「ねぇ、ねぇ・・・」
葉子は黙々と歩く妖介に声をかけ続けながら後について行った。しかし、妖介は足を止めなかった。逆に足を速めた様だった。
葉子は堪りかねて走り出し、妖介の前に立ちはだかった。妖介はむっとした顔をして足を止めた。
「何のつもりだ?」
妖介のやや銀色がかった瞳が凶悪な光を発している。葉子はたじろいで一瞬視線をはずしたが、意を決した様に、妖介を正面から見据えた。
「さっき、何をやったのよう?」
「さっき・・・?」
妖介は怪訝そうな顔で葉子をにらみ返した。・・・もう、覚えていないのかしら、この人は! 葉子は驚き、そして呆れた。
「ほら、不良に囲まれて・・・」
「ああ、あれか・・・」妖介は犬歯を覗かせた。「あれが、どうかしたのか?」
「どうって・・・」
葉子はどう答えて良いのか分からず、下を向いてしまった。
「わけの分からない事で、オレの前まで来て立ち止まるな!」
妖介は葉子の横をすり抜けようとした。とっさに葉子は妖介の腕をつかんだ。妖介は立ち止まり、無言でにらみつけた。葉子はあわてて手を離した。
「何なんだ!」
面倒臭そうに妖介が怒鳴った。
「・・・」葉子は再び妖介を見据えた。「あの不良の子、腕が・・・おかしくなちゃったじゃない」
葉子の批判めいた口調に、妖介はさらに犬歯を覗かせた笑みを浮かべた。
「世間知らずのガキのくせに、オレに手を出そうとしやがるからだ。ああ言うバカ共には、大人の怖さを教えてやらないと、碌な者にならない」
「でも、あんな風にしなくても・・・」
「お前も見ていただろう? オレは何もしてはいないぜ」
「そんなわけないじゃない!」小馬鹿にした笑みを浮かべ続ける妖介に葉子は腹を立てた。「何もしないで、腕があんな事になるわけないでしょう!」
「オレはただ軽く念じただけだ。『潰れろ、折れろ』ってな。ごちゃごちゃ言ってると、お前にも念じてやるぜ。『淫乱全開』ってな」
「・・・」この人なら、ありえる話だわ・・・ 葉子は思い切り嫌な顔をして見せた。「・・・とにかく戻って早く医者に連れて行かないと」
「一緒のバカ共が連れて行くさ。・・・いや、面倒になるから逃げ出したかもな。それに手遅れだよ。あのガキの腕は一生あのままだ」
「あなたは!」葉子が怒鳴った。自分でも驚くほど大きな声だった。行き交う人が振り返った。葉子はかまわず続けた。それ程腹が立っていた。「あなたは妖魔以外の事はどうでも良いの!」
妖介は無言で葉子をにらみつけた。葉子も負けじと見返す。妖介はふっと視線をはずした。
「・・・そうだ。余計な事に関わっている暇はない」
妖介は言うと、葉子を跳ね飛ばす様にして歩き出した。・・・なんだか、寂しそうな顔をしていたわ・・・ 葉子は妖介の後ろ姿を見ながら思った。腹立たしさが急に失せてしまった。何か辛い過去でもあったのかしら・・・
「あっ、そこは右に行ってよう!」
四つ角を左へ行きかけた妖介に向かって葉子は叫んだ。妖介は足を止め、振り返った。見慣れた不機嫌な顔になっている。
「お前、オレに指図する気か?」
「そうじゃないけど、公園に寄ってくれるって言ったじゃない」
妖介は舌打ちをすると、右へと進んだ。
つづく
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葉子は黙々と歩く妖介に声をかけ続けながら後について行った。しかし、妖介は足を止めなかった。逆に足を速めた様だった。
葉子は堪りかねて走り出し、妖介の前に立ちはだかった。妖介はむっとした顔をして足を止めた。
「何のつもりだ?」
妖介のやや銀色がかった瞳が凶悪な光を発している。葉子はたじろいで一瞬視線をはずしたが、意を決した様に、妖介を正面から見据えた。
「さっき、何をやったのよう?」
「さっき・・・?」
妖介は怪訝そうな顔で葉子をにらみ返した。・・・もう、覚えていないのかしら、この人は! 葉子は驚き、そして呆れた。
「ほら、不良に囲まれて・・・」
「ああ、あれか・・・」妖介は犬歯を覗かせた。「あれが、どうかしたのか?」
「どうって・・・」
葉子はどう答えて良いのか分からず、下を向いてしまった。
「わけの分からない事で、オレの前まで来て立ち止まるな!」
妖介は葉子の横をすり抜けようとした。とっさに葉子は妖介の腕をつかんだ。妖介は立ち止まり、無言でにらみつけた。葉子はあわてて手を離した。
「何なんだ!」
面倒臭そうに妖介が怒鳴った。
「・・・」葉子は再び妖介を見据えた。「あの不良の子、腕が・・・おかしくなちゃったじゃない」
葉子の批判めいた口調に、妖介はさらに犬歯を覗かせた笑みを浮かべた。
「世間知らずのガキのくせに、オレに手を出そうとしやがるからだ。ああ言うバカ共には、大人の怖さを教えてやらないと、碌な者にならない」
「でも、あんな風にしなくても・・・」
「お前も見ていただろう? オレは何もしてはいないぜ」
「そんなわけないじゃない!」小馬鹿にした笑みを浮かべ続ける妖介に葉子は腹を立てた。「何もしないで、腕があんな事になるわけないでしょう!」
「オレはただ軽く念じただけだ。『潰れろ、折れろ』ってな。ごちゃごちゃ言ってると、お前にも念じてやるぜ。『淫乱全開』ってな」
「・・・」この人なら、ありえる話だわ・・・ 葉子は思い切り嫌な顔をして見せた。「・・・とにかく戻って早く医者に連れて行かないと」
「一緒のバカ共が連れて行くさ。・・・いや、面倒になるから逃げ出したかもな。それに手遅れだよ。あのガキの腕は一生あのままだ」
「あなたは!」葉子が怒鳴った。自分でも驚くほど大きな声だった。行き交う人が振り返った。葉子はかまわず続けた。それ程腹が立っていた。「あなたは妖魔以外の事はどうでも良いの!」
妖介は無言で葉子をにらみつけた。葉子も負けじと見返す。妖介はふっと視線をはずした。
「・・・そうだ。余計な事に関わっている暇はない」
妖介は言うと、葉子を跳ね飛ばす様にして歩き出した。・・・なんだか、寂しそうな顔をしていたわ・・・ 葉子は妖介の後ろ姿を見ながら思った。腹立たしさが急に失せてしまった。何か辛い過去でもあったのかしら・・・
「あっ、そこは右に行ってよう!」
四つ角を左へ行きかけた妖介に向かって葉子は叫んだ。妖介は足を止め、振り返った。見慣れた不機嫌な顔になっている。
「お前、オレに指図する気か?」
「そうじゃないけど、公園に寄ってくれるって言ったじゃない」
妖介は舌打ちをすると、右へと進んだ。
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