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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 23

2022年02月19日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
「さあて……」葉亜富がにやりと笑む。「もうお前だけだよ。どうしてやろうかねぇ……」
「女侍に期待しているのかい?」流人が笑いながら両手を広げる。床に落ちていたみつの刀が流人の手元まで浮かび漂ってきた。「残念だけど、刀はここだ」
「おのれ、卑怯な!」みつが語気を荒げる。「だが、素手でもお前たちを相手に出来るのだぞ!」
「そんな事をしたら、この刀、お嬢ちゃんを貫くぞ」流人が笑う。切っ先がさとみに向いた。「斬れ味が良さそうな刀だからな。貫いたら、あっと言う間に消えて無くなるんじゃないかな?」
「むっ……」
 みつは握りしめた拳をさらに強く握る。腕が怒りで震えている。
「それに、さっきも言っただろう? 君は全裸と同じだってさ」
「そんな世迷言はもう効かない!」みつが言う。「それに、その刀で貫きたいのなら、わたしにするんだな。もし、さとみ殿に手を出したなら、容赦はせんぞ!」
 流人はみつを見ている。言っていることが本心だとを見て取った。切っ先がみつへと向きを変えた。
「そうだな。カンフーオカマは気を失っているし、お嬢ちゃんは威勢は良いけど腕は無さそうだ。となると、厄介なのは君だけだな……」
「みつさん! ダメよ!」
 さとみが駈け寄ろうとする。
「動くな!」葉亜富が怒鳴る。「動くと、お嬢ちゃんの生身をずたずたにして、戻れなくしてやるよ! ……わたしたちの力は確かに借り物さ。でもね、それを最大限に使わせてもらおうって腹なんだ」
「そ、そんなぁ……」さとみの足が止まる。「狡いわよう!」
「何とでも言いな!」葉亜富は残忍な笑みを浮かべる。「さあ、流人、これで二人は流人のものだね」
「そうだな……」流人は葉亜富以上に残忍な笑みを浮かべる。「これで、葉亜富の男たちと同じ数になったな」
「そうね。またここから勝負ね」
 二人は楽しそうに笑う。
「さて、どうするのかな、お二人さん?」流人はみつとさとみを交互に見て、うっとりするような笑顔で言う。「二人とも僕の所へ来るのが正解だと思うけどなぁ……」
「そうそう!」葉亜富が可愛らしい笑顔を浮かべる。「言う事を聞かないと、侍さんは消えて無くなるし、お嬢ちゃんは戻れなくて彷徨い続けちゃうわよ」
「まあ、お嬢ちゃんは彷徨いたくなかったら僕の所へ来ると良いさ」流人が優しく言う。「でも、それだと、葉亜富に一人分が負けていることになるなぁ……」
 二人はまた楽しそうに笑う。
「……わたしがお前の所へ行く事で勘弁してもらえないか?」みつが弱々しい声で流人に言う。「さとみ殿は生身を持つ身だ。許してやってほしい……」
「みつさん!」さとみが慌てる。「何を言っているのよう!」
「さとみ殿には幾度も助けてもらっています。ここらで恩返しをしなければなりません」
「恩返しだなんて! わたしはみつさんに居てほしいの! それだけなのよ!」
「さとみ殿……」
「うわ~っ!」葉亜富が顔を両手で覆い、泣き出した。「何て素敵な友情なの! わたし感動しちゃったわぁ!」
「おいおい、葉亜富……」流人が困った顔をする。「また、いつものヤツかよ……」
 葉亜富の泣き声が止んだ。しばらくの沈黙の後、ゆっくりと笑い声が響いてきた。
「……あはははは!」葉亜富は哄笑しながら顔を上げた。「そんなお涙話、わたしには三流のお笑い以下だわ! でも、二人が真面目にやればやるほど面白かったから、何とか観賞に耐えたわね! あはははは!」
「ひどい人ね!」さとみはぷっと頬を膨らませる。「みつさんの思いを笑うなんて!」
「おや、怒ったのかい、お嬢ちゃん?」葉亜富は平然としている。「怒って、どうする? お嬢ちゃんじゃ何にもできないだろう? それにさ、それ以上わたしにごちゃごちゃ言うと、本当に生身をずたずたにするよ!」
「やめろ!」腕を振り上げて今にも何かをやろうとする葉亜富に、みつが叫ぶ。「わたしに何をしても良いから、さとみ殿は解放してくれ…… この通りだ……」
 みつはその場で土下座をした。
「みつさん!」
 さとみは駈け寄る。さとみはみつを起こそうとしている。
「お嬢ちゃん、言ったばかりだよね。そう言う三流芝居みたいなのは嫌いなんだってさ」葉亜富が低い声で言う。「もう我慢の限界だ。戻れないように生身をずたずたにしてやる!」
 葉亜富は振り上げていた手をさとみの生身に向かって振り下ろす。が、途中で止まった。
 ドアをすり抜けて何者かが突進してきて、勢いよく葉亜富にぶつかったからだ。葉亜富は床に転がる。
「何しやがんだ!」
 転がったまま、怒りに燃えた眼差しを、醜態を晒す元となった乱入者に向ける。
 乱入者は、赤いリボンを付けた庇髪に紺色の小袖の上から紺色の行燈袴に編上げのブーツと言った出で立ちの整った顔立ちの明治時代の女学生と言った様子だった。
「冨美代さん!」
 さとみが驚いた声を出す。  


つづく


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