変形性膝関節症(knee osteoarthritis, KOA)は高齢者の運動器疾患の中でも最も多いもので、日本にも2500万人以上の患者がいるとされています。重症化すれば人工膝関節全置換術などの手術が有効ですが、重症化予防のエビデンスがある薬物が存在しないことも治療を難しくしています。KOA患者に対しては運動療法が有効であることが報告されていますが、その内容や強度についての詳細な解析はこれまでありませんでした。さてOARSIのガイドラインをはじめとして、運動療法はKOAの症状を改善させることが知られています。一方で激しすぎる運動はかえって関節軟骨を傷めてOAの進行を助長させる可能性も指摘されています。
この研究 (The Strength Training for Arthritis Trial; START)では高強度トレーニング(high-intensity strength training, HIST)および低強度トレーニング(low-intensity strength training, LIST)のKOA患者に対する効果を対照群(attention control)と比較しています。HISTとは週3回ずつ1RM (repetition maximum) の75%の負荷を3セット、8回繰り返し (8 repetitions) を2週間行い、その後負荷を2週ごとに80%(8 repetitions)→85% (6 repetitions) →90% (4 repetitions)と増やしていき、1週間のtaper weekをはさむ9週間のコースを、9週後に新たな1RMを設定しながら繰り返すという結構ハードな18カ月のプログラムです。ライ〇ップか。。LISTは1RMの30-40%負荷で3 sets, 15 repetitions行います。Attention control群でも運動や栄養などについてきちんと教育します。Primary outcomesは18カ月後のWOMACに加えて歩行時のmaximum knee joint compressive forceです。後者については3D kinematic and kinetic gait dataを解析するという本格的なものです。これ以外にもX線像によるKOAの進行やCTで測定した筋量、血清IL-6レベルなど実に詳細なデータが解析されています。
(結果)各群に127名、126名、124名が割り振られ、平均年齢は65歳です。18カ月後の調査に参加したのは320名 (85%)でした。18カ月後のWOMAC painはそれぞれ5.1 (開始時7.0)、 4.4 (同7.4)、4.9 (同7.2)であり、群間に差はありませんでした。またknee joint compressive forceも2453 N (2326), 2475 N (2325), 2512 N (2261)と差はありませんでした。Secondary outcomeについては、LIST群でHIST群よりも6カ月後のWOMAC knee pain (p=0.001), functionスコア (p<0.001)が良好でした 。Compressive forceについては6カ月後も有意差ありませんでしたが、6カ月後の6分間歩行距離はHIST<LIST (p=0.02)でした。HIST群とcontrol群では差がありませんでした。18カ月後のX線像のKOA進行やCTで測定した筋量や脂肪量、血清IL-6濃度などには差がありませんでした。
有害事象については筋痛などはHIST群で多い (それはそうでしょ)という結果でしたが、重篤な有害事象については差がありませんでした。
ということでHISTはKOAを悪化させるわけではないが、改善させる訳でもない、筋量なども変らずという結果でした。WOMACなどの自覚的な症状はcontrol群でも改善するのはわかるのですが、筋量も変らなかった理由は?です。日頃から「運動は体に悪い」てなことを言っているグータラな私にとっては朗報 (?)ですかね。
Messier SP et al., Effect of High-Intensity Strength Training on Knee Pain and Knee Joint Compressive Forces Among Adults With Knee Osteoarthritis: The START Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Feb 16;325(7):646-657.