とはずがたり

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ずれの少ない舟状骨骨折に対する手術療法vs保存的治療(SWIFT)

2020-08-09 14:07:28 | 整形外科・手術
舟状骨骨折は手根骨骨折の90%、全骨折の2-7%を占める骨折で比較的若年者に生じます。初療で見逃されることが多いので、研修医には、手関節痛がある外傷患者では「骨折があるものと考えて」診断にあたるように指導しております。さて骨折のズレが大きいものについて手術を行う事にはどなたも異論無いと思いますが、ズレが少ない症例について保存的に治療するか、手術をすべきかについては議論のあるところです。このScaphoid Waist Internal Fixation for Fractures Trial (SWIFFT)はこのような疑問に答えるべき行われたものです。
受傷後2週間以内のbicorticalの舟状骨折でズレ(step, gap)が2 mm以下の症例が対象となりました。Proximal poleやdistal poleに骨折が及ぶもの、脱臼を伴うもの、同肢に多発外傷のあるもの、逆側に橈骨遠位端骨折があるものなどは除外されています。
同意が得られた患者はランダムに手術(手術群219人)あるいはキャストによる固定(保存群220人)に振り分けられ、手術群は経皮的あるいはopenによるスクリュー固定(Standard CE-marked headless compression screws)、保存群は肘下キャストで6ー10週間の固定(固定期間は外科医が判断)によって治療します。保存群においては6ー12週後のCTで偽関節が認められた場合にはすぐに手術を行うことになっています。その結果保存群のうち17例が手術となりました。
患者の平均年齢は32.9歳、男性が83%、骨折のズレは1 mm未満が61%でした。
(結果)Primary endpointである52週後のpatient-rated wrist evaluation (PRWE)スコアは手術群、保存群で11.9点および14.0点でやや手術群で低い(良好)なものの有意差はありませんでした(P=0.27)。喫煙状態や施設の違いなどを考慮しても同様でした。26週後のPRWEスコアにも有意差はありませんでしたが(16.2 vs 16.5, P=0.89)、12週後のスコアは有意に手術群が低く(21.0 vs 26.6, P=0.01)、6週後は有意差はないものの手術群で低い(35.6 vs 39.8, P=0.06)という結果でした。52週後のPRWE painスコア、SF-12 mental component scores、可動域、握力にも両群で差はありませんでした。
52週後の偽関節は手術群2例(1%)、保存群9例(4%)でしたが有意差はありませんでした。手術群のうち8例(4%)はスクリュー抜去(6例)、偽関節(2例)の追加手術が必要でした。保存群のうち1例(0.5%)は途中経過で偽関節が見られたため手術を行いましたが、癒合が見られず再手術が必要でした。手術群のうち3例には麻酔や手術に関連したserious adverse eventがみられました。52週後のCTでは手術群の約半数に1-2 mm、1/4に2 mm以上のスクリューの突出が見られましたが、抜去が必要だったのは上記のごとく6例でした。
この結果から、ズレが2 mm以下の症例についてはまず保存的治療→偽関節がみつかったら手術というストラテジーが良いのではないかと結論しています。この研究結果は患者に説明する際の参考になりそうです。とはいえ52週後の成績が同じでも偽関節率が比較的少ないこと、固定期間が短いこと(86%は固定なし)などの手術のメリットについても説明しないとfairではない気がします。