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『黄金』(1948)

2008-05-29 20:37:03 | 映画・DVDレビュー
黄金

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アメリカの南西部やメキシコを舞台にした代表的な映画の一つが、1948年製作、ジョン・ヒューストン監督のこの作品である。
主演ハンフリー・ボガート、共演ウォルター・ヒューストン。監督の実父でもある名優で、この作品で1948年度(第21回)アカデミー助演男優賞を受賞している。
ジョン・ヒューストン自身も脚本賞・監督賞を受賞しているので、珍しい父子同時受賞ということになる。
ボギーはもちろん多くのヒューストン作品の主演俳優としてお馴染みであり、今回も一応主演としての登場だが……

ストーリー:舞台は1920年代のメキシコ。流れ者ドブス(ボガート)は、アメリカからの旅行客相手に物乞いをして食い繋いでいた。せっかく見つけた仕事も悪徳口入れ業者に賃金を踏み倒され、その日寝る場所を見つけるにも難儀するどん底の日々。
そんな時、山師の爺さんハワード(ヒューストン)から一攫千金の話を持ちかけられた彼は、仲間のカーティン(ティム・ホルト)も共に、三人でシェラ=マドレ山へ砂金探しの旅に出かける。

実は砂金は割とあっさり見つかる。
しかし10ヶ月に及ぶ山での日々、金の匂いを嗅ぎ付けて仲間に加えろと言う男が現れたり、強盗団に襲撃されたり、またその帰途にも様々なトラブルが発生し、そんな中でドブスは他の二人への疑心を募らせて行く──

主人公として登場したボギーことドブスは、実は悪役である。と言うより「嫌なヤツ」である。
大金を手にした男が自らの欲のために破滅する話、と解説されることが多いが、果たしてそうか?
中盤、三人の仲間が「金を手に入れたらどうするか」と語り合うシーンがある。小さい店でも持ってのんびり余生を送りたいと言うハワード。果樹園を開く夢を語るカーティン。一方ドブスの「夢」は、実にみみっちく下卑たものである。他の二人が思わず絶句して顔を見合わせてしまうほどに。
金が彼を変えたのではなく、ドブスは元々そういう男だったのだと思う。貧窮の中では辛うじて保たれていた矜持も剥げ落ち、大金を前にして本性が現れてしまうのも皮肉な話だが。
『カサブランカ』で有名になる以前のハンフリー・ボガートは、主に悪役として知られていたそうで、スターとなってからもたびたび悪役や敵役を演じている。この映画でも、上述のシーンで見せる何とも下品な表情や、後半の小心ぶりの表現など実に上手い。

皮肉と言えば、この映画の終わり方もよく「皮肉な結末」と言われる。確かにそうだし虚しい結末でもあるが、後味は悪くない。金のためではなく、欲得ぬきで他人のために働いた人物が(思っていたのとは少々異なる形だが)幸運を手にするところに救いがあるし、何と言っても、すべてを吹きとばしてくれるハワード=ウォルター・ヒューストンの大笑いが素晴らしい。真の主役はこの爺さんだったのではあるまいか。
そして、この映画が描いたのは、欲望とそれが行き着く果ての破滅ではなく、運不運や幸福も価値観しだいということなのではないかと思った。

なお自分が購入したのは500円の「水野晴郎のDVDで観る世界名作シリーズ」シリーズの一つ。しかし、この版は後半、日本語字幕のズレがひどかった。誤訳という意味ではなく、実際の台詞より早く字幕が出てしまうので、混乱するし煩わしい。出来れば違うバージョンでの鑑賞をお奨めします。

ところで、突然『黄金』を観たのは、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督や主演ダニエル・デイ=ルイスがこの映画も参考にしたと聞いたからだが、実際にはストーリーや演技の上で似通った所は殆どない。ジョージ・スティーブンス監督の『ジャイアンツ』(1956)の方が、まだしも共通点が多いと思う。実際『ゼア~』のロケ地は『ジャイアンツ』と同じ場所だったそうである。ちなみに『ノーカントリー』ロケも同時期に近くで行われたということだが、『ゼア~』組の出す黒煙のせいで撮影が中断するハプニングもあったとか。

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