お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

続々 診療所日記

2020年10月31日 | 怪談
 ○月×日

 河童が胡瓜を片手にやってきた。
「先生、いやはや参りましたよ……」河童は手にした胡瓜をバリバリと齧る。「……最近の胡瓜は農薬臭いのが多くていけません」
「そうですか、大変ですね」
「頭の皿に掛ける水もね……」河童は頭の皿を指さす。「結構汚いのが多くてねぇ……」
「環境破壊は進んでいますからね」わたしは気の毒に思った。「お気の毒ですね……」
「いや、先生、それは良いんですよ」河童は立ち上がって、きっぱりと言った。「我々も環境に適応していかなければなりませんからね」
「では、何が問題なんですか?」
「我々の中で二派に分かれてしまい、紛争が起こり始めていましてね……」河童は溜め息をついた。「胡瓜も水も申し分ない所に住む河童を『田舎河童』と呼んで、汚い環境に住む河童を『都会河童』と呼んで、互いに罵り合っているんですよ」
「まあ、私たち人間にもそんな所がありますよ」
「そうですか…… 人間化してしまうなんて、我々の行く末も、人間並みにおしまいでしょうなぁ……」
 私は返事が出来なかった。


○月×日

 天の邪鬼がにこにこしながらやってきた。
「おや、その表情は……」私は言った。「相当、機嫌が悪そうですね」
「まあ、ね」天の邪鬼な不機嫌な顔になった。「まあ、先生だから本音を晒しますがね。全く、今のヤツらときたら……」
「どうしました? 騙されなくなったとか?」
「いや、そんなんじゃないんですよ……」天の邪鬼はふうっと深いため息をついた。「オレが声をかけても無関心なんです。『なんなんだこいつ?』って顔や、オレが話しかけても『なんか言ってるぞ』みたいな顔をして行っちまうんですよ」
「まあ、今の人は自分の事で精一杯ですからね」
「でもね、先生。オレは相手と話ができなきゃ、何にもできないんですよ! これは明らかに、死活問題で……」
 そう言うと天の邪鬼は声を出して笑った。
 大泣きしてるんだな…… 私はその表情からそう思った。


○月×日

 雪女がやって来た。白い着物から覗く襟足や胸元が何とも色っぽい。
「どうしました?」わたしはソファを勧めながら言う。ソファにしなだれかかった際に割れた着物の裾から覗く太腿が艶めかしい。「最近の温暖化でお疲れなんですか?」
「はい、それもございますが……」雪女は言う。血の気の無い紫色の唇の間から覗く白い歯が美しい。「先生はわたくしを見てどう思われます?」
「そうですね、とても美しくて色っぽいと思いますよ。話に聞いていた通りと言う気がしますが」
「それなんですよ、先生……」雪女が冷たい溜め息をついた。「わたくし、本当は雪見だいふくのような甘いものが大の好物で、ですけど、ちょっと食べてもすぐにからだの線が乱れて…… 世間では『美しい雪女』とか『色っぽい雪女』とか言われております故、それを維持するために、食べたい物を我慢して、どれだけのストレスを抱えています事か……」
 雪女はさめざめと氷の涙を流した。

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