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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 29

2022年02月25日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
「え? 何で?」さとみ自身が驚く。「これも、おばあちゃん?」
 葉亜富に青白い光を放たれたさとみだったが、生身と同様に全身が金色の光で包まれたのだ。そして、生身同様、青白い光は霧散した。
 さとみは自身の生身を見ると、まだ金色の光に包まれている。
「おばあちゃんの力って、凄いんだぁ……」
 さとみは呆気にとられたように感心している。葉亜富は地団太を踏んで悔しがっている。
「はあっ!」
 冨美代の気合いが響き、流人の放った脇差は床に払い落された。
 太刀はみつの顔に目がけて飛んだ。
「ふむっ!」
 みつの静かな気合がし、両手の平を顔の前で合わせた。みつが白刃取りをしたのだ。切っ先が額すれすれで止まっている。素早く柄を持ち、切っ先を流人たちに向ける。
「ふん、女侍だ明治女だと、散々な事を言ってくれたな!」みつが流人を睨みつける。「お前たちには天誅が相応しい……」
「如何にも!」みつの横で冨美代が薙刀を中段に構える。「借り受けた力と、真の力の差を思い知るがよろしいでしょう!」
「おい、影さんよう!」葉亜富が影に振り返る。「力を貸してくれよう! このままじゃ、ヤバいよう!」
「そうだ! 手を貸してくれよう!」流人も叫ぶ。「こいつら、マジだからよう!」
 影は揺らめきながら向きをさとみたちへと変えた。みつは刀を正眼に構え、冨美代は薙刀の刃先を上に向けて八相の構えを取る。さとみの全身から上る金色の光は輝きを増す。
「ははは! 影さんは強いよ! 諦めな!」葉亜富が我が事のように言って笑う。「流人! 囚えている下僕の数は、わたしの方がまだ上だからね!」
「そうだな」流人も含み笑いをする。「まあ、これから頑張るさ」
「何よ、結局はあなたたちじゃ何にも出来ないって事じゃない……」さとみは呆れたように言う。「まあ、他人を騙して生きてきたんだから、自分で何とかしようなんて無理よねぇ……」
「うるさい!」葉亜富が怒鳴る。「何よ! ちょっと金色に光っているからって、偉そうに!」
「偉そうになんてしてないわ! これはおばあちゃんが守ってくれているおかげよ!」
「な~んだ、お前だって自分の力で何とかできないじゃないか!」
「そうよ。でもあなたたちみたいに当てになんかしていないわ!」
 と、そこへまた激突音がした。転倒音もする。しかし、それに続く呻き声は無かった。さとみは振り返る。
「あっ!」
 さとみは思わず声を上げた。そこには障壁を超えてこちら側へとなだれ込みながら倒れている霊たちがいたからだ。
「みつさん! 冨美代さん!」
 さとみが二人に呼びかける。しかし、二人とも刀と薙刀を影に向けたままだ。
「なぜ? なぜ乗り越えらえたのよう!」葉亜富が叫ぶ。「まさか……」
 葉亜富が影を見る。影はすうっとその姿を消した。それが切っ掛けとなったかのように、倒れていた霊たちが起き上がり、トイレのドアや壁から次々と外へと抜け出して行った。みつも冨美代も構えを解いて、逃げ出す霊たちを見ていた。
「おい、ちょっと、待ちなよ!」葉亜富が怒鳴るが、聞く者はいなかった。「待てって言ってんだろうがぁ!」
「……ダメだよ、葉亜富」流人が首を横に振る。「僕たちは見捨てられたのさ、あの影野郎にね……」
「そ、そんな……」
「下僕たちが障壁を突き破ったのも、影が力を貸さなくなったからじゃないかな? 元々、僕たちにはそんな力なんか無かったろう?」
「そうだけど……」
「理由は分からないけど、僕たちはお払い箱になったんだよ」
「どうして……」葉亜富はつぶやくと、はっと気がついたようにさとみたちを睨み付けた。「お前たちだ! お前たちが来たせいだ! そのせいで影さんが居なくなっちまったんだ!」
「それはどうなのかは分からないけど」さとみが言う。「あなたたちの負けよ。このままどこかへ行くのなら止めないわ。その代り二度とこんな事はしないで」
「ははは、したいと思っても、もうそんな力は無いよ、お嬢ちゃん」流人が笑む。「僕たちの力はあの影から受けたものだからね。ま、テレビと同じで、スポンサーがいなくなれば番組が続けられないのさ。もう大人しくして彷徨っているよ」
「ふざけた事言わないでよ、流人!」葉亜富が声を荒げる。「わたしは気に入っていたんだ! 生きていた時と同じように、男たちを手玉に取ってさ、弄んでぼろぼろにしてやるのがさ! それを奪ったのは、こいつらだ! 許せないよ!」
「許せないって言っても、もうどうこうする力なんて無いんだぞ?」流人が言う。「向こうは刀に薙刀、それに金色に光るお嬢ちゃんだ。勝負は見えているだろう?」
「やってみなくちゃ分からないさ! それに、この姿を見ろよ!」葉亜富はその場で一回りして見せる。「まだ大丈夫じゃないか! と言う事は、力は残っているんだ!」
「影野郎が消えたんだ! 見捨てられたんだ! いつまでも続きはしない! それが分からないお前じゃないだろう?」
「うるさい!」
 必死に説得する流人に向かって葉亜富は怒鳴ると、右手の平を突き出す。冨美代が払い落とした脇差が浮き上がり、葉亜富の手元まで来た。その柄を握る。
「どうだい、流人!」葉亜富が得意気に脇差を高く掲げる。「まだまだ力はあるって事さ! さあ、どいつを刻んでやろうか……」
「やめて!」さとみが叫ぶ。「あなたの腕じゃ、みつさんにも冨美代さんにも敵わないわ! 二人で大人しく立ち去るのが一番良いわ!」
「生意気ぬかすな!」葉亜富がさとみを睨みつける。「そうだ…… お前ならわたしでも倒せそうだな。わたしの霊波は消し飛ばされたけど、直接攻撃なら消せはしないだろうさ!」
「戯け者が!」みつが一喝し、刀を構え直す。「みすみすさとみ殿を討たせると思うのか!」
「そうです!」冨美代も薙刀を構える。「立ち去りなさい! 無駄な争いは致したくありません!」
「お願い、もう終わりにして……」さとみは葉亜富を見つめる。その目に涙が溢れて頬を伝った。「……みんなあの黒い影が悪いんだわ。あなたたちは操られただけ…… そんな霊たちをわたしは見て来たわ。あの影に関わらなければ、いずれはあの世に旅立って、生まれ変わることが出来たはずよ。だから、あなたたちも、あんな影から離れて、心穏やかにして旅立ってほしいの……」
「……お嬢ちゃん……」葉亜富がだらりと脇差を持つ右手を下げた。「こんなわたしの、わたしたちのために涙を流してくれるのかい? あんた、優しいんだね……」
 葉亜富は腕を下げ、顔を伏せたまま、さとみの方へとよろよろと歩く。みつと冨美代は構えを解いた。
「……わたしが悪かったよ」葉亜富はさとみの前に立った。ゆっくりと顔を上げた。その顔には憎しみがあった。「な~んて言うと思ったのかい! この野郎!」
 葉亜富は脇差をさとみに突き入れた。


つづく


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