部屋へ、ボクの部屋へ…… コーイチの口元が自然とゆるむ。二人っきりで、ボクの部屋で…… コーイチの頬が自然と赤らむ。……待てよ! コーイチは部屋の状態を思い返した。
布団は敷きっぱなし、入口の古新聞の束は崩れっぱなし、何日か前に食べたインスタントラーメンの鍋と丼はまだ台所に置きっぱなし、ジャージは脱ぎっぱなし、洗濯物はたたまずに重ねっぱなし…… 覚えていないが、もっとあれこれ散らかっているかもしれない…… まずい! まずいぞ! ロマンチックに行きたいのに、これじゃ、ぶち壊し間違いなしだ。
「ねえ、ダメなの?」
京子が甘えるような声で言った。上目遣いの表情が何とも言えずに可愛い。
「ダメなもんか! ダメなわけ無いじゃないか! ただ……」
「ただ?」
「ただ、ちょっと部屋の中を片付ける時間が欲しいんだ。何しろ、朝、そのスミ子のせいで(スミ子はからだを激しく揺らして抗議した。と言うか、ノート全体がばさばさと揺れた)、ちょっとごちゃごちゃしたもんだから」
「いいわ、分かった。じゃ、ここで待ってるわ」
京子は素直に言った。コーイチの心にまた不安がよぎった。
「居なくならないよね……」コーイチは言った。声が自分で思っているよりも真剣で必死だった。「ここで待っていてくれるよね?」
「もちろんよ。魔女、嘘つかない」京子がおどけたように言った。しかし、すぐに真顔になった。「良い思い出にしたいのは、私も同じだもの……」
コーイチの胸がドキンと高鳴った。京子の瞳も潤んでいた。二人の顔が自然と近付く……
「おーい! 誰か開けてくれえ! 部屋の中に閉じ込められてしまったあ!」
南部がドンドンと内側からドアを叩き、大声で叫び出した。……まったく! コーイチはいまいましそうに南部の部屋のドアを見つめた。京子はこわい顔でドアを見つめていた。その眼が妖しく光った。
「おーい! おーい、お…… ぐうううう…… ぐうううう……」
南部の叫びが、いびきに変わった。ドシンドサッと大きな音がした。ドアにぶつかり三和土に倒れ込んだようだった。
「これで、邪魔者は居なくなったわね……」
京子が微笑みながらささやいた。
「そ、そうだね……」
コーイチの喉がゴクリと音を立てた。京子がすっと顔を近付けて来て、消え入りそうな声で言った。
「さ、早くして……」
「えっ?」コーイチの胸と喉とが同時に大きく鳴った。「えええっ?」
「どうしたのよ! お部屋の片付けでしょ?」
京子はくすくすと笑い出した。
「あ、ああ…… そうだったね」
コーイチはがっかりした顔を見られないように京子に背を向け、鍵を取り出して自分の部屋のドアノブに差し込んだ。鍵を回し、ドアノブを回す。ドアは開いた。ノブを握ったまま振り返った。京子はにっこりと可愛い笑顔を浮かべながら立っていた。
「すぐに終わるから、絶対そこに居てよ!」
「分かってるわよ。心配しないで」
コーイチはうなずいて、部屋に入った。
つづく
布団は敷きっぱなし、入口の古新聞の束は崩れっぱなし、何日か前に食べたインスタントラーメンの鍋と丼はまだ台所に置きっぱなし、ジャージは脱ぎっぱなし、洗濯物はたたまずに重ねっぱなし…… 覚えていないが、もっとあれこれ散らかっているかもしれない…… まずい! まずいぞ! ロマンチックに行きたいのに、これじゃ、ぶち壊し間違いなしだ。
「ねえ、ダメなの?」
京子が甘えるような声で言った。上目遣いの表情が何とも言えずに可愛い。
「ダメなもんか! ダメなわけ無いじゃないか! ただ……」
「ただ?」
「ただ、ちょっと部屋の中を片付ける時間が欲しいんだ。何しろ、朝、そのスミ子のせいで(スミ子はからだを激しく揺らして抗議した。と言うか、ノート全体がばさばさと揺れた)、ちょっとごちゃごちゃしたもんだから」
「いいわ、分かった。じゃ、ここで待ってるわ」
京子は素直に言った。コーイチの心にまた不安がよぎった。
「居なくならないよね……」コーイチは言った。声が自分で思っているよりも真剣で必死だった。「ここで待っていてくれるよね?」
「もちろんよ。魔女、嘘つかない」京子がおどけたように言った。しかし、すぐに真顔になった。「良い思い出にしたいのは、私も同じだもの……」
コーイチの胸がドキンと高鳴った。京子の瞳も潤んでいた。二人の顔が自然と近付く……
「おーい! 誰か開けてくれえ! 部屋の中に閉じ込められてしまったあ!」
南部がドンドンと内側からドアを叩き、大声で叫び出した。……まったく! コーイチはいまいましそうに南部の部屋のドアを見つめた。京子はこわい顔でドアを見つめていた。その眼が妖しく光った。
「おーい! おーい、お…… ぐうううう…… ぐうううう……」
南部の叫びが、いびきに変わった。ドシンドサッと大きな音がした。ドアにぶつかり三和土に倒れ込んだようだった。
「これで、邪魔者は居なくなったわね……」
京子が微笑みながらささやいた。
「そ、そうだね……」
コーイチの喉がゴクリと音を立てた。京子がすっと顔を近付けて来て、消え入りそうな声で言った。
「さ、早くして……」
「えっ?」コーイチの胸と喉とが同時に大きく鳴った。「えええっ?」
「どうしたのよ! お部屋の片付けでしょ?」
京子はくすくすと笑い出した。
「あ、ああ…… そうだったね」
コーイチはがっかりした顔を見られないように京子に背を向け、鍵を取り出して自分の部屋のドアノブに差し込んだ。鍵を回し、ドアノブを回す。ドアは開いた。ノブを握ったまま振り返った。京子はにっこりと可愛い笑顔を浮かべながら立っていた。
「すぐに終わるから、絶対そこに居てよ!」
「分かってるわよ。心配しないで」
コーイチはうなずいて、部屋に入った。
つづく
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