あなたのそばにいるために

愛するより愛されたい。

未熟で身勝手な恋愛ばかりをしていたわたしが、

この人を愛したい、と本気で思える人と出会った。

3度目の転職先にその人はいた。

わたしが配属された課の課長。

自分軸を持っていて、知的で、柔軟な考え方をして、

物腰柔らかで人当たりのよい、とても素敵な人。

 

年齢的には結婚して子どもがいてもおかしくないけれど、

奥さんとか子どものことが話題に上ったことは一度もない。

まさか独身？それならわたしにもチャンスある？なんて

思っていたら、同僚から衝撃の事実を知らされた。

彼は、5年前に奥様と死別したという。

そうだったのか・・・。

 

そのことを知ったことで、かえって彼への想いが募る。

奥様を亡くした悲しみを少しでも和らげ、

心にあいた穴を少しでも小さくして、

そばでそっと支え、

わたしの愛で彼を包み込んであげたい。

そんな大それた願いを抱くようになっていった。

 

一年が経ち、いくつかのプロジェクトを通じて

彼との距離が少し縮まったと思えたある日、

思い切って彼に手紙を書いた。

電子メールではなく、むかしながらのラブレターを。

 

「Cさん（彼のこと）を心から尊敬し、お慕いしています。

亡くなられた奥様の代わりになるつもりはありませんし、

なれないことも十分承知しています。

それでも、Cさんの心の片隅に、わたしの居場所を作っていただくことは

可能でしょうか。」

 

数日後、彼から丁寧な返事が届いた。

「Yさん（わたしのこと）の気持ちはとても嬉しいです。

でも、僕にとって愛する女性はむかしも今も、そしてこれからも、

亡くなった妻ただ一人だけ、ということを正直に伝えなければと思います。

結婚の誓いに『死が二人を分かつまで』というものがあるけれど、

僕は死さえ二人を分かつことはできないと感じるのです。

申し訳ない、こんな理由では納得してもらえないかもしれませんね。

今まで言葉にしたことはありませんでしたが、課長としてYさんに感謝しています。

Yさんの快活さがうちの課の雰囲気を良くしてくれているな、と日々実感します。

お世辞ではなく、本当にそう思っていることを知ってほしくて。」

 

ただただ圧倒された。彼の奥様への揺るぎない愛が深すぎて。

ああ、こういう人もいるんだなあ、って。

わたしの人生の中で、一番痛手の大きい、それでも素敵な思い出となった失恋。

だって、本当にわたしは彼のことを愛していたのだもの。この一年間。

自分の愛が報われるかどうかは二の次。

だから、一晩泣いたらすっきりして、清々しい気持ちになった。

 

それで、わたしは再度、手紙を書いた。

湿っぽくならないよう、わたしなりにユーモアを込めて。

 

「Cさんの心の内を知ることができて、本当に良かったです。

課長と部下という関係なので、お返事を書く際お気を使われたと

思います。かえってご面倒おかけしてすみませんでした。

大丈夫、わたし立ち直るの早いんですよ。

これからも今までと変わらず、Cさんの部下として働き続けたいと思います。

ただ、一つだけお願いしてもいいですか。

わたしの作った四肢択一問題に答えていただきたいのです。

わたしが失恋を乗り越えるために必要なことなので、

リクエストに応えていただけると嬉しいです。」

 

「では、問題です。

もしわたしが人間以外の存在になれるとしたら、どれが良いと思いますか。

次の四つの選択肢の中から一つ選んでください。

 

１．小鳥：心を癒す美しい歌をあなたのために歌います。

２．サンドバッグ：あなたの不満や怒りを全て受け止めます！

３．コーヒーカップ：コーヒーの美味しさをさらに引き立たせます。

４．枕：あなたに安眠と素敵な夢を毎晩お届けします。」

 

さて、Cさんが選んだ答えは？