唇を合わせるだけのキスを
して
別れ話は台本どおり
https://www.youtube.com/watch?v=wnFGY_NToEI
唇を合わせるだけのキスを
して
別れ話は台本どおり
https://www.youtube.com/watch?v=wnFGY_NToEI
青麦畑でかわした
はじめてのくちづけを
忘れてしまいたい
パスポートにはさんでおいた
四葉のクローバー 希望の旅を
忘れてしまいたい
アムステルダムのホテル
カーテンからさしこむ 朝の光を
忘れてしまいたい
はじめての愛だったから
あなたのことを
忘れてしまいたい
みんなまとめて
今すぐ
思い出すために
https:/
会えて本当によかった。
静寂の中を、月明かりに導かれ
て、すいすいと進んでいく一艘の
小舟のような、軽快で明快な物語。
その舟の作る波に乗って、どこま
でもどこまでも、ついていきたく
なるような。
青空より破片あつめてきしごとき
愛語を言えりわれに抱かれて
https:/
恋はきらいだけど、片思いは
好きだという人だっている。
何歳になっても、片思いしか
しない人だっている。
たとえば、パリが好きだから
パリに行かない人だっている。
パリの町について、どんな旅行
者よりもくわしく知っているの
に、
実際に出かけたがらないんだ」
「臆病な人なのね」
と女の子が訊きました。
「かも知れない。でも、そうい
う人は、パリは実在しなと思っ
ている。旅行してたどりつく
のは、どこにでもあるような
ヨーロッパの都市で、
自分の想像力のなかの花の
都と同じじゃないっ てこと
を知っているのだ。
恋についてだって同じこと
だよ。
一人で想っているときは、
幻滅しないですむ、
だけど、それは恋なんかじゃ
ないんだよ」
たった一人のやさしい女よ
二日のあいだ恋をしようよ
広いガラスの自動ドアの向こ
うに、ベンチがいくつか並んで
いた。まるで恋人たちに必要な
孤独を守ろうとするかのように、
ベンチとベンチの間隔は遠く、
離れていた。
ひとつだけ、空いているベンチ
があった。
見えない手に導かれるようにし
て、わたしたちはそこに腰かけた。
忘れな草の水色を滲ませた、夕暮れ
前の空。
ときどき、急に何かを思い出したよ
うに、吹いてくる突風。
ごーっと唸るジェットエンジンの音。
日常から切り離された、どこかよそ
よそしい、緊張を孕んだ空気に包ま
れて、わたしたちはただ、寄り添っ
ていた。
あのひともわたしも、言葉を失って
いた。五分前に会えた。でも五分後
に迫っている。別れを前にして。
目の前で、まるで意を決したように、
一機の旅客機が飛び立とうとしてい
た。
「あれが俺の乗る飛行機だったり
して」
と、あのひとは言って、わたしは
顔を覗き込んだ。泣き顔のように
なってしまっている、わたしの笑
顔を。
「俺けっこうドジだから、そういう
こと、よくあるんだよね」
わたしは黙って、あのひとのそ
ばに座っていた。喉がからから
に渇いていた。けれど、それは
何かを飲んでも、決して癒えな
い渇きだと知っていた。
「よく来てくれたね」
そう言ったあのひと声は、心なし
か、掠れていた。
「会いたいから」
「さっきは、驚かなかったなんて
言ったけど、ほんとはすっごく驚
いてた。心臓が止まりそうなくら
い」
「驚かせてごめんなさい。でもどう
しても会いたくなって」
「俺も。もう、どれだけ会いたいか
ったかというと」
言葉はそこで途切れて、長い両腕を
持てあますようにしながら、ぎこち
なく、それでいて、まるで電流のよ
うに容赦なく、あのひとは、わたし
の躰を抱きしめてくれた。
男の腕だと思った。欲望を感じた。
わたしの欲望だ。心臓が、早鐘を
打ち鳴らしていた。あのひとに、
聞こえてしまうのではないかと
思えるほど、好き、好き、好きと。
恥ずかしいくらいに。
でもその時、わたしの耳はちょうど
あのひとの心臓の真上にあった。
だから、聞こえた。あのひとの
胸の鼓動。それはわたしの鼓動
よりも何倍も烈しく、波打って
いた。
それから、キスがやってくる。
記憶の中ではすでに一万回、
いいえそれ以上、幾度も幾度も
重ねてきた―――たった一度
だけの―――わたしたちのキス。
繰り返し、繰り返し、すり切れる
まで再生しても、決して古びる
ことのない記憶。
思い出すたびに、胸の奥から湧
き出してくる情熱の息吹。それを
感じるたびに、わたしは無条件で、
愛を信じることができる。
わたしの唇に、あのひとの温かな
唇が触れた、その刹那。
それは、わたしの中でもうひとり
のわたしが生まれ、わたしのもう
ひとつの人生が始まった瞬間だった。
そのまつ毛の下の、一見
優しそうに見える瞳が発
する、一見意地悪そうな
視線が、好きだった。
愛してると
言ってほしいなら
いうでも言う
誰の前でも
誰の後でも
私は私
あなたと私でなれるものすべて
他のだれにも似ていない
かけがえのない
私たちそのもの
放課後の長い時間を私はひとり、
学校ではなくて、町のはずれに
ある図書館で過ごすようになっ
ていた。
いつ閉鎖されてもおかしくない
ような、さびれた図書館だった。
日曜の午後、たいてい四時過ぎ
くらいに、西陽がまぶしくなっ
て私が席を移動したあとか、移
動する直前に、彼はふっと姿を
現した。
そうして、まっすぐに、私がそ
れまで座っていた椅子を目指し
て歩いてくる。それからそこに
腰をかけて、ぶあつい本を開く。
「こんにちは、あの・・・・」
ある日、思い切って、私の方か
ら声をかけてみた。
どうしていつも、ここに?私の
座っていた場所に。ここ、まぶ
しくないですか?
訊いてみたかったけれど、そこ
までの勇気はなかった。
声はかけたものの、何も言えな
くてもじもじしていると、彼の
疑問文が飛んできた。
「きみの方こそ、どうしていつ
もこの席に?」
そのあとに言った。目を細めて、
まぶしそうに、私の胸のあたり
に視線をのばして。
「ここ、僕の指定席なんだけど」
そんな風にして、私たちはぼつ
ぼつと会話をするようになり、
日曜ごとに図書館で「デート」
をするようになった。
デートだと思っていたのは、
――名づけていたのも――私だ
け、だったと思うけど。
あの、もしもよかったら、この
本」ある日、思い切って、私の
方から「告白」をしてみた。
好きです、つきあって下さい、
なんて言えるはずもなく、その
代わりに私は、私の気持ちを代弁
してくれているかのような恋愛
小説を選んで、彼に差し出して
みた。