Set me free!!!

storytellerです。本当に短い物語を書いたり、思い出話や日常の諸々について綴ります。

『バリ山行』松永K三蔵

2025-02-05 08:20:14 | 読書

読書が趣味のわたしは、ほぼ毎日何かしら本を読んでいる。それでもここ数か月は、読後感をブログに書こうと思えるほどの本に出会えず、なんとなくだらだらといろんな本を読んでいる状態であった。

が!

出会えた、やっと!!!

松永K三蔵の『バリ山行』に。

昨年末、近くの図書館に予約を入れていたのが、やっと借りられることになり、一気に読み終えた。

まず、文章のリズムがとても良い。わたしの好みにぴったり合うのだ。一つの文の長さ、使われている語句、そういったものが、わたしをぐっと惹きつける。お気に入りの歌に合わせて体が動くような、そんな感じの。サーファーだったら、最高の波に乗って、体が波と一体になったような。文章に魅了された。それが、この小説の第一印象。

そして、職場の同僚と低山歩きをするようになって、主人公である波多(はた)が少しずつ変わっていくところも興味深い。灰色から、深緑、そして鮮やかな緑へと、主人公のイメージが変化していく。山との出会いによって、頑なだった彼の心が少しずつ柔らかくなり、人とのつながりにも意味を見出すようになったころ、強烈な個性の持ち主である妻鹿(めが)が彼の世界に入って来る。

この出会いが、波多の人生を揺さぶり、渦に巻き込み、生死の境をさまようような恐怖の体験をさせ、そして、波多は覚醒する。

これ以上書いてしまってはこれから読もうとしている人に申し訳ないので、この辺にしておくが、妻鹿に感化され、波多が初めてバリ山行に挑んだ場面は、まるでホラー映画だ。彼の恐怖に引きつった顔がアップで映し出され、恐ろしい効果音が聞こえてくるような臨場感に溢れている。対照的に、妻鹿は波多の不安などおかまいなしに嬉々として道なき道を進んでいく。読んでいるわたしの心臓の鼓動も早くなり、頼むからこれ以上波多を危ない目に遭わせないで、と祈る思いでページをめくった。

正直、わたしは波多のような人物は好きではない。内向きで優柔不断で、自分の思ったことを口に出来ない。なかなか人にノーと言えない。そういう人を見ているといらいらしてしまうのだが、その波多が妻鹿とバリ山行をしたことで、殻を破り、今までになかった心境に到達する。その姿に、心を動かされた。

ラストは、凄い。さすが。これにはまいった。うわあ、という感じだ。もう、この小説、好きすぎる。

ところで、バリ山行の「バリ」って、てっきりバリ島のことだと思っていたわたし。バリには若い頃一度訪れたが、確かに低山があったなあ、あそこを歩いたら楽しそうかも、なんてのんきなことを考えながら読み始めたら、大いなる勘違いに気づく。「バリ」とは「バリエーションルート」、つまり通常の登山道ではないところを行くのだそうだ。

ああ、それならわたし、ハワイにいたとき一度だけやったことがある。意図したのではなく、通常の登山道が見つけられず、なんとなく歩けそうなところを進んだらとんでもないところに出た、という経験があった。この話はいずれまた機会があったらブログに書きたいと思っている。

山好きの人はもちろん、登山をしない人にもお勧めしたい一冊だ。人生について再考するきっかけを掴めるはずだから。

 



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18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アヤメさんへ (storyteller)
2025-02-08 12:08:29
>ayame202001 さんへ

こんにちは。これから読み始められるのですね!
登山初心者なので、バリがバリエーションの略とはまったく想像できず 笑。
同じ小説でも読み手によって感想はさまざま、そこがまた
面白いと思います。
バリ好きアヤメさんの読後感、ぜひ聞きたいです。

コメントありがとうございました♪
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Unknown (ayame202001)
2025-02-08 08:00:17
これ借りましたー今から読むところです😌
バリ島だと思ってたのは面白いですね(笑)
私はバリルートを歩くのが楽しいので今年は極めて行きたいのです🤩
そうかそんなに面白いのは楽しみです📕
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ウッシーさんへ (storyteller)
2025-02-06 19:53:48
>ushi_7 さんへ

こんばんは。
はい、作者との相性はありますね!
みんなが良いという作家でも、どうものめりこめなかったり、
その逆もあり。
この小説は文章のリズムが小気味よく、ノリノリな感じで
読めました。もちろん、内容は決して軽いものではなく、
むしろう~んと考えさせられるものでしたが。

もともと海派だったわたしは、山に関しては初心者なので、
無理せずぼちぼち低山のみを、という感じです。
ハワイで一度意図せずバリ山行をやってしまい、
ものすごく苦しい思いをしたので、
無茶な山歩きはもうしたくないです 苦笑。

コメントありがとうございました♪
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Unknown (ushi_7)
2025-02-06 12:45:00
storytellerさん こんにちは🌞

読書ですか
素晴らしい趣味ですね
右脳が弱い理系男子は読書苦手
でも…
作者との相性ってありますよね
合致すると引き込まれていく
本の不思議な魅力ですね

バリエーションルートかぁ~
自分も冒険好きだし
好奇心の塊だから
「バリ山行」
どんな展開なのか興味津々

バリ道を好んで歩く輩に
ついては賛否あるけど…
趣味なんて自己満ですからね
storytellerさん
あんまり取り憑かれないように
山は怖いっすよ~(笑)
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旅人さんへ (storyteller)
2025-02-06 06:23:38
>faraway 旅人 さんへ

おはようございます。
いつものように、一家言を持つ旅人さんらしいコメントですが(苦笑)、
小説を読まずに「反社会的」と決めつけるのは
好ましくありませんね~。
山行哲学も人それぞれ、でも、この小説はそんな単純なものでは
ありません。もっと奥深いものです。
とわたしは力説したいです!!
読まない人にはラストも教えてあげません(笑)。
ラストだけ知って曲解されたら著者に失礼だもの。
ということで悪しからず。

話変わって、秩父の山レポート、楽しみです!
え?秩父?栃木の岩船山方面に行ったのではないのですか?

コメントありがとうございました♪
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◇山行とは◇ (faraway 旅人)
2025-02-05 21:42:24
パリ山行? 近くが良く見えない私はバリをパリと勘違い。パリに山なんかあったかな??モンマルトルは字句どおりにはマルトル山だけど、アホな(笑)。じゃあ情念の源、バリ島かと、まさか。
バリエーションルートなんですね。私のYAMAP・GPSでは、破線で表わされるルート(これは私も歩くことはある)、更には踏み跡が僅かに残る径。しかしこんなルート行ったらいけませんよ。遭難します。その魅力をあげつらうならこの小説は反社会的です(笑)。思うに、危険な山行を書いた小説ならいくらでもありますが、会社人生と山行を比較したことが目新しく芥川賞になったのかな。

私にとっては、会社人生は終わりましたから、純粋に山行はフリーの自分にとっては何?と哲学しながら登っています(笑)。しかし、通常の登山コースはお仕着せコースで、自分独自のバリコースを歩くのがいいのだとは間違っても思いません。私の結論は、山行は非日常性の最たるもの、これで充分かな。

この小説のラストが凄いのですね。他の方の読後感では「ラスト一行に痺れました」と書いていましたし。ちょっと私だけにラストを教えてくれませんか(笑)。

おっと、こんなコメントを書いていたら、自分の山行レポができなくなる(笑)。無事登り終えてます。@秩父
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オトシガミさんへ (storyteller)
2025-02-05 20:02:32
>xxkaminosizukuxx さんへ

あら、お優しい 笑。
ちょっと下ということですね、了解。

お姉さんは最強!いいんですよ~、
ここだけの話、いつでもOK!!
人の恋話聞くの大好きなので 笑。
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Unknown (xxkaminosizukuxx)
2025-02-05 19:57:42
storytellerさんの状況を考慮すれば同じ位かちょっと下(笑)
(ΦωΦ)フフッ

私事ですが、その気が有ればとっくに叶っている筈なんです!
ただ掛け合いが面白いから、私に合わせてくれていると思いますね😁
ここだけの話ですよー
返信する
オトシガミさんへ (storyteller)
2025-02-05 19:38:07
>xxkaminosizukuxx さんへ
>(⊙ꇴ⊙)おぉー♡... への返信

え~!?本当に~!?
それって、今年で一番驚いた話かも。
@@@@@@
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Unknown (xxkaminosizukuxx)
2025-02-05 13:33:27
(⊙ꇴ⊙)おぉー♡
storytellerさんをいただきましたー!!
( ゚Д゚ノノ☆パチパチパチパチ

ですが一つ語弊があります

歳は大して変わらないですね~

私10歳若く見られがちですから😜
返信する
オトシガミさんへ (storyteller)
2025-02-05 12:56:40
>xxkaminosizukuxx さんへ

そうかあ。
恋は実らなくても、友情は大切にしなくては!
わたしよりうんと年下の男友達として、これからもよろしくね~笑。
返信する
Unknown (xxkaminosizukuxx)
2025-02-05 12:53:51
えー、友達も諦めちゃうんぜすかー?💦
私イヤだなぁー
だけど、こちらからはモケケ先生を応援して行きますよー😁✌️
返信する
fairyさんへ (storyteller)
2025-02-05 12:38:55
>fairy333 さんへ

こんにちは~。
さすが山ガール!!「バリ」をご存知だったのですね~。
獣道って、すごく迫力ありそう、でも怖い感じもする。
そのリーダーさん、勇気がありますね。
きっとその山にとても詳しく、方向感覚も優れた人なのでしょうね。

わたしも「バリ山行」映画化に大賛成です!
だれか映画化してくれないかなあ。

コメントありがとうございました♪
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オトシガミさんへ (storyteller)
2025-02-05 12:35:38
>xxkaminosizukuxx さんへ

やばっ!
それって、まさにわたしの好みの男性像ではないですか~!?
だめだめ、お姉さんには絶対かなわないので、潔く諦めます。(涙)

コメントありがとうございました♪
返信する
けいこさんへ (storyteller)
2025-02-05 12:33:05
>keiko(けいこ) さんへ

やっぱり、バリ島を思い浮かべちゃいますよね~。
棚田も美しいですね!

>主人公が あまり好きな感じじゃないと読み進めるのが無理になる私です。

わかります!わたしもそれで挫折した小説、いくつかありました。
でも、この小説は文章のリズムが小気味よいのと、
山の描写が素晴らしく、内容にぐっと引き込まれるので、
主人公に感情移入できずとも十分楽しめました。

コメントありがとうございました♪
返信する
Unknown (fairy333)
2025-02-05 11:47:39
storytellerさん

こんにちは
storytellerさんの心をこんなにも震わせ、まいらせた作者に感服します。
文学には全然ダメな私、きっと数ページでgive upだと思います。
だから映画化してくれたら観にいきたいな。

バリとは登山用語ですね。
ルートではない道を自分達で開拓しながら進んで行く、目的地に到達できた時はより大きな達成感を味わえそうだ。
一度だけ獣道を歩いて下山した事あります。
まあリーダーについて行っただけですけど、もう1度きりで良いてす。

今日も風が強く寒いですね。
風邪に気おつけてね〜
返信する
Unknown (xxkaminosizukuxx)
2025-02-05 10:19:26
;ΦωΦ)ヤバいな...


私は優柔不断不断では無く

物事を純粋に受け入れ

人物を良く観察し

ストレートに物申す


モケケ先生ぇー可愛いでぇーーーす!
( 」゚Д゚)」

フッ
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Unknown (keiko(けいこ))
2025-02-05 09:02:00
私も!バリ島の、例えばアグン山⛰️のことあしら?と。

バリ島 訪れたときの景色を思い浮かべました(でも、山より棚田の風景)

主人公が あまり好きな感じじゃないと読み進めるのが無理になる私です。
でも それだけ読み応えある本だと言うことですね。
ご紹介ありがとうございました😊
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