イマドラの新作『マーキュリー - アクト 1 & 2』をどう解釈すればいいのだろう。
チャートでは『アクト1』(去年発売)のデラックス盤的な扱いになってるけど、
『アクト2』も一応1枚の新作アルバムなわけで、イマドラの新アルバムが世に出たと言って間違ってない。
それに『アクト2』は18曲入りで、『アクト1』のデラックス盤というには追加されたものが多すぎてデラックスすぎる。
『アクト2』が単独で売られていないっていうところが、一番ややこしい。
...単独では買えなくて、去年発売済みの『アクト1』とセットになっている、ということです。
「大規模チャート・アクション」とは
全米シングル・チャートで起こる、単一アーティストによるチャート独占のことで、たくさんの初登場ソングによってそれがなされるため、これを私は「大量初登場アクション」とも呼んでいます(勝手に)。実際には独占ではありませんが、普段の多種多様なチャートと比べるとショックが大きいので、独占のように感じてしまい、こういう説明になってしまいました。「大量初登場アクション」はアルバムのリリースとストリーミングによって引き起こされます。(↓過去の記事をコピペ)
アルバムのストリーミング消費が多いと、チャートではシングル・チャートにも影響が出てきます。
アルバム・ストリーミングはアルバムの「収録曲を全曲買う」という仕組みになっているので、アルバム・ストリーミングをするとそれは収録曲1曲1曲のセールスにもなるのです。
これにより、アルバムのリリース週にシングル・チャートへアルバムの収録曲がたくさんランクインすることがあります。
分かりやすいとは思えません。 言葉で説明するのは限界がある気がします。
直感的には、↓こんな感じです。Future (フューチャー)というアーティストの曲が10位内に4曲、しかも全部初登場でランクインしていますね。
フューチャーの新アルバム『アイ・ネヴァー・ライクド・ユー』(2022) がリリース初週(最初の集計対象期間)にたくさんストリーミング消費されたことで、 これら収録曲4曲のセールス(チャート上ではポイント)も高水準を記録し、結果シングル・チャートの上位ランクインに繋がりました。
こういう現象について、特に大規模なものをまとめていこうと思います。📒
基準・ルール
読むのが面倒なので、後半は飛ばしちゃって大丈夫です!!
上記の「大規模なもの」という基準です。Top10、Top20、Top40 のいずれかで4分の1以上のチャート占有が達成された週としました。
つまり、Top10なら3曲以上、Top20なら5曲以上、Top40なら10曲以上、単一アーティストの曲がチャートを占有した週です。
また、「大量初登場アクション」はアルバムのリリース週(最初の集計反映週)に起こるもので、これをまとめたいので、アルバムのリリースとは関係のない、 上記基準を満たす週はカウントしません。
大人気のアーティストなら自身の曲3曲が同時期にTop10で長くヒットすることもあるかもしれませんが、その3曲が収録されたアルバムがリリースされた週以外の週の、「Top10に3曲以上」という記録は無視するということです。❓
もう一つ、曲数のカウントについてで、フィーチャリング参加(ゲスト参加)の曲はカウントしません。
上のチャートの例で言うと、1位の "Wait For U" のアーティストにはメイン・アーティストのフューチャーの他に Drake(ドレイク)と Tems (テムズ)がいますが、これはこの週「ドレイク(テムズ)の曲が1曲、Top10にランクインした」ということにはなりません。彼らはあくまでゲスト扱いなので、彼らの占有を判断する際にこれは彼ら自身の曲ではないとして除外します。
年表
自分がチャートを見始めた2017年から、上記基準を満たす大規模チャート・アクション週をまとめました。
チャート独占を達成したアーティストと、その独占を引き起こしたアルバムを記しています。週の詳細は省きました。
以下、2021年度分まで作品ごとに簡単な説明とコメントをします。
(案の定ぼやけました...すみません)
<2017年>
規模は小さくても、大量初登場アクションが目立ち始めた年!なかでもドレイクの『モア・ライフ』は衝撃的でした(2つ前の記事参照)。『モア・ライフ』のチャート・アクションは基準未満でしたが、Top10に2曲、Top20に4曲、Top40に9曲が合計でランクインし、基準を満たせなかったのも本当にギリギリでしたね。なお、Hot100全体では収録曲22曲がすべてランクインしました。
・ケンドリック・ラマー『ダム』
Top10 | Top20 | Top40 |
2 | 5 | 9 |
2017年、最初の大規模チャート・アクション!ラマーはこのアルバムについて、「前作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』が予想に反して大ヒットしてしまったから、くそったれと思って『ダム(DAMN.)』というタイトルにした」と言っていましたが、結局『ダム』も2017年を代表する大ヒット・アルバムになってしまいました。シングルのヒット曲も多かったアルバムですね。💜
<2018年>
大規模チャート・アクションが急増!!2017年の1回に対し、2018年は5回です。また、上位について定めた基準を満たすものは5回ですが、Hot100 全体に大きな影響を与えたチャート・アクションも多く、例としてカーディ・Bの『インベーション・オブ・プライバシー』やエミネムの『カミカゼ』が挙げられます。上位への影響はまあまあだったけど、全体への影響は強かったということですね。
・J.コール『KOD』
Top10 | Top20 | Top40 |
3 | 6 | 8 |
J.コール1回目の大規模アクション。J.コールは2016年の『フォー・ユア・アイズ・オンリー』でも中規模に大量初登場アクションを起こしていて、つまり『KOD』でアクションがかなり強まったといえます。特にTop10、Top20での成績が良く、こんなのは初めてだったので当時は少し新鮮味も感じていました。チャートが荒らされた、と嫌でもありましたが。
・ポスト・マローン『ビアボングス & ベントレーズ』
Top10 | Top20 | Top40 |
3 | 9 | 14 |
J.コールのアクションの翌週!!2週連続で大規模にチャートが荒れました。ただ、J.コールとポスト・マローンが違うのは、先行シングルの有無です。J.コールは先行シングルをまったく出していなかったのに対し、ポスト・マローンは3曲出していて、そのすべてが大ヒットしていました。"Candy Paint" と "Psycho" は特に良かったなあ...と思います。リピートがすごかった。🍭
・ドレイク『スコーピオン』
Top10 | Top20 | Top40 |
7 | 12 | 20 |
言い忘れていましたが、ポスマロの上の記録は記録破りのめちゃくちゃすごいものでした。Top20に9曲なんて、もう少しで占有率50%の化け物記録です。それが、わずか数週間後にドレイクという男によりあっけなく破られました。上には上がある、とはいいますが、これほどとは...。ポスマロの鬼記録をあっさり上書きした『スコーピオン』、どの範囲で見ても占有率が50%を超えていて、恐ろしいですよね...。恐ろしかったです。🦂
・トラヴィス・スコット『アストロワールド』
Top10 | Top20 | Top40 |
2 | 2 | 11 |
Top10、Top20の記録はあんまりでしたが、21位以下40位以内にたくさん曲がランクインし、チャートは大きく荒れました。『アストロワールド』はトラヴィスが子供の頃よく行っていたという遊園地の名前で、それは閉園してしまったのですが、彼は昔行っていた遊園地のことを懐かしく思って「アストロワールド」をアルバムのタイトルにしました。アルバムは彼のキャリア史上一番のヒット作となり、"Sicko Mode" という大ヒット曲も生まれます。このような成績もあり、最終的に遊園地「アストロワールド」は復活したそう。有名人パワー?みたいなものがあったのかもしれませんが、知名度が高いことの影響力って、すごい。
・リル・ウェイン『カーターV』
Top10 | Top20 | Top40 |
4 | 6 | 10 |
何年ぶりかは忘れましたが、レーベルとの争いもあって『カーターV』はリル・ウェインのかなり久しぶりの新アルバムでした。それもあって、全米シングル・チャートでは大爆発!細かい記録ですが、「Top5に初登場曲2曲を同時ランクイン」させた初めてのアーティストになりました。ちなみに、今この記録は2021年のドレイクによって完全に破られていて、彼はTop5に初登場曲5曲を同時ランクインさせています。...リル・ウェインの話なのに、ドレイクのすごさがまた強調されてしまった...。
<2019年>
1年を通して、かなり大規模なアクションは落ち着きました。また、この年はビリー・アイリッシュ等ラッパー以外のアーティストによる中~大規模なチャート・アクションが見られ始めた年でもあります。正確には2016年にザ・ウィークエンドやビヨンセが中規模程度のアクションを起こしていたようなので、この記述は正しくないかもしれませんが、あくまで個人の感覚の話なので、軽く流してくだされば幸いです。
・アリアナ・グランデ『サンキュー、ネクスト』
Top10 | Top20 | Top40 |
3 | 5 | 11 |
初めて見た非ラッパーの大規模チャート・アクション!アリアナ・グランデは前年にリリースしたアルバム『スウィートナー』でも小規模に大量初登場アクションを起こしていましたが、2年連続の新アルバムの、2作目『サンキュー、ネクスト』は1作目『スウィートナー』とは比べ物にならない程の影響をチャートにもたらしました。まあ、当時は話題性もすごかったですからね、チャートの歴代記録も更新しそうになったりで。
・ポスト・マローン『ハリウッズ・ブリーディング』
Top10 | Top20 | Top40 |
4 | 9 | 14 |
Top10での記録が向上したものの、それ以外は『ビアボングス & ベントレーズ』のときの記録とまったく変わらないチャート・アクション記録(比べてみるとすぐ分かります)。前作であんなにすごかったんだから、普通はもうそれ以降記録は落ちていくだけだろうと思うのですが、シングルの継続的な大ヒットもあり彼の人気はすごく安定していました。その結果、前回と同程度の巨大なチャート・アクションを起こしたわけですね。2019年度で、最大です。
<2020年>
けっこう激しかった印象がありましたが、振り返ってみたら基準を満たすような大規模なものは3件のみ。中規模程度のものが多かったということでしょう。2020年は大物アーティストのアルバム・リリースが非常に多かった年ですが、その中でシングル・チャートへ大きな影響を与えたものは限られていたようです。
・リル・ウージー・ヴァート『エターナル・アテイク』
Top10 | Top20 | Top40 |
3 | 5 | 13 |
これは印象的だった!それまでのチャートが穏やかでいい感じだっただけに、急に一人のアーティストによってチャートが荒らされ、かなり激情を覚えてしまいました。しかも彼は『エターナル・アテイク』をリリースした翌週に(超)早くも『エターナル・アテイク』のデラックス盤(10曲以上が追加された)をリリースしており、それも大規模にチャート・アクションを起こす可能性があると考えると、2週連続でリル・ウージー・ヴァ―トがチャートを牛耳る可能性があることになり、当時はもう絶望的でした。リル・ウージー・ヴァ―ト、略してLUV(ラヴ)。LUV氏、嫌いじゃないんだけど、戦略がちょっと...。よく言えば、革新的なセールス戦略だった。🌠
・ジュース・ワールド『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』
Top10 | Top20 | Top40 |
5 | 9 | 12 |
これについても、記録はポスマロ並みですごいとはいえ、やや悪印象です。『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』はジュース・ワールドの3作目のアルバムですが、彼は2019年12月に亡くなっており、このアルバムは彼の遺作になります。何が気に入らなかったかというと、彼が生前にリリースした2枚のアルバムは大ヒットしたものの、アルバムリリース時のシングル・チャートへの影響はごくわずかでした。それが、遺作である本作のリリース時は、上のような記録が出るほど大きな影響が、シングル・チャートに与えられています。皮肉なことに、遺作は生前の作品以上に大ヒットした、というような話で、彼の音楽は生前のものの方が好きで高質だと思っているのもあって、この結果はあまり好きになれません。
・テイラー・スウィフト『フォークロア』
Top10 | Top20 | Top40 |
3 | 5 | 10 |
この大規模チャート・アクションに関しては、ただただ驚きましたね。『フォークロア』、音楽的にはストリーミングが合わないような気がしてなりませんが、それでも全収録曲がストリーミングによって Hot100 にランクインしたのは、テイラー・スウィフトの知名度と話題性が要因だと断定できるでしょう。話題性には、『フォークロア』がサプライズでリリースされたということと、彼女の大胆なジャンル転換の2つがあると思います。魅力しかない『フォークロア』、2020年を代表するアルバムになりましたね。🌲
<2021年>
途中までは大規模なチャート・アクションどころか中規模程度のものもほとんど起こらない穏やかなチャートでしたが、5月の J.コール の爆発を機に大量初登場アクションがよく起こるようになります。2017年から2021年まで基準を満たしたアクションの件数を見ていくと、1→5→2→3→4と、2019年に一旦は落ち着いたものの年々件数は増えていますね。2022年7月現在、もうすでに5回大規模チャート・アクションが起きているので、着実な増加といえるでしょう。
・J.コール『The Off Season』
Top10 | Top20 | Top40 |
4 | 9 | 12 |
J.コール2回目の大規模チャート・アクション。前回『KOD』のときもすごかったのに、今回でまたそれを超えてきました。前回とは違い "i n t e r l u d e" という先行シングルがリリースされていましたが、それも直前だったのであまりプロモーション効果はなかったと思われます。J.コールはあまりアルバムから先行シングルを出したがらないラッパーのようで、確か2019年に大ヒットした "Middle Child" の歌詞にそういうことが書いてありました。
・オリヴィア・ロドリゴ『サワー』
Top10 | Top20 | Top40 |
3 | 9 | 11 |
J.コール、2018年の『KOD』のときはその翌週にポスト・マローンでしたが、2021年の『The Off Season』のときはその翌週が今やポップ・スターのオリヴィア・ロドリゴ。ポップ・アーティストとしての記録では、上の記録はアリアナ・グランデのものを完全に上回っています。また、新人アーティストによる大規模チャート・アクションも初めてで、オリヴィア・ロドリゴのこのアクションはとにかく異例でした。テイラー・スウィフト同様、ただただ驚きましたね...。🍧
・カニエ・ウェスト『DONDA』
Top10 | Top20 | Top40 |
2 | 7 | 12 |
カニエ・ウェストは意外にも初めての大規模チャート・アクション。2018年・2019年にもアルバムがリリースされていましたが、基準には満たないものでした。ゴスペル・アルバムとして評価されている本作ですが、収録曲はラップ部門でグラミー賞を受賞しています。最近アーティスト名を正式に "Ye" に変えたようで、大物の改名は珍しいな~と思いました。
・ドレイク『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』
Top10 | Top20 | Top40 |
9 | 14 | 21 |
2021年の後半期、一時的にシングル・チャートが崩壊しました。機能不全といってもおかしくない週でしたね...すごかった。Top10の同時ランクイン曲数、Top20の同時ランクイン曲数、Top40の同時ランクイン曲数どれも歴代記録の上塗りです。こういう記録が注目されるから忘れられがちなのですが、ドレイクは作品を出すごとに大量初登場アクションを起こす超ストリーミング・アーティストで、例えば2019年の『ケア・パッケージ』、2020年の『ダーク・レーン・デモ・テープス』といった未発表曲集などでもそれは起きています。基準を設けるのは難しいかもしれませんが、小・中規模のチャート・アクションにも注目して、アーティストごとにそれらを起こした回数を求めるのも解析としてありかもしれません。意外と1位はドレイクにならなかったりして。💻
2022年はまだ暫定なので何か書くのは省きますが、もうすでに5回も大規模チャート・アクションが起きているのは先述の通りです。ビヨンセ、カーディ・B などはそれをさらに起こす可能性があるアーティストで、2022年はまだまだ荒れそうです。個人的な意見としては、大規模チャート・アクションは基本的に嫌いです。なので一旦落ち着いた2019年はすごく良かったのですが、まただんだん活発化してきてしまっているのが分かって、ちょっと辛いです。ただ、2018年と違うのは、それを起こすのがラッパーに限らないということでしょう。いろんな人が起こすようになっています。現在のチャートは、将来的にはロック・アーティストがこれを起こす可能性も否定できないほど何が起こるかわからないチャートになっているので、引き続きこの特徴的な現象にも興味を持っていきたいですね。