある名作映画みたいで、だから怖くもあったのですが、だんだんかっこいいが勝ってきます。素晴らしいです。
> 最後に、新人デヴィッド・クシュナーさんについて。TikTok で人気を集め、今夏 "Daylight" で世界デビューを果たしたアメリカ出身の若手です。ただ、曲に明るさはなく、暗いし、シブい!「罪が白日の下に晒されることを恐れ、明るみから罪を隠し続ける。だけど、その闇からは逃げられない」という、罪人が主人公みたいになっている曲で、だけど罪人はそんな辛い状況が「この状況を変えたくない(変える=罪をさらすことで、それは怖い)」という意味で愛らしくもなってしまっている感じです。結果、現状維持を選択して、だけど現状維持も隠す中で罪悪感やプライドが自分をおそってくるからやっぱり辛くて、ただただ静かに、自分が削られていくのを感じているというダークな内容でしたね。デヴィッドさん本人のことなのか、世間の人々のことなのか、はたまた空想の話なのか、分かりませんがただ一ついえるのは、フレッシュさ、なさすぎ!!
《歌詞和訳》Daylight:デイライト, David Kushner:デイビッド・クシュナー (songs-wayaku.com)←参考にさせていただきました!!
チャート・レビューは以上です。今年のロック / オルタナティブ・ソングス・チャートの特徴を、今回の年間チャートをもとにまとめると、「他ジャンル出身のロック・ヒットが多く、なかでも特にカントリー出身が強い」「ポップ・ミュージシャンのロック進出が減った」「新勢力が強い」といったことがいえるでしょうか。全体的にまとまりのない記事で申し訳ありませんが、これ以上ごちゃごちゃにするわけにはいかないので、今回はここで失礼します。
読んでくださった方、ありがとうございました。