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storytellerです。本当に短い物語を書いたり、思い出話や日常の諸々について綴ります。

『旅する力 深夜特急ノート』沢木耕太郎

2024-09-02 06:05:29 | 読書

バックパッカーに愛された沢木耕太郎の『深夜特急』は、どのようにして誕生したか。著者にとって旅とは何なのか。旅と真摯に向き合い思うことを綴ったエッセイが非常に面白く、一気読みしてしまった一冊。

特に印象に残った箇所を書き出してみる。

著者は小学校3年のとき初めて一人で電車に乗って小さな旅をした。それが「すべての始まりだったような気がする。そして、たぶん、このときにあの『旅という病』に冒されることになったのだ」(21ページ)としている。

26歳のとき、デリーからロンドンまで乗り合いバスで旅をした一年間(これが後に『深夜特急』として本になる)について、彼はこう記している。

空路ではなく「地続きでアジアからヨーロッパに向かったことで、地球の大きさを体感できるようになった。」(183ページ)そして、この長旅によって「自分はどこでも生きていけるという自信」を得たと同時に、「大切なものを失わせることにもなった。自分はどこでも生きていくことができるという思いは、どこにいてもここは仮の場所なのではないかという意識を生むことになってしまったのだ。」(183ページ)

一年間の長旅を新聞に連載することになり、題名を何にするか決めるとき、数年前に見た映画『ミッドナイト・エクスプレス』が強烈な印象として残っていたので、そこから『深夜特急』というタイトルが浮かんだのだという。『ミッドナイト・エクスプレス』が何故著者にとって忘れられない映画なのか。それは、一つ間違えれば、著者もこの映画の主人公のように麻薬所持で逮捕され獄中生活を送ったかもしれない、というぞっとする話。当時のバックパッカーの中には、きっとこの危ない橋を渡りかけた人も少なからずいたに違いない。

また、著者は旅の適齢期についてこう語る。彼にとっては『深夜特急』の旅をした26歳が旅の適齢期であり、それは「そのくらいの年齢のときがちょうど旅に必要な経験と未経験を二つ併せ持っているのではないかという気がする」(237ぺージ)からだという。未経験も重要な財産だという理由は、「未経験ということ、経験していないということは、新しいことに遭遇して興奮し、感動できるということであるからだ。」(237ページ)

旅の醍醐味を描写した箇所には、強く共感する。

「旅は人を変える。しかし変わらない人というのも間違いなくいる。旅がその人を変えないということは、旅に対するその人の対応の仕方の問題なのだろうと思う。人が変わることが出来る機会というのが人生のうちにそう何度もあるわけではない。だからやはり、旅には出ていった方がいい。危険はいっぱいあるけれど、困難はいっぱいあるけれど、やはり出ていった方がいい。いろいろなところに行き、いろいろなことを経験した方がいい、と私は思うのだ。」(253ページ)

タイトルになっている「旅する力」について、著者はこう書いている。自分には旅する力の一部である「食べる力」「(酒を)呑む力」「(人の話を)聞く力」「(旅先で分からないことは人に)訊く力」はあったが、語学力、旅先の歴史や文化についての教養、政治経済の知識、そして存在としての力が不足していた、と。「旅は自分の力の不足を教えてくれる。比喩的に言えば、自分の背丈を示してくれるのだ。」(270ページ)

読み終えて、共感できる部分があまりにも多くて驚いたが、おそらくあの頃のバックパッカーは(わたしは著者より一回り下だが)このように感じている人が大半だったのかもしれない。

わたしは、22歳~26歳の間、熱に浮かされたようにいろいろなところを一人で旅した。何かに飢えていたような、常に交感神経が優位であるような感覚があった。著者のように、どこでも生きていけそうな気がするけれど、どこへ行っても仮の場所という感じもしていた。自分には遊牧民の血が流れているに違いない、とすら思った(笑)。

さすがに男の人ほど無茶はしなかった(女であるというだけで男より危険な目にあう可能性が高いから)が、慎重になりながらも冒険もしたし、危険を察知し、回避する能力が身についたのも、一人旅のおかげだったとわたしは思っている。

わたしの旅の適齢期も26歳だったのかもしれない。偶然にも著者と同じように、26歳のとき格安航空券を使って香港、バンコク経由で目的地のデリーまで飛んだ。そして、27歳以降は大胆な一人旅はしなくなった。

旅によって自分が変わったことも実感している。まさに、若いうちにいろいろなところへ行って、いろいろなことを経験したことが人生の宝物になっている。

適齢期を過ぎても、もちろん旅は出来る。今の年齢に合った形で。一人旅、あるいは気の合う人との二人旅。命尽きるまで何らかの旅を続けるんだろうな、と思っている。



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11 コメント

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Unknown (ponkd7171)
2024-09-02 08:03:57
storytellerさーん
おはようございます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

旅する力
近頃思うのは
だんだんと、死出に向かうお年頃になって行く今、意外と力が漲ってきて、さあ、次はどんな風に生きて、どんな日が待ち構えているのかな?なんて、最近、休まず働いていたら、訪れる日々が楽しくなってきました。
これもまた、旅なのかなあ?なんて、storytellerさんの深良いお話しで、考えさせられました!

いろんな旅をまだまだ経験したいですね!
storytellerさん❣️
ひいこ🥰
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旅の形 (storyteller)
2024-09-02 12:35:56
ひいこさーん、こんにちは!

旅の形もさまざまですね。
旅によって自分が変わる。それであれば、
誰かと(あるいは一人で)どこかへ行くだけでなく、
何かをする、何かが起きることによって自分が変わることも、
旅の一つなのかも。
な~んて人生哲学を気取ってみました 笑。
毎日毎日を丁寧に生き、これから訪れる時間を楽しみにしている
ひいこさんを、素敵な旅が待っていることでしょう!

コメントありがとうございました♪
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Unknown (ally)
2024-09-02 13:32:18
こんにちは。
旅が人を変えるのは、その人がどういう思いで旅と向き合うか、ということなのかもしれませんね。漠然と旅をしても「楽しかった」「つまらなかった」で終わってしまいそうですもんね。
私は、実際の旅も続けておりますが、心の旅をもう長年続けているような気がします。きっと目的地なんてないんだろうな、と思います。

遊牧民の生まれ変わりですか?なら私もそうかも。(≧∀≦)
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Unknown (fairy333)
2024-09-02 15:00:41
storytellerさん

こんにちは
私は18歳までは、一人では何処にも行けなく、何もできない少女でした。
それが、18歳の女子大生の時、友達に東京に連れてってもらい、彼女に誘導されるまま何処にいるのかも分からずおのぼりさんまるだしでした。

それが突然、彼女に急用ができてしまい、「ここから一人で帰って!」と言われてしまったのです。
東京なんか右も左もわからず、突然の事にパニックになりました。
買い物をしたので、帰りの新幹線代とプラスアルファしか現金もなくタクシーにも乗れず路頭に迷いました。

もう半べそかきながら、たくさんの人に聞いて、なんとかゴールの東京駅にたどり着きました。
まるで、小さな子供の「初めてのお使い大冒険」のようでした。
新幹線にも初めて一人で乗って、なんとかquiet hillに着いた時の安堵感は忘れられません。

ところが、そんな気持ちがあっという間に達成感に変わったのです!
為せば成る!  やればできるじゃん!
冒険って、こんなに楽しいものなのかと、この事が私の人生を変えました。
それ以来、一人で行動する事の楽しさを覚え、一人行動が大好きになってしまいましたよ。
ついに、人生の旅まで独りで送ることになっちゃったけど(泣)

だから、この東京置き去りの旅が、私の人生で一番思い出に残る旅でした。
また冒険したいな〜

先日、書き忘れたことが...
グランドキャニオンから下を見下ろすとコロラド川が流れてるのが見えたけど、本当に赤かった。
赤い河の谷間♪は本当だった。

長々失礼しました😀
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◇今、旅する力とは◇ (旅人)
2024-09-02 15:54:38
私も「深夜特急」の最終便ていうか総集編のこの本、10年ほど前に読みましたよ。(沢木の本は他に、旅での写真のエッセイ「旅の窓」もブログ書きには参考になった。) 旅⇒自分⇒人生の連関を考える、考えてしまう人には示唆いっぱいの本ですね。

私が20代初めの1990年代は、まだ小田実の「何でも見てやろう」がバイブルでした。で、大学3年の時、今しかもうチャンスはないだろうと思って、パリ着・出発の航空便と電車自由のユーレイルパスと小さなバックパック一つだけで、ユースホステルを泊まり歩いて、欧州を40日間回りました。ドイツの住宅街でおばあちゃんが「何人?」と尋ねるので「ヤーパン」と応えたら、家に戻ってりんご1個をボクにくれたり。やはり旧同盟国だったからでしょうか、あまりにみすぼらしかったからでしょうか(笑)。コペンハーゲンへ向かう列車で一緒になった同じ年ごろの日本人の女の子二人づれから弟から頼まれているとかで、コペンで代わりに(しょうがなく)ボクがポルノ写真雑誌を買ってきたりして。アレ税関通ったのかな(笑)。若いだけに色々思い出深い旅になりました。

あ、また自分だけの話しになってしまいましたね。沢木の本をもう一度読み直してみるかな。一番の関心は、人生の旅が終わりに近づく中で、実際のフィジカルな旅はどうありえるか、ということでしょう。で、4歳年上の彼が、『今』の旅を最新どう考えているか興味がありますね。いや、自分で考えるしかないだろうな。
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Unknown (旅人)
2024-09-02 15:58:00
あ、間違えた。「私が20代初めの1990年代は」ではなくて「1970年代」でした(笑)。
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心の旅 (storyteller)
2024-09-02 21:07:38
ally さんへ

こんばんは。

心の旅ですか。詩的だなあ。どんな旅なのでしょう。
目的地もなく心の赴くままに。
なんて自由でなんて遊牧民的でしょう!
今頃allyさんの心はどのあたりを漂っているのかしら。
想像するだけでワクワクします。

コメントありがとうございました♪
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達成感 (storyteller)
2024-09-02 21:17:13
fairyさんへ

こんばんは。
まあ、なんとハラハラドキドキの経験でしたね!
深窓の令嬢を突き放したお友達の荒療治が功をなしたわけで、
ここはお友達に感謝!でしょうか 笑。

達成感ってとても大切な感覚ですよね。
これがあるから人生が楽しい。
逆に、達成感がなければ張りが出ない。
そして、冒険の楽しさも味をしめたらやめられない!
そんな大げさなことでなくても、ちょっとした冒険でも
わくわくしますよね。
まったく知らない街を一人で歩く。道に迷ったらその時はその時。
そんな感じで、ハプニングを楽しむのも旅の面白さ。

さて、fairyさんの次なる目的地はどこでしょう?
いつかブログ記事にしてくださいね。楽しみに待ってます!

コロラド川って赤いんですか!?
そういえば、オクラホマの川にも赤いのがありました。
底が赤土で出来ているから、と聞いたことがあります。

コメントありがとうございました♪
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Unknown (storyteller)
2024-09-02 21:25:15
旅人 さんへ

こんばんは。

え!?旅人さんってわたしより年下だったの!?!?と、
おおいに焦ったら、20代は1970年代だった、と訂正があり、
ほっとしました 苦笑。
沢木耕太郎の年マイナス4ですね、了解。

小田実の「何でも見てやろう」に感化された人も多いですね。
わたしの友人もその一人です。

欧州40日間一人旅!楽しそうですね~、ハプニングも
たくさんあったことでしょうね 笑。
もっといろいろお話聞かせていただきたいです。
ぜひブログ記事にしてくださ~い!

コペンハーゲンはわたしも行きました。
とてもきれいな街で大好きになりました。懐かしいな~。

沢木耕太郎といえば、2022年に出た
「天路の旅人」を読んでみたいです。
図書館にはないので、購入しようかな。

コメントありがとうございました♪
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Unknown (アンティークマン)
2024-09-03 11:07:44
深夜特急 懐かしかったです。ありがとうございます。
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