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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 28

2022年02月24日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
「あっ!」
 さとみは思わず声を上げる。
「むっ!」
 みつも殺気に満ちた眼差しを影に向ける。
「……何ですの?」
 冨美代は怪訝な表情でさとみたちと影とを見比べている。
「あれは、全ての元凶です……」みつが言い、そっと冨美代の前に立つ。「あれのせいで、冨美代殿も嵩彦殿も……」
「左様でございましたか……」冨美代がみつの背中越しに影を見つめる。「この破廉恥な者たちも、以前のミツルなる男装の女性も…… 許せませぬ!」
 冨美代は声を強める。そのままみつの背後から出た。すでにその両手に薙刀が握られていた。それを上段に構える。
「冨美代殿、あれには武器は通じない」みつが冨美代の肩に手を置く。「わたしも斬りかかりましたが、影は刀を捕え、宙高く上がってしまいました」
「なっ…… みつ様の剣が通じないとは……」
 冨美代は驚愕する。上段の構えを解く。
「あれが出て来たって事は、また何かするつもりなんだわ!」さとみが言って二人に振り向く。「ここは、悔しいけどいったん退却した方が良いわ!」
 また激突音と転倒音がした。囚われている男女の霊は、まだ突進を繰り返していた。
「でも、さとみ様!」冨美代が振り返り、立ち上がろうとしている者たちを見ながら言う。「皆様、これだけの努力を払っておいでです。わたくしたちが退きましたなら、どうなりましょう?」
「左様」みつもうなずく。激突音と転倒音がする。「さとみ殿、わたしたちは彼らの支えとなっておりまするぞ! ここで退けば、彼らは意気消沈し、あの屑共にますます虐げられ、活路を見いだす気力すら失せてしまうでしょう」
「でも、わたしたちだって、危険よ」さとみが言う。「影は強いし……」
「おい、まるでわたしらなんて眼中にないって話じゃないか!」割って入って来たのは葉亜富だ。「たしかに影の力を借りているけどさ、今、こうして影が現われたんだ! わたしらの力は倍増、いや、それ以上さ! 影と一緒にお前たちを消し去ってやる!」
 葉亜富は言うとにやりと笑い右の手の平をさとみたちに向ける。流人も残忍な笑みを浮かべると手元に漂うみつの刀の切っ先をさとみたちに向けた。影は揺らめいている。
「さあ、どうする?」流人が楽しそうな声で言う。「今なら、僕の所に来ることで許してあげられるよ。そうすれば葉亜富に一人分の勝ちだしさ」
「痴れた事を言うな!」みつが語気を強める。「我らはこの身が消え去ったとしても、決してお前たちには下りはしない!」
「如何にも!」冨美代が力強くうなずく。手元に薙刀が現われた。それを上段に構える。「刺し違える覚悟は出来ておりまする! わたくしたち、大和撫子の本領をお見せいたしましょうぞ!」
 ……え? わたしも勘定に入っているのぉ? さとみは戸惑う。すぐそばに自分の生身がぽうっとした顔で立っている。……みんな、わたしが生身持ちだって事を忘れているみたい。どうしよう…… そう思っている間も、霊たちの激突音と転倒音、さらには苦悶の呻きが聞こえる。……そうだわ、わたしがこんな力を持っているのも、こう言う困っている霊を導いてあげるためだわ。さとみは心を決めた。
「そうよ、そうだわ、そうなのよ!」さとみは葉亜富、流人、そして影と順番に見ながら言う。「わたしたちはみんなを助けに来たのよ! あなたたちに負けるわけにはいかないわ!」
「まあ、生意気なお嬢ちゃんね!」葉亜富がむっとした顔をする。「そんな事を言うんなら、先にお前の生身をずたずたにしてやるよ!」
「あっ!」「えっ!」みつと冨美代が同時に声を上げた。本当にさとみが生身持ちだったのを忘れていたらしい。
「さとみ殿! 今すぐお戻りを!」
「さとみ様、すぐにお逃げ下さいまし!」
 みつよ冨美代が言う。さとみはどうしようかと躊躇する。
「もう遅い!」葉亜富は言うと、かざしている手の平をさとみの生身に向けた。「ははは! ずたずたのぼろぼろになっちまいなあ!」
 葉亜富の手の平から青白い光が放たれた。……あああ、わたし『幽霊少女 さとみ』になっちゃうわ。さとみは観念して目を閉じた。
「なんだあ!」
 葉亜富の声がした。さとみが目を開ける。さとみの生身全体から金色の光が立ち昇っている。放たれた葉亜富の青白い光は霧散した。
「おばあちゃん……」さとみがつぶやく。「おばあちゃんが守ってくれた」
「畜生!」葉亜富は唸ると、手の平をさとみに向けた。「霊体のお前になら効くだろうさ!」
「女侍! 自分の刀で消えちまえ!」流人が叫ぶ。「その明治女も一緒にな!」
 葉亜富の手の平から青白い光が放たれ、流人の手元から大小の刀が飛んだ。


つづく


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