理系母の療育と自閉症児の成長の記録

3歳で自閉症スペクトラムと診断された息子。約3年でDQ57→97。14歳で診断が外れ,高校受験を経て通常学級デビュー。

支援級からの高校受験3 学力はどこまで伸ばせるか? 前編

2024-05-20 12:54:22 | 発達障害

支援級からの高校受験2 内申点の不足は入試で不利になるのか?の続き

 

支援級からの高校受験をするにはいろんなハードルがありますが、どうしても本人が乗り越えなければならないのが学力の問題です。

内申点は合理的配慮でどうにかなっても、学力が足りなければ入学の機会は与えられません。

 

息子の学力は支援級の中では高い方でも、通常級の中では真ん中前後、それもいろんな人に個別支援をしてもらってなんとか真ん中を維持している状態でした。

 

それに対し、息子が志望した学校の偏差値は60前後、上位16%くらいの学力が求められます。

 

息子の現実とあまりにかけ離れた希望だったため、

中学校で最初に相談した際は、すべてにおいて献身的な支援級の担任の先生が固まってしまい、

「……………難しい(学校)ですよね……?」と返答につまるほどでした。

 

それでもその学校にチャレンジすると決めた根拠は、たいしたものではありません。

志望先は理系の学科だったので入試では数学の配点が2倍になるのに対し、息子は数学が得意で県内の実力試験で偏差値58と、努力すれば届くかもしれない成績だった、というくらいです。

 

それに、もともと通信制高校を希望していたので、ほかに行きたいと思える学校もないのにあちこち受験する意味はありません。

その学校がダメなら通信制高校で学びつつ、私と夫(理系研究職)で息子に研究テーマを与えて一緒に研究をするつもりで準備を進めていました。

 

担任の先生にはそのことを伝え、無謀とも言える受験に挑むことにしました。

 

 

勉強の障害

しかし、息子は勉強が得意ではありませんでした。

 

IQ(知能指数)が知的障害に該当しなくなったあとも、勉強が健常児と同じようにできる、とはなりませんでした。

 

家に遊びに来てくれた近所の子供たちと一緒に勉強をしているときも、他の子は私が教えたことをどんどん吸収していくのに対し、息子は何一つ覚えず、課題を形だけ終わらせるのがやっとでした。

 

それでもなんとか根気強く教えてやっとできるようになった!ということも1週間も経てばすっかり忘れている始末。

 

これは、学習障害というより興味の偏りが障害になっていて、例えば地理に対する関心がなさすぎて、全国の都道府県名と県庁所在地の小テストと間違え直しを毎日繰り返しても、覚えられるのは20個前後から増えず、結局、受験本番まで全部覚えることはできませんでした。

 

また、本人が得意とする数学も、それは他の教科と比べてのことであって、偏差値60くらいの人が初見で解けそうな応用問題はさっぱりダメでした。

 

ほかにも勉強の障害となるようなことはいっぱいありました。例えば

・書くことに対する抵抗やこだわりが強すぎて、勉強を始められない。また、始めても終わらせるのに時間がかかりすぎる。

・物の管理が雑すぎて、勉強道具やドリルなどがすぐに行方不明になる。また、机の上が散らかりすぎて勉強ができない。

・語の柔軟性が低いせいなのか、設問をきちんと読まずに一部を読んで勝手に解釈し、誤回答をしてしまう。あるいは問われていることを理解できない(例:「次の□(四角)の中から適切な回答を選べ」という設問で、選択肢全体を囲む四角形を認識できず、「問題がおかしい!」と怒って進めない、など)

・国語の読解問題などで、登場人物の心情を想像できない(「口元がゆがんだ」という表現からその人物の気持ちを推測するのは、息子にとって国語というよりソーシャルスキルトレーニング)

 

そんなこんなが重なって、本人としてはがんばっているつもりでも、成績は伸び悩みました。

 

そして実際、多くの中3生が勉強に本腰を入れ始める夏休み明け、県内の同地区の実力テストで、5教科偏差値は46にまで下がり、得意のはずの数学も52と、かろうじて平均を超えられたくらいでした。

 

諦めかけた心を支えた理系父の言葉

息子の中でこれまで一番勉強したはずのテストでのこの結果に、私と息子はすっかり心が折れてしまいました。

 

私が隣でマンツーマン指導をする時間を増やせば少しは成績を上げられるのではないか、そんな見積もりが甘かったことを突きつけられたときでした。

中3の2学期以降はみんなが必死に勉強するので、偏差値を10上げることがとてつもなく難しいのに、どんなに教えても何の手応えもない中、残り5カ月で偏差値を14以上上げるなんてとても不可能に思えました。

 

私は息子と頭を抱えながら、結果を夫(理系父)に伝え、「もう無理かもしれない…」とこぼしました。

 

「そっか〜。難しいなあ。勉強はやった分だけ比例して伸びるわけではないからなあ」と、夫は理解を示しつつ、こう続けました。

 

「限界突破だ」。

 

「知識って、一定量を超えるとつながりが増えて、あるところで一気に賢くなるんだ。その一定レベルに達するまで成果は目に見えにくい。だからその間はつらいけど、その限界点を超えるまでやり続けるしかないんだ」。

 

そして笑いながらこう息子に言い聞かせました。

「ChatGPTだって途中まではバカだったんだ。それがたくさん情報を与えて学習を続けることで今みたいに賢くなったんだよ」。

 

そこで私はふと気がつきました。

 

会話ができなかった息子とiPadに提示した写真で指差し対話をしていたのが、iPadなしでやりとりできるようになったとき

語彙の増えない息子のために動詞のリストをチェックしながら一語一語教えていたのが、リストが必要なくなったとき

息子が周りに気をつかえるようになったとき

これらは全部、限界突破だったのかもしれない。

息子はこれを全部突破したんだ。

だからきっと勉強だって限界突破できる。

私が十分な情報を与え続ければ……

 

絶望の中に、一筋の光を見いだした瞬間でした。

 

 

支援級からの高校受験3 学力はどこまで伸ばせるか? 後編に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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支援級からの高校受験2 内申点の不足は入試で不利になるのか?

2024-05-10 20:06:34 | 発達障害

支援級からの高校受験1 子どもにあった学校探し の続き

 

中2の夏の学校見学を経て目標は決まったものの,その道のりは前途多難でした。

そもそもに学力が足りていないのと

受験で重要な内申点が,支援級であるため数値として出せない教科があったからです。

 

多くの高校の一般入試は,試験当日の学力試験の成績と,中学校の9教科(英国数理社+美術,音楽,体育,技術家庭科)の5段階の評価(45点満点×1〜3学年*)とを合算して合計点を出し,点数順に合格者が決まります。

したがって内申点が数値で出せなければ,その分,合計点が低くなってしまう計算です。

 

息子は特別支援級に在籍していたものの,英国数理社の5教科は通常級で受ける「交流」という制度を利用していたので,その5教科分の数値はありました。

しかし,ほか4教科の数値はなく,支援級で受けた授業は「◯◯に取り組みました」という記述式です。

中学校が高校に提出する調査書では,数値が出せない教科は斜線/がひかれます。

それらの教科の数値が足りない分が,入試で不利になる可能性がありました。

 

そこで,このことについて中学の支援級の担任の先生に相談しました。

選択肢としては3つありました。

  1. 支援級から通常級に籍を移す。
  2. 支援級に在籍したまま9教科すべてを通常級で受ける。
  3. 現状のまま支援級に在籍して5教科のみ通常級の授業を受ける。

 

悩みましたが,結論から述べると,3)の現状維持を選択しました。

1)は,息子の5教科の成績やIQだけで判断すれば無理ないように思えるかもしれませんが,籍が支援級から通常級に移れば,これまで親身に指導してくれていた支援級の先生のサポートを得られなくなります。

物を散らかしていたり,不適切な言動をしたときに,適切な声かけで息子を導いてくれていた先生から離れるのはマイナスになるだろうと判断しました。

それに,小学校から家族のように一緒に過ごしてきた支援級のクラスメイトと離れることも,精神的ダメージが大きいと考えました。

すると2)の選択肢であれば支援級の先生やクラスメイトと離れずにすむので妥当に思えましたが,これもやめました。

まず,支援級では5教科以外のところでほぼマンツーマンの指導を受けられていたことが大きな理由です。

息子の支援級は生徒全体十数人に対し,先生は補助の先生も含め5人と多く,美術の時間や,技術家庭科の代わりにある「作業学習」の時間での縫い物やミシン,電鋸を使った木材加工などで,手取り足取り教えてもらっていました。

そのおかげで通常級の授業ではなし得なかったほど手先が器用になり,できることが増えました。

この授業を捨てるというのは息子のできないことを増やすのと同然でした。

 

そして何より,通常級で受ける授業が増えると,支援級と通常級の教室間移動が増えます。

疲れたり,忘れ物が増えたり,ストレスになったりして,逆に成績が下がる可能性がありました。

内申点を増やすために授業を増やした結果,内申点が下がったのでは元も子もありません。

 

一方,先生の話によると,県内の公立高校では支援級の生徒の評価に斜線/がある場合は,そこを0点とはせず,内申点はあくまで参考とし,当日の学力試験の成績で評価する決まりがあると言われました。

実際,市内の支援級からその制度を利用して内申点なしで公立高校に合格した人がいるというお話も聞きました。

だから,県外であっても国公立の学校であれば似たような制度があるはずで,無理して9教科を受けて成績に1がつくよりも,今のまま5教科に集中した方がよいという判断に至りました。

 

内申点はあくまで参考で,学力試験で評価するという制度があることを知って,

私は志望した学校に確認の問い合わせをしました。

しかし,その対応はつれないものでした。

「前例がない。斜線/の教科は0点の計算」。

 

ショックでした。

前例がないから難しいというのは理解できましたが,優秀な学校に支援級出身の生徒は歓迎されていないのかと卑屈な気持ちになってしまい,思わず涙がこぼれ落ちました。

 

学力試験だけでも厳しいのに,内申点でマイナス評価になれば,とても受かるような学校ではありません。

そこで他県の似たような学校を探し,1校1校,内申点がどう評価されるのか,と聞いて回りました。

担当者の言い方は違っていても,ほとんどの学校で同じような回答が返ってきました**。

私たちの県にはそういう制度があるから,同じような制度ありませんか?と聞いても同じでした。

 

息子のために「なんとかするって」決めたのに,頭が真っ白になって何の言葉も出ず,かすれた声で「わかりました…」と返事をするのがやっとでした。

 

さらに辛いことに,一緒に見学・相談に行った息子は,私が毎回「支援級に在籍していて…」と人前で説明するのを嫌がり,見学のあとはいつも不機嫌でした。

 

帰国子女には外国の学校での評価を特別換算するルールを設けていたりするのに,国内の特別支援級の生徒の成績は0点換算なんておかしな話で,

どこかにちゃんと制度があるはずなのに,それがどこに明記されているのかがわからず…

 

どこをどう調べてもわからなかったので,私は志望校を統括している機関の「入試に関する合理的配慮」の担当者に直接電話して聞くことにしました。

 

ここで答えが得られなかったら文科省に直接問い合わせをするくらいの覚悟でいましたが,

あっさりこう返されました。

「前例は少ないですが,支援級の生徒が内申点で不利にならないように各校で配慮するよう定めています。担当者が知らないだけだと思うので,次にそのようなことを言われたら私どもに確認するように伝えてください」。

 

このときは嬉しさで声がかすれ,やっとのことで「ありがとうございます」とお礼を伝えて電話を終えました。

 

ここに辿り着いたのが3年次の11月の終わり。

願書提出目前でギリギリ間に合ったという感じです。

 

そのあとは志望校に再度,そのことを伝え,対応していただくことになりました。

また,支援級の担任の先生が,志望校と統括機関に何度も電話をして,調査書の内容が不利にならないようにどう記載するのがよいか確認してくれました。

 

さらにありがたいことに,先生は「合格の可能性が少しでも上がるように」と調査書を入念に準備してくれました。

特別事項などの記入欄に,息子が通常級で受けていない4教科の学習指導要領を調べて,その中から息子が学んだこと,できるようになったことをたくさん書いてくれたのです。

これについては頭があがらないくらい先生に感謝しています。

 

こうして何とか内申点のことを気にせず,受験に挑めるようになりました。

 

次回はは足りない学力をどう伸ばすかについてまとめたいと思います。

 

支援級からの高校受験3 学力はどこまで伸ばせるか? 前編に続く。

 

補足

*中学校の成績は,地域や学校によって3年分必要,または3年次だけで判定
**問い合わせた中で,唯一,都立の某学校だけは,内申点は参考で,その分が不利にならないように,学力試験と合わせて評価する,と入試担当者がその場で答えてくれました。

 

 

 


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