ムハンマイドは足を止めた。そして、皆の方へと振り返る。それぞれが離れて歩いていたが、ムハンマイドが立ち止っているので、いつしかムハンマイドの周りへと集まって来る。
「どうしたのです?」リタが怪訝そうな表情でムハンマイドを見ている。「まだ先なので、ここで休憩を取ると言うのですか? 座る所も無く、飲む物も無いと言うのにですか?」
「……やれやれ、やっぱりそう考えるんだな……」ムハンマイドはリタを見て、うんざりとする。「これだから……」
「待って!」ジェシルが右手を上げて、ムハンマイドを制する。「おばあちゃんは、他の生き方を知らないのよ。だから、一方的に判断するのは良くないわ」
「だけどさ、あまりにも世間知らずだ」
「じゃあさ、あなたのお父さんに、いきなり善人をやれって言ったら、すぐに出来るの?」
「えっ……」
ムハンマイドは父親の顔を思い浮かべ、考え込んだ。
ムハンマイドの父親はシンジケートの大ボスだ。不正と不法の権化のような男で、ムハンマイドは嫌いだった。跡継ぎがイヤで親元を飛び出した経緯もある。今では完全に関係を絶っている。
「あの親父じゃ無理だな。善人をやれと言った人物は、次の瞬間には、冷たくなって、その辺に転がっているだろうね。……なるほど、そう言う事か」
「そうよ。リタおばあちゃんは、頭では分かっていても、まだ慣れていないのよ」
「ましてや、あの歳だ。変えるのは難しいか……」
「さすが、頭が良いだけあって理解が早いわね」
ムハンマイドはジェシルの褒め言葉を聞き流し、少し前方に見える建物を指差した。
「あれがボクの家だ」
皆は指を差された方を見る。十三平方ヤード程の狭そうな平屋の建物だった。土壁の外見は、築数十年を経ていると思われるほどに薄汚れ、所々が朽ちかけている。
「……ムハンマイド……」滅多に物事に動じないジェシルだったが、さすがに眉間に縦皺が寄った。「あなた一人で暮らすには充分なんだろうけど、この人数よ……」
ジェシルは周りを見回す。アーセルは唖然としボトルを傾け過ぎて中身をこぼし、ミュウミュウは困惑して両手で口元を覆い、リタはこの世の終わりのような顔でオーランド・ゼムにしがみつき、オーランド・ゼムだけはにやにやと笑っている。
しかし、ムハンマイドは、皆の様子を気にする様子も無く、先へと進む。仕方無くはぞろぞろと後に続く。
家の前に着いた。遠くから見ても厳しい家は、近くで見ると、さらにその厳しさが増して見えた。
「なんでぇ! このオンボロはよう!」我慢しきれずにアーセルが怒鳴る。「頭が良いから無駄を省きましたってか? これだけでボクちゃんは満足なんですってか? ふざけんじゃねぇぞ! こんな所に詰め込まれるぐれぇなら、オレはこの地面の上で寝てやるぜい!」
「……まあ、好きにすれば良いさ」ムハンマイドは地面に座り込んだアーセルに言う。「この星の環境は、あんたたちが来ると分かってから、あんたたちに最適になるように予め調整してあるからね。風邪を引く事は無いだろうさ」
「まあ!」ジェシルは驚く。「そんな事が出来るの?」
「出来るんだよ、ジェシル。ここはボクの星だ。ボクの思い通りに調整してあるのさ」
「さすが天才なのねぇ……」
「大した事は無いさ」
ムハンマイドはそう言うと、家のドアを開けた。ムハンマイドのすぐ後ろにジェシルが立っていた。
「あらっ!」
家を覗き込んでいたジェシルが声を上げた。
つづく
作者註:十三平方ヤードは六畳間ほどの広さです
「どうしたのです?」リタが怪訝そうな表情でムハンマイドを見ている。「まだ先なので、ここで休憩を取ると言うのですか? 座る所も無く、飲む物も無いと言うのにですか?」
「……やれやれ、やっぱりそう考えるんだな……」ムハンマイドはリタを見て、うんざりとする。「これだから……」
「待って!」ジェシルが右手を上げて、ムハンマイドを制する。「おばあちゃんは、他の生き方を知らないのよ。だから、一方的に判断するのは良くないわ」
「だけどさ、あまりにも世間知らずだ」
「じゃあさ、あなたのお父さんに、いきなり善人をやれって言ったら、すぐに出来るの?」
「えっ……」
ムハンマイドは父親の顔を思い浮かべ、考え込んだ。
ムハンマイドの父親はシンジケートの大ボスだ。不正と不法の権化のような男で、ムハンマイドは嫌いだった。跡継ぎがイヤで親元を飛び出した経緯もある。今では完全に関係を絶っている。
「あの親父じゃ無理だな。善人をやれと言った人物は、次の瞬間には、冷たくなって、その辺に転がっているだろうね。……なるほど、そう言う事か」
「そうよ。リタおばあちゃんは、頭では分かっていても、まだ慣れていないのよ」
「ましてや、あの歳だ。変えるのは難しいか……」
「さすが、頭が良いだけあって理解が早いわね」
ムハンマイドはジェシルの褒め言葉を聞き流し、少し前方に見える建物を指差した。
「あれがボクの家だ」
皆は指を差された方を見る。十三平方ヤード程の狭そうな平屋の建物だった。土壁の外見は、築数十年を経ていると思われるほどに薄汚れ、所々が朽ちかけている。
「……ムハンマイド……」滅多に物事に動じないジェシルだったが、さすがに眉間に縦皺が寄った。「あなた一人で暮らすには充分なんだろうけど、この人数よ……」
ジェシルは周りを見回す。アーセルは唖然としボトルを傾け過ぎて中身をこぼし、ミュウミュウは困惑して両手で口元を覆い、リタはこの世の終わりのような顔でオーランド・ゼムにしがみつき、オーランド・ゼムだけはにやにやと笑っている。
しかし、ムハンマイドは、皆の様子を気にする様子も無く、先へと進む。仕方無くはぞろぞろと後に続く。
家の前に着いた。遠くから見ても厳しい家は、近くで見ると、さらにその厳しさが増して見えた。
「なんでぇ! このオンボロはよう!」我慢しきれずにアーセルが怒鳴る。「頭が良いから無駄を省きましたってか? これだけでボクちゃんは満足なんですってか? ふざけんじゃねぇぞ! こんな所に詰め込まれるぐれぇなら、オレはこの地面の上で寝てやるぜい!」
「……まあ、好きにすれば良いさ」ムハンマイドは地面に座り込んだアーセルに言う。「この星の環境は、あんたたちが来ると分かってから、あんたたちに最適になるように予め調整してあるからね。風邪を引く事は無いだろうさ」
「まあ!」ジェシルは驚く。「そんな事が出来るの?」
「出来るんだよ、ジェシル。ここはボクの星だ。ボクの思い通りに調整してあるのさ」
「さすが天才なのねぇ……」
「大した事は無いさ」
ムハンマイドはそう言うと、家のドアを開けた。ムハンマイドのすぐ後ろにジェシルが立っていた。
「あらっ!」
家を覗き込んでいたジェシルが声を上げた。
つづく
作者註:十三平方ヤードは六畳間ほどの広さです
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