去年の終わり、友達のイネという男にウチの玄関に生えている枇杷の木を切ってもらった。この枇杷の木、何処からやって来たか分からない枇杷の種が勝手に芽を出し、あっという間に三階建ての家よりも高くなって隣の家の敷地に越境してしまっていたので母親がすごく気にしていたものである。(しかも毎年、実がなる季節になるとそれを狙って近所中のカラスが集まってきて、まるでヒッチコックの映画のようになってしまうのだ。)イネというのは高校からのバンド仲間のボーカリストで、当時から声も体もデカくてどちらかというと乱暴者で厄介な奴という印象を人に与えがちな人間なのだが、職業として造園の仕事を長くやっていて今回の相談に乗ってくれたのだ。イネいわく、いずれにしても枇杷の木はその強さゆえに『首吊りの木』とも言われ、家の敷地に生やすのはあまり縁起の良い物ではないという事であった。その日イネは午前中に同じ昔からの友達、平岡の母親が管理しているマンションの植木の手入れをした後でウチに寄ってくれた。かなりの大きさの木ということもあって、まず塩とお神酒でお祈りを行った後、あっという間に伐採を行うその手際の良さはさすが専門職というカンジで、それは素人には相当困難な作業に違いなかった。終わった後、『おばさんにはお世話になってるし、アラケンにはここんとこベースも弾いてもらってるしお金はいらねぇよ』(イネ、しばらくバンド活動は休んでいたのだが最近またやり始めた)と言う。まぁたしかに俺がベースを弾いているのは正式メンバーとしてではなく手伝いということではあるけど実際には結構自分でも楽しんでるとこあるしなぁと思いながらもお言葉に甘えてしまった。
そしてもう一つの出来事。
去年の台風の時、ウチのベランダから物干竿が飛んでいき隣のウチのベンツにキズをつけてしまい、その請求が20万円(!!)、母親はショックで2、3日寝込んでしまった、ということがあった。そこでやはりバンド仲間のギタリストであり中古車販売業を営んでいるアッちゃんに相談したところ、出入り業者の塗装屋さんに話をつけて格安で修理をしてくれたのである。アッちゃんはいつも『新井さんにはお世話になってるから』なんて言ってくれるけど、コッチが世話になってるばかりで全然世話なんかしていないんだよね。
俺は日頃から『自分で出来る事はなるべく自分でやる!あまり人を頼るべきではない!』などと身の程知らずで偉そうな事を考えていて、それを介在する手段がお金なのだなぁとか思っていたのだが、やはり無理があるのかもしれない。それよりもイネやアッちゃんが自分の持っている仕事と能力に誇りをもって一生懸命やっているカンジに俺は感動するし、それこそが人が交わる由縁なのだなと今更ながら思い知らされてしまうのだ。
そこで更に考える。俺は自分の力では得られない何かを、他から得る代わりに、何を提供できるのか?(無償の愛というのもあるけどそれはまた難しい。)
俺が今のとこできる事はベースを弾く事、あと靴や鞄を修理する事かな(どちらもまだまだだけど、とりあえずあるだけラッキー!)。今まで楽しんでやってきただけだけど、更にそれに誇りを持って精進して一生懸命にチャンとやらなきゃいかんなと。
あ、そういえば以前イネのブーツ直してやったっけ。
とにかく俺も含め、それぞれみんなが神様から与えられた仕事をもっとチャンとやるだけで世の中もっとマシになる気がします。政治家の人とかも。