ナナは何とか逸子を落ち着かせ、今はタケルに説教をしている。
「タケル! どうしてあなたはそうなのよ! お姉様を怒らせる事ばかり言って!」
「いや、それは…… ごめんなさい……」タケルはぷりぷりしているナナに謝った。「思ったことがつい口をついてしまって…… 悪気はないつもりなんだけど……」
「つもりじゃダメよ! あなたはいっつもいっつもそうなんだから!」
「まあまあ……」落ち着いた逸子が割って入る。「わたしもコーイチさんの事となると我を忘れてしまうのがいけないんだから……」
「そんな事ないわ、お姉様!」ナナが息巻く。「わたし、お姉様の一途さに感動しているのよ。……それをタケルったら!」
「悪かったって言ってんだろう!」
「何よ、それ? 逆切れ?」
「しつこいからだろう!」
「あなたが性格を直そうとしないからでしょ!」
「まあまあ……」逸子が再び割って入る。「……でも、気になるわね。アツコのエデンの園だなんて……」
すうっと風が起きる。いがみ合っていたナナとタケルは顔を見合わせ、あわてて逸子を慰めた。
「落ち着いて、お姉様!」
「コーイチさんは立派な人だ、アツコなんかには負けない……と思う……」
「タケル! また余計な事を!」
「だって、ボクはコーイチさんに会った事ないんだぜ!」
「じゃあ、他の言い方を考えれば良いじゃない!」
「どんな言い方だよ!」
二人のやり取りの間に風が治まった。逸子が「まあまあ……」言い合う二人の間に割って入った。
「……良いなあ……」
そうぽつりと言ったのはタロウだった。逸子たちがタロウを見ると、タロウは涙ぐんでいた。
「ボクも、ボクを思ってくれる人が欲しかった…… 楽しく言い合いが出来る相手が欲しかった……」タロウは座り込んだ。「でも、アツコはボクを嫌っていた。喧嘩らしいこともほとんどなかった…… 逸子さんだって、コーイチさんコーイチさんって、ボクなんか眼中にない…… ああ、ボクってどうしてこんなに不幸なんだろう!」
タロウが顔を手で覆って泣き出した。逸子たちは困ったような表情で互いを見合った。ナナはそっとタロウに近づいた。
「……でも、タロウさん」ナナがタロウの傍らに片膝を付いて話しかけた。「……あなたは頭が良くって、外見だって良いじゃない? 今はきっと出会いのタイミングが悪いだけなのよ。近々、きっとぴったりの相手が見つかるわよ」
「……アツコも、逸子さんもダメなのに……?」
泣き声の間からタロウは言った。ナナは大きくうなずいて見せた。
「ええ、大丈夫よ」ナナは優しい声で励ます。「あなたに相応しい人がきっと居るわ」
「そうだよ、タロウさん」タケルも声をかける。「ところで、タロウさん」
タケルの妙に明るい声にタロウは思わず顔を上げ、タケルを見た。タケルはにやにやしている。
「……あのさ、ナナはどうだい?」タケルはナナを顎でしゃくってみせた。「まあまあだと思うけどなぁ……」
まあまあという言葉に反応し、ナナはじろりとタケルをにらむ。しかし、タケルは平気な顔をしている。むしろ、ナナとタロウの縁結びを買って出たボクってなんて良いヤツなんだろうと言う顔をしているし、そうも思っていた。
「ナナさん…… ですか……」タロウは、自分を優しく励ましてくれている目の前のナナをしげしげと見つめる。「ナナさん……」
「……タロウさん……」ナナは一心に見つめてくるタロウに心穏やかならぬものを少しだけ感じた。しかし、感情に流されてはいけない、今はコーイチさんが優先だ、ナナは気を引き締めた。「……タケルの言った事なんか気にしないでね」
「……そう、ですね」タロウは立ち上がった。「言う通りにします。気にしない事にしますね!」
妙に晴れ晴れとしたタロウの顔をナナは呆れた顔で見上げる。
「そう…… それは良かったわ……」ナナの中に複雑な感情が渦巻く。「……良かったのよね……」
「はい! 良かったんです! やっぱりぼくは逸子さんが好きなんです。アツコとも仲を戻したいとも思うんですが、今は逸子さんです」
「ダメよ、わたしにはコーイチさんがいるのよ!」
「逸子さん…… 誰がいようと、ボクの気持ちは変わらないんです!」
「おいおい、それじゃあ、ボクの面目が立たないよ」タケルが口をはさんだ。文句の割にはにやにやしている。「せっかく、ナナを薦めたんだぜ」
「はい、ナナさんですね……」タロウはじっとナナを見る。それからタケルに顔を向ける。「……すみません、やっぱりボクは逸子さんです……」
「だからあ! わたしにはコーイチさんがいるの!」
「逸子さん! あなたがどう言おうとも、自分の感情は抑えられません!」
ナナは無言で無表情で立ち上がるとタケルの方へ向かった。そして、右耳を引っ張りながら部屋の隅へと連れて行く。
「いたたたた……」タケルは叫ぶ。ナナはやっとタケルの耳から手を離した。「痛いじゃないか!」
「なによ、なによ!」ナナは怒っている。「わたしに恥をかかせて楽しいの?」
「そんなつもりなんかないよ! タロウさんが落ち込んでいるから、元気付けようと思ったのさ」
「でも、わたしは選ばれなかったのよ! アツコと逸子さんが選ばれて、どうしてわたしが選ばれなかったのよ! わたしの何が悪いのよ! わたしだってタイムパトロールのポスターになるほどなのよ!」
「知らないよ! 直接聞いてみろよ!」
「恥の上塗りなんかできないわよ!」
「……じゃあさ、こう言う事だ」タケルが軽く咳払いをする。「タロウさんは古風な人が好きなんだよ。ほら、ナナはタロウさんから見れば未来人だろう? きっと好みが合わないんだよ」
「見た目でわかるわけないじゃない! ふざけないでよ!」
ナナの頬がぷっと膨れ、右手が動いた。
つづく
「タケル! どうしてあなたはそうなのよ! お姉様を怒らせる事ばかり言って!」
「いや、それは…… ごめんなさい……」タケルはぷりぷりしているナナに謝った。「思ったことがつい口をついてしまって…… 悪気はないつもりなんだけど……」
「つもりじゃダメよ! あなたはいっつもいっつもそうなんだから!」
「まあまあ……」落ち着いた逸子が割って入る。「わたしもコーイチさんの事となると我を忘れてしまうのがいけないんだから……」
「そんな事ないわ、お姉様!」ナナが息巻く。「わたし、お姉様の一途さに感動しているのよ。……それをタケルったら!」
「悪かったって言ってんだろう!」
「何よ、それ? 逆切れ?」
「しつこいからだろう!」
「あなたが性格を直そうとしないからでしょ!」
「まあまあ……」逸子が再び割って入る。「……でも、気になるわね。アツコのエデンの園だなんて……」
すうっと風が起きる。いがみ合っていたナナとタケルは顔を見合わせ、あわてて逸子を慰めた。
「落ち着いて、お姉様!」
「コーイチさんは立派な人だ、アツコなんかには負けない……と思う……」
「タケル! また余計な事を!」
「だって、ボクはコーイチさんに会った事ないんだぜ!」
「じゃあ、他の言い方を考えれば良いじゃない!」
「どんな言い方だよ!」
二人のやり取りの間に風が治まった。逸子が「まあまあ……」言い合う二人の間に割って入った。
「……良いなあ……」
そうぽつりと言ったのはタロウだった。逸子たちがタロウを見ると、タロウは涙ぐんでいた。
「ボクも、ボクを思ってくれる人が欲しかった…… 楽しく言い合いが出来る相手が欲しかった……」タロウは座り込んだ。「でも、アツコはボクを嫌っていた。喧嘩らしいこともほとんどなかった…… 逸子さんだって、コーイチさんコーイチさんって、ボクなんか眼中にない…… ああ、ボクってどうしてこんなに不幸なんだろう!」
タロウが顔を手で覆って泣き出した。逸子たちは困ったような表情で互いを見合った。ナナはそっとタロウに近づいた。
「……でも、タロウさん」ナナがタロウの傍らに片膝を付いて話しかけた。「……あなたは頭が良くって、外見だって良いじゃない? 今はきっと出会いのタイミングが悪いだけなのよ。近々、きっとぴったりの相手が見つかるわよ」
「……アツコも、逸子さんもダメなのに……?」
泣き声の間からタロウは言った。ナナは大きくうなずいて見せた。
「ええ、大丈夫よ」ナナは優しい声で励ます。「あなたに相応しい人がきっと居るわ」
「そうだよ、タロウさん」タケルも声をかける。「ところで、タロウさん」
タケルの妙に明るい声にタロウは思わず顔を上げ、タケルを見た。タケルはにやにやしている。
「……あのさ、ナナはどうだい?」タケルはナナを顎でしゃくってみせた。「まあまあだと思うけどなぁ……」
まあまあという言葉に反応し、ナナはじろりとタケルをにらむ。しかし、タケルは平気な顔をしている。むしろ、ナナとタロウの縁結びを買って出たボクってなんて良いヤツなんだろうと言う顔をしているし、そうも思っていた。
「ナナさん…… ですか……」タロウは、自分を優しく励ましてくれている目の前のナナをしげしげと見つめる。「ナナさん……」
「……タロウさん……」ナナは一心に見つめてくるタロウに心穏やかならぬものを少しだけ感じた。しかし、感情に流されてはいけない、今はコーイチさんが優先だ、ナナは気を引き締めた。「……タケルの言った事なんか気にしないでね」
「……そう、ですね」タロウは立ち上がった。「言う通りにします。気にしない事にしますね!」
妙に晴れ晴れとしたタロウの顔をナナは呆れた顔で見上げる。
「そう…… それは良かったわ……」ナナの中に複雑な感情が渦巻く。「……良かったのよね……」
「はい! 良かったんです! やっぱりぼくは逸子さんが好きなんです。アツコとも仲を戻したいとも思うんですが、今は逸子さんです」
「ダメよ、わたしにはコーイチさんがいるのよ!」
「逸子さん…… 誰がいようと、ボクの気持ちは変わらないんです!」
「おいおい、それじゃあ、ボクの面目が立たないよ」タケルが口をはさんだ。文句の割にはにやにやしている。「せっかく、ナナを薦めたんだぜ」
「はい、ナナさんですね……」タロウはじっとナナを見る。それからタケルに顔を向ける。「……すみません、やっぱりボクは逸子さんです……」
「だからあ! わたしにはコーイチさんがいるの!」
「逸子さん! あなたがどう言おうとも、自分の感情は抑えられません!」
ナナは無言で無表情で立ち上がるとタケルの方へ向かった。そして、右耳を引っ張りながら部屋の隅へと連れて行く。
「いたたたた……」タケルは叫ぶ。ナナはやっとタケルの耳から手を離した。「痛いじゃないか!」
「なによ、なによ!」ナナは怒っている。「わたしに恥をかかせて楽しいの?」
「そんなつもりなんかないよ! タロウさんが落ち込んでいるから、元気付けようと思ったのさ」
「でも、わたしは選ばれなかったのよ! アツコと逸子さんが選ばれて、どうしてわたしが選ばれなかったのよ! わたしの何が悪いのよ! わたしだってタイムパトロールのポスターになるほどなのよ!」
「知らないよ! 直接聞いてみろよ!」
「恥の上塗りなんかできないわよ!」
「……じゃあさ、こう言う事だ」タケルが軽く咳払いをする。「タロウさんは古風な人が好きなんだよ。ほら、ナナはタロウさんから見れば未来人だろう? きっと好みが合わないんだよ」
「見た目でわかるわけないじゃない! ふざけないでよ!」
ナナの頬がぷっと膨れ、右手が動いた。
つづく
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