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ジェシル、ボディガードになる 54

2021年03月02日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「さあて、お宝もこうして手に戻ったし、そろそろここを出ようぜ」
 アーセルは言うと部屋を出た。エリスとダーラが嬉しそうな顔でそれに続く。ノラはうんざりした顔で続く。
 通路に出て、アーセルは、先程とは反対側の、突き当りになっている壁を前にする。アーセルは振り返って、三人ににやりと笑って見せた。
「何よ?」ノラが口を尖らせる。「この壁の向こうにさらに通路があって、その先が出口になっているって言うのかしら?」
「ちっ!」アーセルはたちまち不機嫌な顔になって舌打ちをする。「娘っ子よう! お前ぇは本当に可愛げが無ぇ!」
「お宝の時は気を利かせてあげたじゃない? 毎度毎度気を利かせてあげるつもりはないわ」
「毎度毎度って、お宝の一回きりじゃねぇか! 良いか、娘っ子! 年寄りは花を持たせるもんだぜ!」
「ほうら、また! 自分の都合で年寄りにならないでよね!」ノラはむっとする。「そんな事よりも、さっさとここを開けなさいよ!」
「……ったくうっせぇ娘っ子だぜぇ! お前ぇが結婚したら、旦那は早死にだな!」
「ふん! そんなヤワな男とは結婚しないわよ!」
 ノラとアーセルは睨み合う。
「……あの、アーセルさん……」ダーラがおずおずと割り込む。「……早くしませんか……?」
「おう、そうだよなぁ!」アーセルはダーラスに笑顔を向け、うなずく。「この娘っ子もよう、こんな風にしおらしく頼みゃあよ、二つ返事で言う事を聞いてやろうって気になろうってもんだぜ」
「ふん!」ノラが鼻を鳴らす。「しおらしくしたらしたで、似合わないとか何とか文句を言うんでしょ?」
「……まあ、そうだな」アーセルはノラを小馬鹿にしたように見る。「お前ぇはな、何をどうやったって、可愛くねぇんだよ!」
 ノラが言い返そうとする前に、アーセルは壁に一部を押した。その部分が崩れ、中からお宝を取り出した際に用いたのと同じ型のテンキーパネルが現れ、オレンジ色に光っていた。
「どうでぇ? 仕掛けを覚えていたぜぇ?」
「はいはい、すごいすごい」自慢げなアーセルに向かってノラは手を叩く。しかし感情はこもっていない。「……それよりもさ、また、テンキーなの?」
「そうだ。悪いかよ?」
「悪くは無いけどさぁ……」ノラは呆れたように言うと、崩れて床に散らばった壁の欠片を見る。「これじゃ、数字が分からないじゃないの?」
「ふあっふあっふあっ!」アーセルは勝ち誇ったように笑う。「お前ぇは知恵が足りねぇな。一々新しい数字を決めるなんて面倒な事をするわけねぇだろうがねぇよ。お宝の時と同じ数字でぇ。……さあ、娘っ子、打ち込みやがれ」
「覚えているわけないじゃない!」ノラはむっとする。「あなたの代わりに打ち込んであげただけなんだから!」
「何でぇ、使えねぇ!」アーセルは悪態をつく。「……じゃあよ、あのタイルを持って来い」
「自分で行けばぁ?」
「年寄りをこき使おうってぇのかよ! ひでぇ娘っ子だぜ!」
「また、自分の都合で!」
 二人はまた睨み合う。
「……あの……」エリスがおずおずと割って入る。手にはタイルを持っていた。それを二人に向かって差し出した。「……これ……」
「おおおっ! 何てぇ気の利く娘っ子だぁ!」アーセルは大仰に感激して見せる。「重くは無かったかい? 大変だったよなぁ…… それもこれも、このぺったんこな娘っ子が言う事を聞かねぇのがいけねぇんだよなぁ……」
「ふん! な~にが重くは無かったかい、よ!」ノラはアーセルに向かってべえと舌を出す。それからエリスに振り返る。「エリスもさ、放っておけば良かったのよ! このおじいちゃんに取りに行かせば良かったのよ!」
「……でも、早くここから出たくって……」エリスは涙ぐむ。大粒の涙が左右の目から溢れて頬を伝う。「……余計な事をしちゃって、ごめんなさい……」
「こら、娘っ子!」アーセルはノラを叱る。「仲間を泣かすたぁ、どうしようもねぇヤツだ! 少しは黙って言う事を聞きやがれってんだ!」
 ノラはぷっと頬を膨らませて黙ってしまった。すすり泣くエリスをダーラが「ノラに悪気があったわけじゃないのよ」と言いながら、優しくなだめている。アーセルはタイルを見ながら数字を打ち込む。ブザー音は鳴らなかった。しかし、壁は開かない。
「……どうなってやがるんだ?」アーセルはテンキーパネルの数字とタイルの数字とを見比べる。「……間違っちゃいねぇがなぁ……」
「……アーセルさん……」ダーラが不安そうに声をかける。「壊れているの……?」
「う~ん……」何度も数字を見比べながらアーセルは唸る。「とにかく、手順に間違いは無ぇ。……まあ、使った事が無ぇからなぁ、壊れちまったのかもしれねぇ……」
「じゃあ、出られないの?」エリスは呟くと、また泣き出した。「やっぱり、ここから出られない運命なんだわ…… また辛い日々が始まるのね……」
「おい、娘っ子!」アーセルがノラに向かって怒鳴る。「何とかしやがれ!」
 エリスとダーラもノラを見る。懇願の表情をしている。ノラは大きく溜め息をついた。
「……分かったわよ……」ノラはポシェットから熱線銃を取り出す。「危ないから、ちょっと下がっていてね」
 ノラは壁に銃口を向け、引き金を引いた。熱線を壁に周囲に沿って、壁を切り取るように発射する。熱線を一周させ終わると、壁はぐらりと揺れて、奥に向かって倒れ、大きな音を立てた。
 壁の奥に通路が現れた。


つづく

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