1966年にスタートし、来年50周年を迎える『笑点』(日本テレビ系)。その大喜利をまとめる司会者の座を巡り、笑えない“跡目争い”が起きている。その理由は2006年から5代目司会者として番組の“顔”を務めてきた桂歌丸(78)の体調問題だ。
今年6月、歌丸は背部褥瘡(床ずれ)で入院。手術は成功して退院したのも束の間、すぐに腸閉塞のため再入院した。昨年も慢性閉塞性肺疾患と肋骨骨折、帯状疱疹などで入退院を繰り返していたこともあり、周囲は不安を募らせていた。8月8日には番組収録に復帰し、11日には東京・国立演芸場の「8月中席」で、約50分間の「怪談乳房榎」を演じる予定で、“復活”を印象付けているものの、その健康状態は万全とはいえないだろう。
番組関係者への取材を進めると、「ポスト歌丸」レースの最新の下馬評が見えてきた。
「歌丸師匠を5代目司会者に指名したのは、先代の5代目・三遊亭円楽さん。次の司会者も歌丸師匠が指名するのが自然で、そうなると師匠がいたく気に入っている6代目・円楽さんが現在のところ最有力になる。円楽さん自身も光栄に思っていて、ヤル気を見せていると聞きます」(笑点スタッフ)
歌丸と円楽の掛け合いは『笑点』の名物だ。円楽が歌丸に「ガイコツ!」「お迎えが近い」と毒を吐くと、返す刀で歌丸が「山田君、円楽さんの座布団、全部持っていきなさい」と余裕綽々で応じる。円楽が無遠慮な毒舌を吐けるのも、それだけ歌丸からの信頼が厚い証拠だろう。
一方で軽妙なトークが持ち味の三遊亭小遊三なら司会者の大役も無難にこなせる、と評価する番組スタッフも少なくない。演芸評論家で作家の吉川潮氏が語る。
「適任は小遊三だと思います。年齢でいえば、歌丸の次は林家木久扇ですが、彼には息子で噺家の木久蔵がいる。いずれ息子に禅譲することも考えているはずで、自分が司会者のポストにいながら息子がメンバーになれば“身内びいき批判”を受ける可能性もある。小遊三と同年齢ながら、息子・王楽がいる三遊亭好楽も事情は同じでしょう。
木久扇と好楽には代替わりを機に息子に“座布団”を譲り、メンバー最年長となる小遊三が司会を務めると収まりがいいと考える人は多いでしょう」
一方でウルトラCも検討されている。初代司会者・立川談志の遺志を甦らせる立川流からの大抜擢だ。実現すれば、談志が司会を降りてから46年ぶりの立川流の復活劇となる。名前が挙がっているのは立川流を背負う志の輔、談春といったスター落語家らだ。
「話題性は十分で新たなファン層も獲得できるので局としては魅力的な人選。ただし番組と疎遠になって久しい立川流の噺家がうまく仕切れるのか。不安のほうが大きく、あくまで“大穴”扱いです」(前出・日テレ関係者)
名前の挙がった当事者たちに訊ねた。談春は「外部の人間が何かしゃべるのは非礼に当たる」と本人が取材を断わり、志の輔の事務所は「そんな(司会者の)話が回ってくることはないでしょう」と話した。本命視された円楽も、事務所を通じ「そのような事実はない」と回答した。
では、対抗の小遊三はどうか。本人を直撃すると、「オファーは届いていないよ(笑い)。歌丸師匠が死んでもないのに次は誰だなんて、そんな不謹慎なことは口が裂けてもいえないでしょ!」と苦笑いした。
日テレは「歌丸師匠を中心にさらに皆様に支持される『笑点』を制作していく」(広報部)と回答するのみ。
自身もかつて大喜利メンバーで、現在は落語協会・最高顧問の鈴々舎馬風(れいれいしゃ・ばふう)はこう話す。
「やっぱり『笑点』は桂歌丸が司会を務めないとまだまだダメだと思うね。だって“歌さん”ほど機転が利いて、言葉に力を持った人間は現メンバーの中にもいないんだもの。
候補に挙がっている面々も“自分のほうがうまく司会をやれる”なんて思っている奴はいないはず。国民的番組なんだから、本当は後継者選びはちゃんとしなくちゃいけないんだけどねぇ……」
動き始めた“歌丸の座布団”を巡る争奪戦。歌丸から「ハイ、オレの座布団あげて!」の声が掛かるのは誰か。