ダニの研究者でもなければダニが大好きという人は多くないと思います。刺されて痒いのも困りますが、病原体の媒介になるというのはもっと困ります。つつが虫病リケッチアもダニによって媒介されますし、リウマチ性疾患の領域だとBorrelia burgdorferiによって生じるライム病もダニが媒介する疾患として知られています。ダニの種類によってはヒトの皮膚に食い込んで1週間以上も血を吸い続ける強者もおり、本当にカイカイ・・いや不愉快です。自然免疫に作用する分子として、マダニなどはdomesticated amidase effector 2 (dae2)という酵素を有しており、これは元々は細菌のtype VI secretion (T6S) amidase effector 2 (tae2) という遺伝子を4000万年前くらいに取り込んだもののようです。Tae2には細菌が自らにとって邪魔なグラム陰性菌の細胞壁を壊して殺してしまうという効果があります。著者らはダニに存在するdae2の作用を研究し、この酵素がグラム陰性菌だけではなくグラム陽性菌に対しても殺菌効果を有し、特にヒトの皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌を極めて効率よく殺す作用を持っていることを明らかにしました。つまりダニはdae2を分泌することで自分にとって有害なヒト皮膚常在菌を殺してヒト皮膚における自分の居場所を確保しているようで、dae2をノックダウンしたダニはマウスの吸血を効率よくできなくなることも明らかになりました。このような進化はヒトに寄生するダニに特異的なものであり、爬虫類に寄生するダニは爬虫類の常在菌(グラム陰性菌)に対して有効な酵素を有しているそうです。Dae2の作用機序がわかればダニ媒介感染症を防ぐことができるかもしれませんし、また表皮ブドウ球菌に対して抗菌効果を持つ物質の開発にもつながるかもしれません。というようなことを考えていたらなんだか背中が痒くなってきました。
Hayes et al., Ticks Resist Skin Commensals with Immune Factor of Bacterial Origin. Cell VOLUME 183, ISSUE 6, P1562-1571.E12, DECEMBER 10, 2020.
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