奇跡の人
1
おお、寒いのに、明珠の街角に
春がそこまで来ている
街角にはまばらに雪がちらついているのに
おお 黄色いフリージアがさっそうと空に伸びている
羽がブルーで、可愛らしいルリビタキが鳴いている
おお、その音楽にも似たいのちの喜びの響き
もう梅も咲いているかもしれない
や、まだかな、それにしても、もうすぐだ。
小鳥の鳴き声には春のかおりがある。
小川のせせらぎは澄んで、安らぎの光が射している
柳の木には、緑の芽、桜の木には花のつぼみ
春が来たら、何をしよう
あの香り豊かなおいしい空気を吸ったら、何をしよう
まず、生きる喜びを感じるだろう
自然の優美さを真実の自己の精神の奥深くでとらえ
町いっぱいに花を飾り、森羅万象の不死のいのちを語ろう
ああ、あれから、八十年が立った
地球のあちこちに戦火の火種がくすぶり、
今や人類滅亡の終末時計が二分前という不気味さだ
ああ、青空に白い雲、缶コーヒーを飲む手に光が差し込む
この春の日、時は愛と慈悲を指さす。
それなのに、ベンチの上にある新聞紙に終末時計の活字が躍る
池には、水芭蕉の花。
メジロやホオジロの飛び交う緑を眺め、
行きかう平和な人々を見る
浦島太郎のような気持で春の池を見るのは誰?
若かった頃には、終末時計などあったろうか。
人は忘れてしまったのではないか。
全世界は一個の明珠であるということを
明珠をこわそうとミサイルと核をつくり、
宇宙のいのちに何のいたずらをしようというのか
ああ、誰かがピアノを弾いている
路地を流れていく音色の響きは多くの窓に聞こえてくる
人々は春の花を見、やわらかな光を見て、愛と慈悲を知る。
祈ろうではないか、平和への声をあげようではないか。
我々の絆を深めようではないか。
2
ああ 夏の町に詩人の歌声を届けよう
海水の美しい夏空の下で逞しい肌を見せる男女の群れ
砂浜に耳をよせて聞けば
不思議な海の底のひびき、永遠の祈りにも似たそのささやき
時として 雷雲おこり 大砲のような雷の音と稲光
宇宙の新しい生まれかわりの日のように
その時の天使の合唱のように
聞こえてくる 夜のしじま
あたたかい南風にゆられて、歌声がこの夏の町に送り届けられるだろう
酷熱の太陽に照らされた清潔な町よ
詩人は町の輝くような逞しさを そこに働く人々の労働の汗を愛するのだ
そして夏の夜に飲むビールの歓喜
夏の星空が ひろがる中で 岩にしみいく清流のように 陶酔に酔う時
詩人は生きる喜びを歌にして、この町の人々に伝えよう
酷暑に挑戦する向日葵の逞しさを働く人は汗とビールで知っている
あれから 八十年が立った。
便利になり、物は豊かになり、スピードのある生活がおくれる
それで、人はしあわせになったのだろうか
核兵器と温暖化の恐怖はその豊かさの裏側にある
核兵器をこの地上からなくそうではないか
ああ、夏の小川の素晴らしい水は大地の宝石、それを眺めていたい
いのちは生きた無の中に立ち上る不死のもの
人間は奇跡の人なのだ
我々は忘れてはいないだろうか 愛と大慈悲心の釈迦の教えを
向日葵が咲き、夏のいのちを歌っているではないか。
蝉がなき、不死のいのちを歌っているではないか
深い生命の声が聞こえるではないか
大地には無数の昆虫が、空には鳥が飛び交っている
ああ、それなのに人は真理の明珠を忘れてしまったのではないか
3
ああ 秋の町に手紙を届けよう
秋晴れと雨の日の交替という楽器にも似たうつろいやすい空の人生
そして又、若い男女の青春期にうちこむスポーツと読書
それらすべてを、この青空は知っている
澄んだ青空にも 曇る空にも いのちの芸術を感じる
震える魂のペンを手にして白い便箋にむかうのだ
やわらかい日差しに満ちた秋の町に
冬の到来を予感させる寂しさがあるにしても
こんなにも穏やかな日を恵んだ天をたたえる詩を書き、手紙の一部としたのだ
この手紙が町に届けられる時
町は学校の運動会や文化祭も終わり
街路樹の紅葉がしだいに落ち葉となっていく
4
ああ、冬の町に、孤独の詩を届けよう
雪降る日 ハートは永遠の重みのために 深い憂いに包まれている
あたたかい部屋の中で 本を読みながら寒さが外の世界を荒らしまわっていることを感じる時
宇宙の寒さと終局を感じてしまう
ああ、今、あの星は冬の寂寥とした荒野にかこまれていかなる寂しさを味わっているのだろう
そして又この星は、燃えつきた愛の炎に再び点火するエネルギーを待っている
宇宙の広大さに目を向ける時
冬の町のショーウインドーがクリスマスと正月にはさまれて
にぎやかな飾り はなやかな歌声に満ちているけれども
月夜の晩に感じる あのぞっとする孤独
その中で予感される死への旅路をあの星も、この星も、さし示しているように思われてならないのだ
だが、そうした にぎやかな冬の町に予感される死をはらいのけて
生命の歌を たえず生きつづけていく愛の詩を送ろうと思う
5
ああ あれから 八十年が立った。
雪は綺麗で、物語を生むが、生活している人は大変だ。
そして熱いコーヒーを飲む 生きる喜びを感じる時だ
この生きる喜びを守ろうというのが平和憲法だ。
今の憲法は基本的人権と九条で、人類の歴史に燦然と輝く宝石のようなもの
確かに、地球には弱肉強食の軍備が増強されて、不安を感ずる人は多い
終末時計は二分前なのだ。
どこかの国が平和のイニシアティブ、核兵器廃絶の旗を振らねばならないのだ
それは九条を持つ日本ではないか
世界の人は軍縮に目を向けるべき時にきている
格差と差別のない社会を実現し、目を宇宙の神秘に向けようではないか
人はみな仏性なのだ、神秘の生命体なのだ。奇跡の人なのだ
愛と慈悲心を知った者だけがこのいのちの深い神秘を知っている。
【久里山不識】
1 読んでいただき、ありがとうございました。それから、まだ小説「森に風鈴は鳴る」を読まれていない方は、ぜひこの機会にパブ―で電子書籍にされていますから、ぜひお読みになってくれればと思います。無料です。よろしくお願いします。
2 全ての日本人は日本を守り、平和が長く続くように、願っていると思います。ただ、どうやって守るかで意見が分かれます。
国会で議論するしかないと思います。国会議員の責任は重いと思います。議員を選ぶ国民の責任も重いと思います。[ 意見が違うから といって、マナー違反をする人がいるとすれば、それは教養ある人とは言えませんね。民主主義の基本も知らない人だと思います ]
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