日日是好日

「アナザー・カントリー」について、実に主観的に書き散らしてます。
たまに身辺の雑記も。

善を成そうとする者は蒙を拓こうとするが……

2013-10-12 00:32:51 | ぼくの地球を守って
シオンがリアンと初めて会い、問答するシーン。

シオンはふてくされてもおらず、しらけてもいない。
故意に突っかかろうとしてもしない。

それでもシオンは、リアンの盲点を鋭く突いてくる。

人を殺したシオンに、
償いをするためにあなたは生きるチャンスを与えられたのだと言うリアン。
「じゃあ途中で殺された人は、償いをすることも許されない人?
赤ん坊だって死んでいたよ。
オレが殺した兵士たちは生き返るの?
そして仕返ししに来る?
ならオレはまた殺すけど、それでもオレは、生きていていいのかな」

答えられないリアンは、こういう時の常套手段に出る。
人を殺してあなたは幸せだったの?と、
いわばシオンに下駄を預けるのです。

でもシオンはそんな罠には落ち込まない。
罠だとも気づいていない。
「すごく嫌だったよ。でも間違ってない。
また来たら、また殺す。
だって勝てるもの」
「あの力はそのためにあるんだなってわかった」
さらに、
「ここは平和だね。どうして誰も殺されていないの?」
くどいようだが、シオンは嫌味を言っているつもりはない。
そこが一層、おそろしいのです。


つくづく、一騎当千のマンガ家だなあ。


長期旅行している時、ロンドンで日本のマンガ月刊誌を買いました。
日本で買うよりずっと高いし、日本語にも飢えている。

なのにね。読む気にならないんですよ。
マンガの画面から、読者を引き込もうというオーラが感じられない。
あれにはびっくりした。

人生は短い。
濃いいマンガに出会いたいものです。

「子供だから…?」

2013-09-25 10:31:35 | ぼくの地球を守って
シオンの一番古い記憶。
飢えに耐えかねて小屋に忍び込んだ時、
銃で撃たれた、

と、あります。

このシーンを読者はどう捉えるべきなのか。

シオンは、銃口と、闇と、銃声とおぼしき擬音と、
「待て、子供だ」の叫びしか見せてくれません。

彼の行為はいったい、
正当防衛だったのか、過剰防衛だったのか、緊急避難だったのか、はたまた殺人なのか。
法廷だったら喧々囂々と議論されるところでしょう。

検察:「待て、子供だ」の声は被告もはっきりと聞いています。
被告は、自分への攻撃が仲間内で躊躇されていると判断できたはずです。

弁護士:被害者のうち一人は実際に被告に発砲しています。
「待て、子供だ」という叫びが、銃を構えた仲間の行動を止めるにいたらなかったと被告が考えたのも無理からぬことです。

なんて。
(往年のNHKドラマ「事件」の影響で、色々妄想しちゃう)


いや、問題は量刑じゃない。
「待て、子供だ」の声を聞いたにも関わらず、
シオンが「子供だからって手加減してくれない」と思った、
その捻れです。
その場に何人の人間がいたのかわかりませんが、
少なくとも一人は「子供だから手加減しろ」と咄嗟に口にした。

シオンはなぜ「そっち」を自分の意見に採用しなかったのか。
なぜ他人の中に、暖かさではなく冷酷を見出だすことを選んだのか。

「ぼくの地球を守って」の全てがそうであるように、
答えは無数に出てきます。
というより幼いシオンが読者に見せてくれた「無数」が、
ページを巻き戻して「ぼくたま」の視点の多様性につながるのかもしれません。

1/4スペース

2013-09-22 11:20:07 | ぼくの地球を守って
飛ばしていたので、今回じっくり(でもないけど)目を通しました。

やはり作者も「解説しすぎない」を心がけていたようですね。
中学生くらいの読者から、
「ここのところのキャラの心境がわからない」
なんて手紙も来たそうです。

それと……
8巻9巻のあたりは、重かった。

私も、ネットの端っこでとはいえ、モノづくりの一人ですから、
クリエイター自らああいうことを言わなくてはならないというのは、
居たたまれなさが行間から伝わってきて、
なんともつらかったです。

よく「社会現象にまでなった」と言われます。
マンガやアニメの最上の褒め言葉らしい。

でも多くの目に触れるのが、本当に良いことなのか。
あの1/4を読むと、悩んでしまう。

「社会現象」が褒め言葉というのも、
社会の傲慢のような気がする。
なーんか「名誉白人」なんて言葉を思い出したりして。


私自身は、わりと輪廻転生を信じています。
しかし、前世の仲間を探そう……という気にはなれません。
人間とは限らない。死んですぐ生まれ変わるという保証もない。
ミミズだってオケラだってアメンボだって可能性がある。
ついさっき食べた生揚げのもととなった大豆の一粒が、
昔の仲間の生まれ変わりかもしれない。

学校を卒業したとか、家を引っ越したとかで、
分かれてしまう友人もいる。
ましてや、死んで別れたんです。
今更よりを戻そうったって、そうはいかん。

ピク

2013-09-20 22:41:33 | ぼくの地球を守って
6巻178ページ。
一成の「ピク」

迅八→ありすラブの時は、エンジュとしてありすに嫉妬した。
この「ピク」は、一成が1ランク上がった証。
「ピク」で済ませるのが凄い。
並みのマンガ家なら、一成の心の変化を、
何ページにもわたって(モノローグか何か使って)
説明しちゃうとこ。

「ぼくの地球を守って」は、とにかく情報量が凄いのです。
そして、情報の解読は読者まかせ。
お蔭で読者は、20ページのマンガを、50ページぶん楽しめちゃう。

情報量の多さという点では、
今市子やカイユキコも同じだけど、
この二人は読者にもっと親切です。
カメラワークで魅せて、
ほら、ここ、ここと、ちゃんと導いてくれる。

「ぼくたま」は……そう、ゲームに近いのかもしれない。
コントローラーは、読む人間の手の中にある。

7人分の想い

2013-09-18 22:31:25 | ぼくの地球を守って
*以下の巻数と頁数は、すべてHC(花とゆめコミックス)です*

三巻の109ページ。
「きみがモクレンを汚したからだ」に続く、
110、111の2ページの輪の表情。

マンガは数あれど、
これほどの情報量を含んだキャラの顔は、
そうそうないと思う。


読者はこの回で、
シオンのレイプ事件を初めて知ります。
だから読者は、絵の通り、雷が落ちたように驚く。

7歳の子供が「レイプの加害者」であるミスマッチがまずある

そして輪のこの顔は何を言っているのでしょうか。

モクレンへの罪悪感。
あるいは、あれは決してレイプではなかったのにという怒り?
シュウカイドウのモクレンへの愛。そのことへの驚き? 軽蔑? 共感?
あるいはレイプだと思っているのなら、
そのことへの罪の重さが今にして身に染みた?
あるいは、不当に重い罰だと思った?
その他、色々、色々、色々。

このシュウカイドウの言い分が正当か否かに、
「ぼくたま」のすべてがかかっていると言っても、
過言ではない。


重い見開きです。


それにつけても、リアルタイムで読みたかったマンガだなあ。