K18金 ¥3280
プラチナPT950 ¥3120
【 5月31日(水)即買値】
-コラムー
<二十年前のあなたへ>
いきは良い良い、帰りはこわい。
時の壁を超え、未来行きのタイム
マシンに乗って、あなたから届いた
お手紙を読んでいる最中に、つい、
そんな歌を口ずさんでしまい
ました。
ごめんなさい。東京駅から、下りの
新幹線に乗り込んだあなたは、うつ
むいて、今にも零れ落ちそうな涙
を、必死で堪えているというのに。
可愛像なあなた。
あんなに期待して、はち切れそうな
思いで胸をいっぱいにして、会いに
いったというのに、とうとう彼に
会えなかったね。会えなかっただけ
じゃなくて・・・・
つらかったね。ずいぶんつらい目に
遭ったね。
東京駅から電車を乗り継いで、彼の
住む街に着いたとき、あなたは駅
構内にある緑色の公衆電話から、
彼に電話をかけてみました。まだ、
携帯電話のない時代でした。
彼の電話は、留守番電話に切り替
わっていたので、あなたは伝言を
残し、駅前の喫茶店に入って、三
十分ほど時間を潰したあと、また、
かけてみました。
彼はまだもどっていなかった。
「もしかしたら、あたしの手紙、
届いていなかったのかな・・・・」
そんな風にも、思ったね、まるで、
自分に言い聞かせるように。
迷わずにいけば、駅から歩いて二十
分くらいのところに、彼のアパート
はありました。
公園のベンチに座って、彼への短い
メモを書き、――東京駅に着いたと
き、もう一度だけ、お電話してみま
す、と未練をたっぷりこめて――
それを手に、ふたたびアパートに
向かいました。
階段の下まで来たとき、あなたは
ふと、近くにあるごみ置き場に
放置されたままの、黒いビニール
袋に目を留めました。
猫かカラスに荒らされて、袋は破れ、
中身が飛び出していました。
「あっ」
と思って、あなたはごみ袋のすぐ
近くまで歩み寄っていきました。
さまざまなごみに混じって、見覚え
のある、うすいピンクの封筒。
ブルーのインクで記された、あなた
の文字。「青山晴彦様」。
それは、あなたがちょうど一週間前
に出した、手紙でした。
好きです。
会いたいです。
会いにいってもいいですか?
懸命に綴ったあなたのへの気持ちが、
あなたの気持ちが、あなたの声が、
まるで悲鳴を上げているように、
耳に飛び込んできました。
可哀想な手紙。
ごみと一緒に、捨てられてしまった、
恋。
ついさっき、あなたは、新幹線の
デッキに備え付けられているごみ
箱のなかに、彼へのメッセージと
ともに、その手紙を捨てましたね。
彼に捨てられた手紙だったけど、
自分で捨てる、ということが、
あなたにとっては、大切だったの
でしょうね。
あなたの自分の手で、恋を埋葬し
たかったのでしょう。
たくさん、泣きなさい。
二十年前のあなた。今、泣きたい
だけ、泣きなさい。
大丈夫。涙を流した分だけ、あなた
は優しい人になれるし、今味わって
いる悲しみの深さと同じだけ深い
幸せを、いつか、味わうことができ
るから。
だから、好きなだけ、泣きなさい。
今夜、部屋に戻ったら、滝のように、
雨のように涙をながして、その涙の
雨に、打たれるといい。
そうすればあしたの朝、つぼみは
きっと、花開くでしょう。雨を吸い
込んだ分だけ強く、たくましく、
可憐な花となって。
わたしはいつでも、これからも、ずっと
ここにいて、待っています。
あなたが成長して、大人になって、私
に会いにきてくれる日を。
もしも偶然どこかで、あなたを見かけ
たなら、うしろからそっと、声を
かけるね。
「また会えたね。二十年前のあたし」
ふり向いたあなたが、満開のお花畑
のような笑顔の持ち主だと嬉しいな。
それからふたりでカフェへいきま
しょうか?
そこで、今度はわたしがあなたに、
語って聞かせましょう?
この二十年間に、わたしがめぐり
会った、恋の物語。話しても、話しは
尽きないと思います。
なぜなら今、あなたの流している涙
に負けないくらい、堰(せき)の切れた
河のように、洪水のように、わたしも涙
を流してきたから。
プラチナPT950 ¥3120
【 5月31日(水)即買値】
-コラムー
<二十年前のあなたへ>
いきは良い良い、帰りはこわい。
時の壁を超え、未来行きのタイム
マシンに乗って、あなたから届いた
お手紙を読んでいる最中に、つい、
そんな歌を口ずさんでしまい
ました。
ごめんなさい。東京駅から、下りの
新幹線に乗り込んだあなたは、うつ
むいて、今にも零れ落ちそうな涙
を、必死で堪えているというのに。
可愛像なあなた。
あんなに期待して、はち切れそうな
思いで胸をいっぱいにして、会いに
いったというのに、とうとう彼に
会えなかったね。会えなかっただけ
じゃなくて・・・・
つらかったね。ずいぶんつらい目に
遭ったね。
東京駅から電車を乗り継いで、彼の
住む街に着いたとき、あなたは駅
構内にある緑色の公衆電話から、
彼に電話をかけてみました。まだ、
携帯電話のない時代でした。
彼の電話は、留守番電話に切り替
わっていたので、あなたは伝言を
残し、駅前の喫茶店に入って、三
十分ほど時間を潰したあと、また、
かけてみました。
彼はまだもどっていなかった。
「もしかしたら、あたしの手紙、
届いていなかったのかな・・・・」
そんな風にも、思ったね、まるで、
自分に言い聞かせるように。
迷わずにいけば、駅から歩いて二十
分くらいのところに、彼のアパート
はありました。
公園のベンチに座って、彼への短い
メモを書き、――東京駅に着いたと
き、もう一度だけ、お電話してみま
す、と未練をたっぷりこめて――
それを手に、ふたたびアパートに
向かいました。
階段の下まで来たとき、あなたは
ふと、近くにあるごみ置き場に
放置されたままの、黒いビニール
袋に目を留めました。
猫かカラスに荒らされて、袋は破れ、
中身が飛び出していました。
「あっ」
と思って、あなたはごみ袋のすぐ
近くまで歩み寄っていきました。
さまざまなごみに混じって、見覚え
のある、うすいピンクの封筒。
ブルーのインクで記された、あなた
の文字。「青山晴彦様」。
それは、あなたがちょうど一週間前
に出した、手紙でした。
好きです。
会いたいです。
会いにいってもいいですか?
懸命に綴ったあなたのへの気持ちが、
あなたの気持ちが、あなたの声が、
まるで悲鳴を上げているように、
耳に飛び込んできました。
可哀想な手紙。
ごみと一緒に、捨てられてしまった、
恋。
ついさっき、あなたは、新幹線の
デッキに備え付けられているごみ
箱のなかに、彼へのメッセージと
ともに、その手紙を捨てましたね。
彼に捨てられた手紙だったけど、
自分で捨てる、ということが、
あなたにとっては、大切だったの
でしょうね。
あなたの自分の手で、恋を埋葬し
たかったのでしょう。
たくさん、泣きなさい。
二十年前のあなた。今、泣きたい
だけ、泣きなさい。
大丈夫。涙を流した分だけ、あなた
は優しい人になれるし、今味わって
いる悲しみの深さと同じだけ深い
幸せを、いつか、味わうことができ
るから。
だから、好きなだけ、泣きなさい。
今夜、部屋に戻ったら、滝のように、
雨のように涙をながして、その涙の
雨に、打たれるといい。
そうすればあしたの朝、つぼみは
きっと、花開くでしょう。雨を吸い
込んだ分だけ強く、たくましく、
可憐な花となって。
わたしはいつでも、これからも、ずっと
ここにいて、待っています。
あなたが成長して、大人になって、私
に会いにきてくれる日を。
もしも偶然どこかで、あなたを見かけ
たなら、うしろからそっと、声を
かけるね。
「また会えたね。二十年前のあたし」
ふり向いたあなたが、満開のお花畑
のような笑顔の持ち主だと嬉しいな。
それからふたりでカフェへいきま
しょうか?
そこで、今度はわたしがあなたに、
語って聞かせましょう?
この二十年間に、わたしがめぐり
会った、恋の物語。話しても、話しは
尽きないと思います。
なぜなら今、あなたの流している涙
に負けないくらい、堰(せき)の切れた
河のように、洪水のように、わたしも涙
を流してきたから。