緑の風

散文詩を書くのが好きなので、そこに物語性を入れて
おおげさに言えば叙事詩みたいなものを書く試み

変身(poem) 

2022-12-03 15:58:38 | 

 

変身【poem】

 

煩悩は深い。

不死の観音は見えぬので、形や色のはっきりした魅惑的な異星人に目を奪われる。

異星人は美しく官能的で、知的で素晴らしい風貌。

銀河の遠くから、やってきた異星人はわが惑星を狙う。近頃、異星人はわが銅山を占拠したらしい。姿を現すが、中々魅惑的である。

 

今の所、もめごとを起こす気はないらしく、経済活動を狙っているらしい。

我が惑星の価値観を変えたいらしい。

競争と金銭がかれらの価値観。

我らの惑星では、煩悩の激しさを認識しながら、観音を慕う信仰があるから、異星人とは水と油。

それに、異星人は武器を持っている。彼らはミサイルと特殊爆弾を持つとも言われている。人数は少数でもあなどれない。 

我らのカント九条あるいは観音の説明をしても、彼らの耳に入るだろうか。

 我らにしても、親鸞のように、煩悩があるから、観音の姿を見ることは難しい。

いくら会いたくとも、観音は中々姿を見せない

 

目の前にいることを感じたことはある。カーネーションの横に添えられたスターチスの花を見た時、だ。その紫の花に宮殿にもまさる美を感じたことはあったが、あの美に幻のように現れた姿は観音だったのか。こんな風にあなたを感じることはある。しかし、この目ではっきりと見ることは難しい。

もしかしたら、観音は変身しているのかもしれない。

花や樹木や小鳥に、あなたは変身しているのかもしれない

目の前にいながら、あなたを探し出すことが出来ないのはそのためかも。

あなたは観音で、仏性と呼ばれることもある。私は生身の身体で、あなたはいたる所に現れていると感じることはある。

大自然ばかりでなく、日常の部屋の中の調度品、さらにはカフェーで、あるいは海の見える砂浜で、森の中の小鳥の鳴き声に、あるいは町の坂道に咲く花に、いたる所に現れるのを感じることはあっても、しかし、あなたは見えない、

やはりあなたは変身しているのかもしれない

私がいくら言葉をかけても、声で答えてくれない、姿を現さない

 

 

異星人は新政府に銅を売り込み、それで大砲をつくれと勧めている。

儲かりますからね。つまり、異星人にとっては、大砲なんか怖くないんですよ。大砲は隣国相手の武器競争を駆り立て、自分たち異星人は儲けようという死の商人の魂胆がありありと分かるではありませんか。

 

死の商人の思惑を避けるには、文化交流が必要。

 

文化こそ、生きるものの宝石

祭りも文化、異星人は我らの祭りに来るだろう

 

祭りがやってくる。祭りがやってくる。

太鼓の音が胸に響く

笛の音は夢の緑のよう

さあ、踊ろうよ。すっかり頭が空っぽになるまで踊ろうよ

美しい日差しから夕方の黄金の空、そして星の輝くまで

全てを忘れて、皆で踊ろうよ。

さすれば、つまらぬ妄想は消え

踊る人はみんな友達になる

見ている人も友達になる

踊れよ、おどれ、我らの惑星は珠玉のように輝くだろう。

 

おそらくは、その時、観音は我らを見守るだろう。姿の見えない観音を感じて、我らは花火をあげる。

 

 祭りの前日の夜、河川敷から、花火をあげる。

花火の姿には観音の顔が一瞬見えるかもしれない。一瞬見えて、すぐに消えさる。

 

昼間から、山車がでて、昼過ぎから向日葵踊りが始まる。異星人はいつ来るのか。

雄大な虹が出て、夜になると、星がまたたき、いつの間に、広場の四隅にある街灯が広場をうすぼんやり、明るくしていた。

 

ポーンといくつもの音がして、小さなボールのような赤いものが上空に上がると、そこでまたポーンと音をたてて、周囲に丸く円を描くパターンが多いが、その花模様は色々で、中には富士山のような山の稜線を何かの巨大な花が咲いたように見せる花火。さらには、何かの御殿のような壮麗な建物、美しい塔のような巨大な花火、見たこともないような豪華な花の形をした花火、そんなものすら黒い星空に上がるのだから、その美しさは胸をはっとさせ、頭の中を空っぽにしてくれる美しさだ。頭を空っぽにした時、観音の顔が一瞬見えた気がする。

 

 

大きな花火が上がった。いくつもの向日葵のような花火が色もいくつも描き出し、美しいと思う。

 ほら、小鳥の声が聞こえるではないか、何という小鳥だか知らないが、美しい声だ。ヴァイオリンにも負けないような音色だ、魂を引き込むような鳴き声が星の輝く夜空に響く。
満月の差し込む光の慈悲
どこからともなく吹くいのちのそよ風
呼吸の中に感じるいとしの君のいのち
ああ、観音の愛は電波のごとくわが全身を包む
ヒトよ、武器を捨てて、互いの仏性を見よう
その時、巨大な宝石のような花火が夜空に輝くだろう  

 

「鉱毒事件が起きている。銅山から流れ出る鉱毒が川に流れ込み、そして、そこの周囲の野菜畑にしみ込んだ鉱毒は村を襲った。異星人は我らに害を与えにきたのか」

「ビジネスよ」

異星人の女は涙を流していた。

「無駄な争いはやめよう。異星人、君の仲間を祭りに呼んで欲しい」

「しかし、異星人の銅山開発は車をつくり、売るというビジネスだけではないようですぞ。銅は大砲になります。こういう武器をつくるかどうかで、新政府は意見が分かれていて、軍備の増大に反対する気骨ある人もいるが、多くは異星人の要求に同意しようとしているのですぞ。

そういう人達は、産軍共同体をこの国にも作ろうとしているのです」

「産軍共同体が出来ると、異星人は儲かるというわけですか。あくまでもビジネスの形をとりたいということですね」

 

「その通り。隣の国では、産軍共同体はできあがっている。あの国は倫理的には良い国だから、積極的に戦争をしかけることはしないが、その裏の産軍共同体は戦争をすると儲かるという仕組みになっている。この間は、向こうの小国で民族問題でトラブルがあった時、つまり、さらに向こうの大国が大砲をぶっ放した。お互いに大砲をぶっ放したのです。

幸い、大きくならず、収まったけれど、結局、産軍共同体だけが儲かり、一部の金持ちに大金が転げ落ちたという事実がある」

「あたし達はあくまでも、この国とビジネスをしたいだけで、遠い宇宙空間を飛んできたのよ」と異星人の女は言った。

 

「異星人である君たちが祭りに参加するように、君からも言うことだよ。それが実現できれば、真の意味の友好の足掛かりになる。祭りは天からのものだ。その中で、踊りあかせば、変な妄想は消え、ヒトは仲良くなれるものだ。

 つまらぬ妄想を捨てよう

みんな仏性という仲間なんだ

レッテルだの偏見だのそんなものに縛られない

素裸の魂に愛の衣服を着せて、

天の恵みの光に包まれて

踊ろう

山車は宝塔のように、神仏をのせた乗り物

その美しい宝石に飾られた山車を引いて

我らヒトは平和と愛に向かって、前に進もう

 

祭りが始まった。

数台の山車が町の中央の大きな広場の周囲を回りだした。真ん中の山車の一番上に、水耕栽培の果物がその長さ三メートル横二メートルの所に一面にその美しい深紅の果実があふれるようになり、真ん中に男が法被姿で太鼓をたたいているのだ。

 

何という素晴らしいあふれるような果物の美しさに驚かされる

さらに驚いたことには、異星人が民族衣装を着て、山車の二階にすわり、太鼓にあわせて、楽器を弾いている。

大男が先頭の綱を引っ張り、あとから、祭りの衣装を着た市民が大人も子供もつながるように引っ張っている。

 

 山車がゆっくり動き出すと、内側に山車と並んでもう五十名ほどの男女が向日葵踊りを始めている。

広場のはじのベンチに座っている人々。

 そこに、ひょつこり顔を出したのは異星人の司令官だった。

「どうです。兵士も民族衣装をきせれば、立派な平和の使者。ビジネスマン。いや、われらの神の使者となりますでしょ。しかし、我らもあの水耕栽培による果実には驚きました。我らの文明ははるかに進んでいるのに、こういう水による栽培があるとは気づかなかった」

 

「生命とは何と素晴らしいのでしょう。細胞を生命という学者がいますけど、わたしはちょつと新しい考えを思いついたのですよ。細胞が生命なら、この果物をこんな風に無限にさせている力は「自然のいのち」とでもいうべきものです。「自然のいのち」は目に見えません。目に見えませんが、森羅万象にいきわたっているのです。」

 

「真理は一つなんだと思いますよ。ただ、表現は色々にあるのだと思います。そして、その表現には、真理への到達度の差で、深い浅いがあるのだと思います」と詩人が言った。

なるほど、向日葵踊りは三台の山車と一緒に、朝の三倍ほどに膨れ上がっている。

太鼓の音も笛も民族の楽器もまさに佳境のように、憂愁の音色を秘めた情熱の激しさで青空に響いていく。

 

深紅の水耕栽培の果物が上からあふれるようになって、そよ風に揺れる。

そよ風は山車に飾り立てられている金や銀やあらゆる宝石の数珠の飾りを揺らし、かすかな独特の美しい音色を生み出す。

空は青空。

異星人の数人が民族衣装を着て、二階にすわり、太鼓にあわせて、楽器を弾いている。これも中々の見ものだ。

山車の上に、観音が見えるではないか。素晴らしい虹がかかっている。あの虹が観音の姿ではないか。我らと異星人が友好の手を結べたことを祝福しているのではないか。

呼べど、叫べど、見えなかった観音はついに、虹という姿で現れた。山車の周囲をすべてを光が包んでいる。光こそ観音、あなたの衣服ではないか

    

【完】




[ 久里山不識 ]

又、小説を書く癖の抜けきらない詩になってしまいました。少しは、現代詩になっているでしょうか。

年ですし、体調もあまりよくないので、ゆっくりペースになりますので、よろしくお願いします

それから、小説「森に風鈴は鳴る」は パブ―(puboo)から、小説「迷宮の光」「霊魂のような星の街角」はアマゾンから電子出版されています。

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿