ウェアラブルデバイスなどのsoft machineは現在進歩著しい分野ですが、このようなデバイスの開発には弾力性のあるひずみゲージや圧センサーの開発が必須です。この論文は、異方性抵抗構造(strain-mediated contact in anisotropically resistive structures, SCARS)に基づいた、高い弾性を備えた汎用性の高い高感度ひずみ検出デバイスの開発を報告しています。医療を含め、様々な分野への応用が可能そうです。
元巨人軍で大リーグでも活躍した上原浩治選手は、エリートに負けず、踏みつけられても負けない強い力を持ちたいということで「雑草魂」を座右の銘にしていましたが、これからは「コブゴミムシダマシ魂(韻を踏んでいる)」と言った方がいいかもしれません。コブゴミムシダマシ(Phloeodes diabolicus)はバッタもんみたいな名前を付けられていますが、あに図らんや超強いのです。どのくらい強いかというと、踏みつけられても車で轢かれてもびくともせず、昆虫採集の時にピンを刺すのに一苦労というから驚きです。昆虫大好きな香川照之さんは知っていたでしょうか?この論文によるとコブゴミムシダマシは最大149ニュートン(体重の約3万9000倍)の力に耐えることができるそうです。60キロのヒトでいえば2000トンのひだ型巡視船が上に載っても大丈夫ということですので、一安心です(何が?)。
コブゴミムシダマシの外骨格がミネラルを含まないにもかかわらずこのような強度を有する理由を調べるために、著者らは電子顕微鏡観察やμCTなどを用いて詳細な検討を行いました。その結果、鞘翅の中央部にジグソーピースの形状でかみ合った接合部が連なっており、このような幾何学的形状と微細な積層構造が、優れた強度をもたらしていることを明らかにしました。詳細は私には説明できないので自分で論文を読んでください。
著者らは異種材料(例えば、プラスチックと金属)を接合する頑強なメカニカルファスナーとしての可能性を検証するために、このような構造を模倣した金属複合材からなる接合材を作製し、一般的に用いられる工業用接合材より強度が向上したことを示しています。
やはり昆虫すごいぜ!ですね。我々もコロナやらロックダウンやらに踏みつけられても負けないコブゴミムシダマシ魂を持ちましょう!
HeLa細胞という不死化細胞を見たことがあるでしょうか。私は30年近く前に研究で使用したことがありますが、増殖能に富んだ大変美しい細胞です。この細胞はHenrietta Lacksという名前のアフリカ系アメリカ人女性の子宮頸癌から1951年に樹立された初めてのヒト細胞株(彼女の頭文字をとってHeLaと名付けられた)であり、その後ポリオワクチンの開発など、この細胞を元に得られた科学・医学の分野の成果は数えきれず、また製薬企業には巨万の富をもたらしてきました。問題だったのは、彼女や家族の承諾を全く得ずに細胞の採取が行われたことです。Henrietta Lacks自身は1951年に亡くなりましたが、その事実を知った遺族が、本人や家族の同意を得ずに無断で採取された細胞から得られた情報は不当なものであり、そのゲノム情報なども個人情報であって公開は許可できないと訴えました。このあたりの詳細な経緯はRebecca Sklootの『The Immortal Life of Henrietta Lacks』(邦題『不死細胞ヒーラ 〜 ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』講談社) の中で述べられており、また2017年にはHBOによって同じタイトルで映画化されています。その後NIHのFrancis Collinsらの努力で、HeLa細胞のゲノム情報の公開はケースバイケースで認められることになりましたが、この件は「患者の細胞やDNAを用いて得られた情報をどのように扱うべきか?」という大きな倫理的問題を提起しました。
今回のNatureの記事はHoward Hughes Medical Institute (HHMI)がHeLaの使用に対して賠償金を支払うことを決めたというものです。これは最近のBLM(Black Lives Matter)運動とも連動しているようですが、遺族にとっては一歩前進であることは間違いなく、この記事でも好意的にとらえられています。
哺乳類の性は遺伝子で規定されており、遺伝的な要因によってオスでは精巣、メスでは卵巣が発達します。しかし少なくとも8種類のモグラでは、XX染色体を有するメスが卵精巣 (ovotestis)という臓器を発達させてオスっぽくなる間性 (intersexuality)という現象が見られます。因みにオスの精巣は他の哺乳類と同様です。Ovotestesはovarian part (OP)とtesticular part (TP)に分かれており、testicular partには生殖細胞はないものの、アンドロゲン産生Leydig細胞などは存在します。アンドロゲン濃度が上昇するため、メスは筋肉ムキムキになり攻撃的になります。
さてこのような不思議な現象がどのようにして生じるのかは興味深いですが、著者らはintersexualityを示すTalpa occidentalis (イベリアモグラ)のゲノムの解析から、様々な試行錯誤の末、この現象にCYP17A1, FGF9という2つの遺伝子の再編成 (rearrangement)が関与することを解明しました。イベリアモグラではアンドロゲン合成を制御するCYP17A1遺伝子のtandem triplicationが見られ、これによってエンハンサー領域の二重化(enhancer duplication)が生じてCYP17A1発現が上昇し、アンドロゲン産生が亢進すること、またFGF9遺伝子の染色体内反転が生じており、FGF9の発現が遷延化することでOPにおける卵細胞の減数分裂が遅延し、TPの発達を促すことなどが明らかになりました。同様の変異をマウスに導入すると、それぞれアンドロゲン濃度の上昇、メスのオス化が生じることも示されました。
そもそもどうしてこのような現象が必要なのかは不明ですが、メスの筋量を増加させるためではないかと考察しています。
"Life is like coffee, the darker it gets, the more it energizes."
(人生はコーヒーに似ている。濃くなれば元気がでる。)
ーAnkita Singhalー
「○○(食品)は癌を防ぐ」「××は老化を抑える」という類の情報番組は自分自身は眉に唾して観ていますが、癌の民間療法のように真に有害なものは困りますが、実害がなくてエンターテインメントの枠に収まっていればよいかと思っています。しかし情報番組の直後からスーパーの納豆が消え去ったというような話を聞くと、コマッタモンダ┐(´д`)┌ ヤレヤレと思います。などと言いながら、緊急事態宣言後のステイ・ホーム期間にコーヒーを飲むことが増えたので、NEJMのreviewでコーヒーが健康にいいとか悪いとか言われると小市民なので結構気になります。
個人的に「へー」 Ωヾ(・∀・` )ヘーヘーヘーと思ったところを順不同で箇条書きにしますと
①1回(杯、本)での摂取カフェインはやはりコーヒーが多い(カフェイン飲料より多い)。
②カフェインの半減期は2.5~4.5時間だが個人差が大きい。新生児は殆どカフェインを代謝できず半減期は80時間と長い(→大量のコーヒーを飲んだ後の授乳はやめたほうが良いかも)。生後5-6カ月以降は成人と変わらない。
③カフェインの作用はアデノシン受容体に拮抗的に結合してアデノシン作用を抑制することによる。
④カフェイン中毒で死亡したヒトの血中カフェイン濃度は180 mg/L程度。これは急速にコーヒーを75-100杯飲んだくらい。
⑤妊娠中の過剰なコーヒー摂取は流産や低体重児のリスクを上げる。
⑥コーヒー・カフェインと慢性疾患や死亡率との関係(relative risk, RR)
メタアナリシスの結果(1日6杯以内程度)
全死亡↓: RR 0.85(0.82ー0.89)
癌死亡↓: RR 0.97 (0.93ー1.00)
心房細動→: RR 0.99(0.91ー1.05)
心血管病↓: RR 0.89(0.85ー0.93)
2型糖尿病: RR 0.89(0.80ー0.86)
胆石↓: RR 0.85(0.82ー0.89)
肝硬変↓: RR 0.45(0.26ー0.66)
肝癌↓: RR 0.66(0.52ー0.68)
子宮内膜癌↓: RR 0.85(0.78ー0.92)
Parkinson病: RR 0.69(0.61ー0.77) 等、なんだかよさそうです!
全死亡については背景となる健康状態を調節しても有意に低くなるようで、日本人集団でもコーヒーを飲む人の方が死亡が少ないという調査結果がいくつか報告されています(Tamakoshi et al., Eur J Epidemiol. 2011;26:285-93; Saito et al., Am J Clin Nutr. 2015;101:1029-37; Sado et al., Circ J. 2019;83:757-766)。
ということで全体としては好ましい作用が多そうですが、もちろん夜遅くの摂取は睡眠障害の原因になりますし、過量摂取は種々の好ましくない精神症状を生じます。人によって代謝が異なることにも注意が必要です。何事もほどほどが大事ですね。
(人生はコーヒーに似ている。濃くなれば元気がでる。)
ーAnkita Singhalー
「○○(食品)は癌を防ぐ」「××は老化を抑える」という類の情報番組は自分自身は眉に唾して観ていますが、癌の民間療法のように真に有害なものは困りますが、実害がなくてエンターテインメントの枠に収まっていればよいかと思っています。しかし情報番組の直後からスーパーの納豆が消え去ったというような話を聞くと、コマッタモンダ┐(´д`)┌ ヤレヤレと思います。などと言いながら、緊急事態宣言後のステイ・ホーム期間にコーヒーを飲むことが増えたので、NEJMのreviewでコーヒーが健康にいいとか悪いとか言われると小市民なので結構気になります。
個人的に「へー」 Ωヾ(・∀・` )ヘーヘーヘーと思ったところを順不同で箇条書きにしますと
①1回(杯、本)での摂取カフェインはやはりコーヒーが多い(カフェイン飲料より多い)。
②カフェインの半減期は2.5~4.5時間だが個人差が大きい。新生児は殆どカフェインを代謝できず半減期は80時間と長い(→大量のコーヒーを飲んだ後の授乳はやめたほうが良いかも)。生後5-6カ月以降は成人と変わらない。
③カフェインの作用はアデノシン受容体に拮抗的に結合してアデノシン作用を抑制することによる。
④カフェイン中毒で死亡したヒトの血中カフェイン濃度は180 mg/L程度。これは急速にコーヒーを75-100杯飲んだくらい。
⑤妊娠中の過剰なコーヒー摂取は流産や低体重児のリスクを上げる。
⑥コーヒー・カフェインと慢性疾患や死亡率との関係(relative risk, RR)
メタアナリシスの結果(1日6杯以内程度)
全死亡↓: RR 0.85(0.82ー0.89)
癌死亡↓: RR 0.97 (0.93ー1.00)
心房細動→: RR 0.99(0.91ー1.05)
心血管病↓: RR 0.89(0.85ー0.93)
2型糖尿病: RR 0.89(0.80ー0.86)
胆石↓: RR 0.85(0.82ー0.89)
肝硬変↓: RR 0.45(0.26ー0.66)
肝癌↓: RR 0.66(0.52ー0.68)
子宮内膜癌↓: RR 0.85(0.78ー0.92)
Parkinson病: RR 0.69(0.61ー0.77) 等、なんだかよさそうです!
全死亡については背景となる健康状態を調節しても有意に低くなるようで、日本人集団でもコーヒーを飲む人の方が死亡が少ないという調査結果がいくつか報告されています(Tamakoshi et al., Eur J Epidemiol. 2011;26:285-93; Saito et al., Am J Clin Nutr. 2015;101:1029-37; Sado et al., Circ J. 2019;83:757-766)。
ということで全体としては好ましい作用が多そうですが、もちろん夜遅くの摂取は睡眠障害の原因になりますし、過量摂取は種々の好ましくない精神症状を生じます。人によって代謝が異なることにも注意が必要です。何事もほどほどが大事ですね。