支援級からの高校受験2 内申点の不足は入試で不利になるのか?の続き
支援級からの高校受験をするにはいろんなハードルがありますが、どうしても本人が乗り越えなければならないのが学力の問題です。
内申点は合理的配慮でどうにかなっても、学力が足りなければ入学の機会は与えられません。
息子の学力は支援級の中では高い方でも、通常級の中では真ん中前後、それもいろんな人に個別支援をしてもらってなんとか真ん中を維持している状態でした。
それに対し、息子が志望した学校の偏差値は60前後、上位16%くらいの学力が求められます。
息子の現実とあまりにかけ離れた希望だったため、
中学校で最初に相談した際は、すべてにおいて献身的な支援級の担任の先生が固まってしまい、
「……………難しい(学校)ですよね……?」と返答につまるほどでした。
それでもその学校にチャレンジすると決めた根拠は、たいしたものではありません。
志望先は理系の学科だったので入試では数学の配点が2倍になるのに対し、息子は数学が得意で県内の実力試験で偏差値58と、努力すれば届くかもしれない成績だった、というくらいです。
それに、もともと通信制高校を希望していたので、ほかに行きたいと思える学校もないのにあちこち受験する意味はありません。
その学校がダメなら通信制高校で学びつつ、私と夫(理系研究職)で息子に研究テーマを与えて一緒に研究をするつもりで準備を進めていました。
担任の先生にはそのことを伝え、無謀とも言える受験に挑むことにしました。
勉強の障害
しかし、息子は勉強が得意ではありませんでした。
IQ(知能指数)が知的障害に該当しなくなったあとも、勉強が健常児と同じようにできる、とはなりませんでした。
家に遊びに来てくれた近所の子供たちと一緒に勉強をしているときも、他の子は私が教えたことをどんどん吸収していくのに対し、息子は何一つ覚えず、課題を形だけ終わらせるのがやっとでした。
それでもなんとか根気強く教えてやっとできるようになった!ということも1週間も経てばすっかり忘れている始末。
これは、学習障害というより興味の偏りが障害になっていて、例えば地理に対する関心がなさすぎて、全国の都道府県名と県庁所在地の小テストと間違え直しを毎日繰り返しても、覚えられるのは20個前後から増えず、結局、受験本番まで全部覚えることはできませんでした。
また、本人が得意とする数学も、それは他の教科と比べてのことであって、偏差値60くらいの人が初見で解けそうな応用問題はさっぱりダメでした。
ほかにも勉強の障害となるようなことはいっぱいありました。例えば
・書くことに対する抵抗やこだわりが強すぎて、勉強を始められない。また、始めても終わらせるのに時間がかかりすぎる。
・物の管理が雑すぎて、勉強道具やドリルなどがすぐに行方不明になる。また、机の上が散らかりすぎて勉強ができない。
・語の柔軟性が低いせいなのか、設問をきちんと読まずに一部を読んで勝手に解釈し、誤回答をしてしまう。あるいは問われていることを理解できない(例:「次の□(四角)の中から適切な回答を選べ」という設問で、選択肢全体を囲む四角形を認識できず、「問題がおかしい!」と怒って進めない、など)
・国語の読解問題などで、登場人物の心情を想像できない(「口元がゆがんだ」という表現からその人物の気持ちを推測するのは、息子にとって国語というよりソーシャルスキルトレーニング)
そんなこんなが重なって、本人としてはがんばっているつもりでも、成績は伸び悩みました。
そして実際、多くの中3生が勉強に本腰を入れ始める夏休み明け、県内の同地区の実力テストで、5教科偏差値は46にまで下がり、得意のはずの数学も52と、かろうじて平均を超えられたくらいでした。
諦めかけた心を支えた理系父の言葉
息子の中でこれまで一番勉強したはずのテストでのこの結果に、私と息子はすっかり心が折れてしまいました。
私が隣でマンツーマン指導をする時間を増やせば少しは成績を上げられるのではないか、そんな見積もりが甘かったことを突きつけられたときでした。
中3の2学期以降はみんなが必死に勉強するので、偏差値を10上げることがとてつもなく難しいのに、どんなに教えても何の手応えもない中、残り5カ月で偏差値を14以上上げるなんてとても不可能に思えました。
私は息子と頭を抱えながら、結果を夫(理系父)に伝え、「もう無理かもしれない…」とこぼしました。
「そっか〜。難しいなあ。勉強はやった分だけ比例して伸びるわけではないからなあ」と、夫は理解を示しつつ、こう続けました。
「限界突破だ」。
「知識って、一定量を超えるとつながりが増えて、あるところで一気に賢くなるんだ。その一定レベルに達するまで成果は目に見えにくい。だからその間はつらいけど、その限界点を超えるまでやり続けるしかないんだ」。
そして笑いながらこう息子に言い聞かせました。
「ChatGPTだって途中まではバカだったんだ。それがたくさん情報を与えて学習を続けることで今みたいに賢くなったんだよ」。
そこで私はふと気がつきました。
会話ができなかった息子とiPadに提示した写真で指差し対話をしていたのが、iPadなしでやりとりできるようになったとき
語彙の増えない息子のために動詞のリストをチェックしながら一語一語教えていたのが、リストが必要なくなったとき
息子が周りに気をつかえるようになったとき
これらは全部、限界突破だったのかもしれない。
息子はこれを全部突破したんだ。
だからきっと勉強だって限界突破できる。
私が十分な情報を与え続ければ……
絶望の中に、一筋の光を見いだした瞬間でした。
支援級からの高校受験3 学力はどこまで伸ばせるか? 後編に続く