GLP-1 受容体作動薬に運動療法を併用すると、骨密度を保ちつつ体重を効果的に減らすことができる。
JAMA Netw Open 2024; 7: e2416775
要約
重要性: 体重減少に伴う骨量減少が大きな懸念事項である。運動と GLP-1 受容体作動薬 (GLP-1 receptor agonist: GLP-1RA) は、骨量を保ちつつ体重を減らせる可能性がある減量法である。
目的: 運動療法、リラグルチド、または両者の併用介入後の臨床的に重要な部位 (大腿骨頚部、腰椎、橈骨遠位端) における骨密度を変化を調べること。
デザイン: 本研究は、2016 年 8 月から 2019 年 11 月にかけてデンマークのコペンハーゲン大学とHvidovre 病院で実施されたランダム化臨床試験のあらかじめ登録された二次解析である。
対象: 18-65 歳の肥満 (BMI 32-43 kg/m2) で糖尿病のない成人
介入: 8 週間の低カロリー食 (800 kcal/日) 後、参加者は 52 週間、以下の 4 群のいずれかにランダムに割り付けられた。
1. 中〜高強度の運動プログラム (運動単独)
2. リラグルチド 3.0 mg/日 (リラグルチド単独)
3. 運動療法とリラグルチド併用
4. プラセボ
主要評価項目: 主要アウトカムは、低カロリー食前から治療終了までの、大腿骨頚部、腰椎、橈骨遠位端の骨密度 (bone mineral density: BMD) の変化。BMD は二重エネルギーX線吸収測定法 (dual-energy x ray absorptiometry: DXA) により測定され、intention-to-treat で解析された。
結果:
合計 195 人の参加者 (年齢: 42.84 ± 11.87 [平均 ± 標準偏差] 歳、女性 124人 [64%]、男性 71 人 [36%]、BMI 37.00 ± 2.92 [平均 ± 標準偏差])がランダム化され、運動群 48人、リラグルチド群 49人、併用群 49人、プラセボ群 49人に割り付けられた。
研究期間中の総推定平均体重減少は、プラセボ群で 7.03 kg (95%信頼区間, 4.25-9.80 kg)、運動群で 11.19 kg (95%信頼区間, 8.40-13.99 kg)、リラグルチド群で 13.74 kg (95%信頼区間, 11.04-16.44 kg)、併用群で 16.88 kg (95%信頼区間, 14.23-19.54 kg) であった。
図 1. 試験中の体重および体組成の変化
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併用群では、プラセボ群と比較して大腿骨頚部 (平均変化 -0.006 g/cm²; 95%信頼区間, -0.017 to 0.004 g/cm²; P = 0.24) および腰椎 (−0.010 g/cm²; 95%信頼区間, −0.025 to 0.005 g/cm²; P = 0.20) の BMD に変化はなかった。
運動群と比較して、リラグルチド群では大腿骨頚部 (平均変化 -0.013 g/cm²; 95%信頼区間, -0.024 to -0.001 g/cm²; P = 0.03) および腰椎 (平均変化 -0.016 g/cm²; 95% CI, -0.032 to -0.001 g/cm²; P = 0.04) の BMD が減少した。
図 2. 試験中の骨密度の変化
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結論: このランダム化臨床試験では、運動療法と GLP-1RA (リラグルチド) を併用することが、骨密度を維持しつつ最も効果的に体重を減らす介入であった。リラグルチド単独治療は、運動単独と比較して同程度の体重減少にもかかわらず、臨床的に重要な部位での BMD をより減少させた。
これまでに分かっていること:
- 体重減少は一般的に骨密度の低下と骨代謝回転の増加を伴う。
- 運動は骨密度を維持する可能性があるが、大幅な体重減少後の効果は不明だった。
- GLP-1RA の骨への直接的な影響に関する人間のエビデンスは限られている。
この論文が付け加えたこと:
- 運動と GLP-1RA の併用が、最大の体重減少効果を示しながら骨密度を維持することを示した。
- リラグルチド単独は、運動単独と同程度の体重減少を達成したが、大腿骨頚部と腰椎の骨密度をより減少させた。
- 運動単独は、リラグルチド単独と比較して、同程度の体重減少でありながら骨密度を維持した。
将来への示唆:
- 肥満治療において、GLP-1RA と運動の併用が骨の健康を維持しつつ効果的な減量を達成する可能性がある。
- 高齢者や骨粗鬆症リスクの高い患者での検証が必要。
強み:
- ランダム化比較試験デザイン
- 臨床的に重要な部位での骨密度評価
- GLP-1RA と運動の単独および併用効果を評価した初めての研究
限界:
- 18-65 歳の健康な成人に限定されており、高齢者や糖尿病患者への一般化が困難である。
- 骨折リスクの直接的評価がない。
- デンマークでの単一施設研究であり、人種的多様性が限られる。
元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2820308