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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 22

2022年02月18日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
「お姐さん、ちょっと言い過ぎね……」葉亜富が言う。「お仕置きが必要だわ……」
「お仕置き?」百合恵がからかうように言う。「どうするのかしら? お尻でも叩くの? それとも、『めっ!』って叱るの?」
「ふざけんじゃないわよ!」葉亜富が怒鳴る。それから冷たい笑みを浮かべ、おろおろしているしのぶを見つめる。「お姐さんにはお仕置きはしないよ。……そっちのお嬢ちゃんにだよ」
「ちょっと! ふざけないで!」百合恵はしのぶの前に立って楯になる。「この娘は、ただの傍観者、言ってみればお客さんよ。お客に手を出しちゃいけないわ」
「……百合恵さん、何の話ですか?」しのぶが弱々しい声で訊いてくる。百合恵の一方的な言葉からでも、自分に危険が近付いていることが分かる。「わたしが危ないんですか?」
「大丈夫よ、しのぶちゃん」百合恵は背中越しにしのぶに言う。「ただ、早くここから出なさい。そして、先生と一緒に逃げるのよ」
「分かりました!」
 しのぶは言うと、ドアに振り返る。ドアハンドルが熱かったのを思い出し、ドア自体に全身でぶつかった。ドアが外開きになっていたからだ。
「……百合恵さん!」
 しのぶの悲痛な声がする。百合恵は振り返る。しのぶが何度もドアに体当たりを繰り返しているが、開かなかった。
「……あいつらぁ……」百合恵はつぶやき、葉亜富たちを見る。葉亜富は右の手の平をドアに向けている。その隣で流人がにやにやしている。百合恵はドアへと振り返り声を張る。「先生! 松原先生! そちらからドアを開けて下さい!」
「え? あ、はいはい……」突然、百合恵に呼ばれ、しかも、その声が必死そうなのに松原先生は驚く。「何かあったんですか?」
「後でお話ししますわ。今はドアを開けて下さい!」
「分かりました…… って、ドアが開かないんですけど……」
「先生、ドアは外開きだから、引いて下さいな!」
「やってます!」松原先生は言う。荒い鼻息がして、ドアがほんの少し開きかけるが、すぐに戻ってしまう。「ダメだ! そっちからも押してください!」
「しのぶちゃん!」
 百合恵としのぶがドアを押す。しかし、ドアは開かない。流人と葉亜富のからかうような笑い声がしている。
「ダメです! 開きません!」しのぶが泣きそうな声で言う。「先生! 何とか開けて下さい!」
 しのぶはドアを叩く。松原先生もドアハンドルに手を掛けて引いている。百合恵は振り返り葉亜富を見る。
「この娘だけでも逃がしてやって」百合恵が弱々しい声で言う。「そうしたら、言う事を聞くわ……」
「あら、いきなりな提案ねぇ……」葉亜富が笑いながら流人を見る。「どうする? 女は流人の受け持ちだけど?」
「そうだなぁ……」流人は腕を組む。「まあ、生身じゃ僕の隣に来れないからなぁ……」
 百合恵は悔しそうに唇を噛んでいる。
「ダメです!」
 突然声がした。さとみだ。百合恵の前に立つと両腕を左右に伸ばし、楯になった。
「さとみちゃん……」百合恵がつぶやく。「危ないわよ」
「いいえ、大丈夫です!」さとみは言うと、流人と葉亜富を睨む。「みんな、この二人のおしゃべりに振り回されちゃっているだけ。それに、この二人の力はあの黒い影のもの。二人の実力なんて、なあんにも無いのと同じだわ!」
「おや、言ってくれるじゃないか!」葉亜富が言う。「今まで引っ込んでいたくせに、いきなりしゃしゃり出て来るんじゃないわよ!」
「あなたたちのおしゃべりに巻き込まれないようにしていたのよ!」さとみが胸を張る。「もう手口が分かったから、わたしに何を言っても無駄よ! あなたたちの言葉に聞く耳は持たないわ!」
「ふん! じゃあ、お前の生身を痛めつけてやろうか!」葉亜富はむっとした顔で言うと、右の手の平をぽうっとした表情で立っている生身のさとみに向けた。「吹き飛ばして傷だらけにしてやるよ!」
「百合恵さん! 今なら外へ出られるわ!」さとみが叫ぶ。「しのぶちゃんと一緒に、早く!」
「でも……」百合恵が躊躇っている。「さとみちゃんは、大丈夫なの?」
「わたしは大丈夫です! あんな連中に負けません!」
 さとみは力強く言い放つ。この言葉に流人もむっとした顔をさとみに向けた。
「さっ、しのぶちゃん、今なら出られるわ!」
 百合恵は言うと、しのぶの背を押した。二人がドアに寄り掛かる。ドアは難なく開いた。廊下に出ると、松原先生が驚いた顔をして立っていた。
「栗田! しっかりしろ!」松原先生は倒れそうになったしのぶの肩を押さえた。「百合恵さん…… これは一体……?」
「説明は後で……」百合恵は言うと、ドアハンドルに手を掛けて引いた。ドアはびくともしない。「これは……」
 百合恵はドアを手の平で叩き始め、大きな声を出した。
「さとみちゃん! 大丈夫なの?」
 返事はなかった。


つづく


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