国立感染症研究所感染症情報センターの週報を見ると、感染性胃腸炎の全国約3000カ所の小児科定点からの報告数では、今年は過去10年で2番目に多い勢いで、10月下旬から患者数が増え始めている。ちなみに昨年度の同時期は、過去10年で最低レベルだった。
新型インフルエンザの予防のため、手洗いや手の消毒、外出時のマスクの着用、帰宅後のうがいなどが日常的な光景だった昨年。こうした予防策を講じたことが、ノロウイルスの流行を防いだのではないかと思うが、同センターの安井良則主任研究官は首を横に振る。
「去年あれほど手洗いをきちんとしましょうと呼びかけたにもかかわらず、実際には流行の中心だった学校で石けんはしっかり泡立てて洗うなど“適切な”手洗いが行われていたとは言い難い。昨年度のノロウイルスの流行が低かった理由はわかりませんが、今年は、例年並みの流行が考えられる」と話す。
感染性胃腸炎は、ノロウイルスの他にロタウイルスなど、別のウイルスによって発症することもあるが、ほぼ毎年12月に大流行を引き起こすのは、ノロウイルスが主流。排泄物や吐瀉物に混じり、人の手などに付着して他人へと感染を広げる。ウイルスのついた手で他人を触るというだけでなく、その手で料理した食事による食中毒の原因にもなる。さらに、外出先の吐瀉物が乾燥していると、ウイルスが風に舞って他人の鼻や口へと侵入することも…。
「過去に起きた事例で、嘔吐物や下痢便の処理が適切に行われず、適切な消毒剤で消毒されなかったために、残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的な刺激で舞い上がり、それを吸引することで感染する経路も明らかになっています」(安井主任研究官)
潜伏期間は、平均1-2日。嘔吐や下痢などの症状が繰り返されて、脱水症状で重篤な事態に陥ることもある。特効薬はなく、ワクチンもまだない、となると、予防を心がけるしかない。
「しっかりとした手洗いと嘔吐物などの適切な処理を心がけていただきたい」と話す安井主任研究官によれば、予防のポイントは別項のとおり。しっかりとした手洗いは、インフルエンザの接触感染予防にも有効だ。
【ノロウイルスの家庭内予防】
(1)帰宅時、食事前には、家族全員で流水・石けんによる手洗いを行う。固形石けんはウイルスが付着して次に洗う人に移すことがあるので避ける。
(2)貝類の内臓を含んだ生食は、ノロウイルス感染の原因となる場合があるため、高齢者や乳幼児は避ける方が無難。
(3)調理や配膳は、充分に流水・石けんで手を洗ってから行う。
(4)衣服などの嘔吐物を洗い流した場所の消毒は次亜塩素酸系消毒剤(濃度は200ppm以上、家庭用漂白剤の場合は約200倍程度に薄めて)を使用する。ただし、次亜塩素酸系消毒剤を使って、手指などの体の消毒をすることは禁忌。